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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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20/21

第20話 徳永さん

「徳永寿恵さーん。おはようございます。」

陽子が徳永さんを呼び入れた。


徳永さんは92歳。白内障と初期の緑内障で通院している。

シャキッと伸びた背中にテクテクと軽快に歩く姿は92歳には見えない。

”名は体を表す”と言うが、本当に元気なおばあちゃんだ。


「徳永さん。目の調子はどうですか?」

ひとみの質問に徳永さんはいつもの返事を返した。

「前よりは見にくくなってきてるけど大丈夫。まだ見えてます。」


白内障は目の中にある水晶体というレンズが老化で濁るものだ。

徳永さんは年齢の割には濁りは少ないが、最近は徐々に進行し視力も低下傾向だ。

「富岡さんと手術は絶対しないわよねって言ってるんです。」

これも定番の決まり文句だ。


富岡さんというのは徳永さんの友達で、徳永さんより10歳以上若い。

少し年齢は離れているが気が合うようで仲がいい。

そして、二人で”手術は絶対受けない同盟”を結成しているのだ。


徳永さんはまだいいけど、富岡さんは結構視力も悪いのになあ・・・。


白内障は加齢によるものだが、濁りの進行は個人差がある。

富岡さんの白内障は視力的にも手術適応が十分あり、ひとみも何回か手術を勧めたが頑なに頷かない。同盟の影響もあるのだろう。


高齢の方の中には”もう年だから・・・”と手術を断固拒否する人が一定数いるのだ。

ひとみは先日来院した戸田さんというおじいさんのことを思い返した。

戸田さんも87歳と高齢だった。

溌溂とした元気なおじいさんだ。


「両眼とも白内障が進んで矯正視力が0.1以下です。手術された方がいいですよ。」

ひとみの言葉に戸田さんは反論した。

「まだ見えてます。今日も自転車に乗ってきました。」

「この視力で自転車は危ないですよ。」

「大丈夫です。車に轢かれて死んでも仕方ないと思って覚悟して乗ってます。」

戸田さんは胸を張って言いきった。

「・・・。」


いやいや、戸田さんはそれでいいかもしれないけど。飛び出てきた戸田さんをうっかり轢いてしまった車の運転手さんのことも考えようよ・・・。

それが例えば18歳の青少年とかなら気の毒すぎる。


結局、戸田さんは手術は受けないと言い切って帰って行った。


そして今日来た徳永さんも、戸田さんと同様に手術の話は進まなかった。


「先生、これいつものやつよ。どうぞ。」

帰り際、徳永さんがチョコレートを渡してきた。

”ストレスに打ち勝つ!ギ〇バ入り”と表に書かれている。

毎回受診の度にこのチョコをくれるのだ。

一度に5袋くれるので、実は休憩室に消費しきれないギ〇バ入りチョコが蓄積していっているのだが・・・。

「いつもありがとうございます。」

ひとみは笑顔でチョコを受け取った。


そして徳永さんが帰った後、頂いたチョコレートをつまみながらつぶやいた。

「それにしても、私、そんなストレス多そうに見えるのかしらね・・・?」



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