初めての魔法
その一日はワンポールのテントの中から居心地悪さを感じながら目覚める事になる。
今までキャンプなんて親に連れて行ってもらった幼少期でしか味わったことがないので耐性自体がない。
なので深い眠りを味わえないまま体を起こし、目をこする。
遠くでパシャンという音がした。
続いて「うわぁ!」という軽い叫びも聞こえた。
寝覚めの悪い朝でも焦りを覚えたのはその声に聞き覚えがあったからだ。
慌てて俺はテントから駆け出しもう一つ存在するテントに駆け付ける。
「どうした?!」
そう言って入り口を開いた。
確かに、ある意味異常な光景だった。
広がっていたのはテント全体に水遊びでもしたのかという程の浸潤。
俺の仲間のミカも文字通りずぶ濡れだった。
また妙な事に水回りの物を使用した形跡がないのだ。
「……一海ぃ」
「……ああ、そういう」
濡れているせいで水滴か泣いているのか分からないがべそをかいているのは理解できた。
先程奇妙と形容はしたが、その原因に関しては分かっていた。
魔漏である。
とりあえず大事ではないと理解しほっと胸をなでおろす。
「とりあえず火を焚くわ」
「……ありがとうございます」
そっと入り口を閉じた。
暖の準備を行おうとする際、頭に雑念が過る。
「……これほぼお漏らしじゃないか?」
水の魔法だから真水だ。だから乾かすだけで問題はない。
だが心理面を考えれば魔力を漏らしたことには変わりはない。
つまり寝ている合間に溢れたのは間違いない。
確かに実害面では被害は丸々沈静したが大事な感性が被害者も加害者も失われそうな感じがした。
「俺はとんでもない真理に気付いたかもしれない」
俺の野営生活に曇天がかかったかもしれない。
言い忘れていたがこれは、ガラテンと組むことになったあの日から約2週間程経った一日の出来事だ。
俺は今、宿ではなくテント暮らしに変わっている。
理由は色々あった。
旅をすることになるのだから宿に泊まれないことも出るだろう。
悪環境でなければそこで寝る事にもなる。
幸いこの世界には不完全ながらもテントという概念が存在している。
俺も編集者時代、ハイファンタジーを題材にする作家をかけ持っていたことで知識としてあるのが、昔は地べたで掛け布一枚で寝ていたなんていう話なんだからありがたい話である。
ただ、この世界で軟性合金なんて作れる技術なんてないはずだから作るにしてもロッジかワンポールになる。
旅をするのにロッジなど大人数での行進でもない限り使用できるわけがない。
その点組み立てれば1本の鉄棒と紐で作れるワンポール型が冒険者のツールとなっている。
せっかくあるのなら慣れるに越したことはないと思い暫く野営生活で賄うことにした。
その道に詳しい先輩が一人いるから頼もしいものだ。
だがその目的がメインではない。実の目的はそのずぶ濡れの先輩に関することである。
ミカに関する諸々の為に俺はこうやってテントを張る事になったのだが、その理由は今日から数日前の話にまで遡らなければならないのだ。
――――――
少女は集中する。握る立てかけた杖に念を込める様に。
不思議な空気が漂う。それは感覚的なものではなく目に見えぬ確かなものがだ。
そしてポツリと呟いた。
「自在操水、〘ウォルタ〙!」
辺りに顕現するは水玉。それが複数現れては繋がり次第に留まる池が宙に完成する。
『おぉーー』
周りから湧き上がるは歓声。
それはミカ・リアンノンにとっての初めての魔術なのだから。
「やった。やりましたよ!」
彼女は見るからに嬉しそうに手を振った。それに連動するように空飛ぶ水も回る。
そしてそれに驚いている光景を少し遠めで俺たちは見ている。
「ミカちゃーーん! そこから色々動かして遊んでいいわよーー!」
「分かりましたーーー!」
指示は雑だがナナミの事だから何かしら教えているのだろう。
その光景を見て俺はシンプルに嬉しいと感じる。
……嬉しいとは感じるのだが。
「ナナミさん、普通って習得期間どれくらい?」
「普通は早くても半年ね」
「教えてもらい始めてどれくらい経ちました?」
「その約半分ね」
「成程ぉ。一月ほどは覚える時間に割けなかったから実質二月ですね」
この質問が俺の答えである。ぶっちゃけ順調過ぎて怖い。
気持ちあと3か月程かかるかもと思ってたし。何より習得スピードがトップレコード予備軍に入る時点でおかしい。
この気持ちを一言で形容するなら。
「ぶっちゃけ引くわぁ」
これに尽きる。
「同感だけど酷くない?」
正直な感想に思わず彼女も苦笑い。
仲間としてこれほど頼もしい事もないので構わないのだが。
「でも確かに不思議だよなあ。俺も気になるぜ、ぶっちゃけ」
「あの子の習得の早さが異常なのは、結果的に魔法は使い続けていたからだろう」
アントンの一言に割入ったのは新入りのガラテンだ。
諸々の事情を知っているからもう違和感はないが、見た目にそぐわず魔法の知識がかなりある。
「……あれですね」
「ああ、あれだ」
『……あれかあ』
アントンレフェリーも同時に納得する。
俺たちの中では、魔漏という単語は言ってはいけない語句になり果てていた。
もう男共の共通認識では、『あの日』だとか、『赤飯を炊く』だとか、『名前を呼んではいけない例のあの人』くらいのニュアンスになり始めていた。
端的に纏めるなら、男子禁制ではなく男子禁句と言ったところか。
「あれのお陰で魔法を使う地盤だけは完成していたんだ。おまけに最上級魔法でやってたんだからな。だから覚えるだけなら初級ならどれでも使える。いい先生に逢えたら中級も難なくかもな」
「……だとしたら納得ですよ。この早さは」
覚えるにしても異常な早さだったからな。実質8年間修業してたようなものなのか。
「とはいえ、それをするにしても問題がまだあるから当分先だ。それも含めて話をする」
そしてガラテンは暫く水溶液で遊ぶミカに視点を合わせ「おーい」と声を掛けた。
彼女の耳にその声が聞こえたのか水芸を演舞する中視線をこちらに向けた。
舞踊していた水がこちらに直進し全員均等にバケツ1杯分程のダメージを与えた。
「うああ?! ごめんなさい?!」
慌てて駆け寄るドジっ子魔法使い。
「気にするな。意外と痛くなかった」
「ああ、寧ろありがとうミカちゃん」
「神の恵みだ」
『ディミトリ』
俺は気にするなとミカに向かいながら言うが、 蛮族二人は彼女に向かってではなくナナミに十字を切り深々と感謝する。
確かそれってナナミが所属するカトリックと同じ規模の宗教派閥:オルディア教の『アーメン』と同じ意味だったよな。
意味が分からずそいつらの向く方向を見た。
勇者一行はナナミを見て理解した。
白の法衣から薄っすらと彩られた肌色と一部塗られた黒のコントラストを。
「黒なんだ……」
思わず俺が口走ったのを皮切りに男共の運命は一つの道を辿った。
いつもの練習場所の草原に横たわる加害者は三人。メイスによる無残な打撃跡と血だまりが物語る。
その中ガラテンは顔面から受けたはずの一撃を鼻血だけ流し運命に抗っていた。
男は本能に抗えない……
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