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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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第1話 浅井さん

 S市は県庁所在地N市に隣接するベッドタウンだ。N市は日本でも有数の大都市だが、S市はかつての繁栄から衰退の一途で人口も減りつつあるちょっと寂れた町だ。


 相田ひとみの働くひまわり眼科医院はそんなS市の中ではまあまあ大きめの駅の駅前にあった。

年配の理事長が経営するその医院で、ひとみは午前中の外来診療を任されていた。

ここで働き出して、今年で10年目になる。


「浅井佐紀さーん。おはようございます。」

診療助手の陽子が一人目の患者さんを診察室に呼び入れた。

ひとみはカルテを見た。

浅井佐紀、38歳。初診の患者さんだ。


「おはようございます。今日はどうされました?」

「主人の足が目に当たってから物が二重に見えるんです。」


足が目に・・・?


「なるほど・・・。どういう状況で当たったんですか?」

浅井さんは一瞬言いよどみもじもじしていたが、意を決したように言い切った。

「逆立ちをしていて、私が足を持つはずだったのですが掴み損ねてしまって・・・。」

「逆立ち・・・。」


浅井さんは当たった方の目の動きが悪くなっており、眼窩底骨折が疑われたたため手術が出来る形成外科のある大きな病院に紹介となった。

眼窩底骨折とは目の周りの薄い骨が折れて、そこに目の組織や筋肉が絡んで目の動きが悪くなり物が二重に見えるようになる外傷だ。

何もしないで経過をみることもあるが、CTなどを撮ってからの判断になるので診療所レベルでは診れないのだ。


その後、総合病院から手術になったという返事がきた。


ひとみは陽子に言った。

「最近、家で目に怪我する人が多いわねえ。」

「あ、先週の卓球の人とかですか?」

「そうそう。」


先週来院した青田さんは40代の男性だ。

ボールが目に当たり右目が見えなくなったと受診に来た。

目を診ると右目の目の中が血だらけになっていた。

目は前の部屋と後ろの部屋に分かれているのだが、前の部屋で出血が起こり血液で真っ赤になっていたのだ。


「かなり出血していますね。強い力がかかった感じがしますが、どういう状況だったんですか?」

「卓球のボールが当たったんです。」

「スマッシュの球とかですか?」

「いえ、家の中で僕が手でボールを投げてて子供がバットで打った球が当たったんです。」

「・・・。」


結局、数日で出血は引いたが、虹彩という茶目の部分が裂けたところに引きつれが出来てしまい青田さんの瞳孔にはゆがみが残ってしまった。



後日談だが、浅井さんの手術は上手くいき目の動きは正常になった。

「物はきれいに見えるんですけど、術後から手術した方の目にずっと涙があふれて困ってるんです。」

診ると確かに高度の流涙が起こっていた。


目には涙を分泌する涙腺と目から鼻の方に涙が流れていく涙道とよばれる下水道がある。目の周りの手術を行うとたまにこの涙道に傷がついて下水に涙が流れなくなりずっと涙目になることがあるのだ。


検査の結果、浅井さんの涙道には閉塞があったため手術ができる涙道専門の病院へと再び紹介になった。


「浅井さん。二回も手術になって旦那さんと険悪になってませんかねえ~。」

陽子のつぶやきにひとみは苦笑した。

「確かに、旦那さんが諸悪の根源だものねえ。」

「しかし皆さん、わりと家の中でいろいろ暴れてるものなんですね。」

「そうだね。」

陽子の言葉にひとみは噴き出したのだった。

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