元王国騎士団長は呪いで戦えないが不死身なので勇者の盾になりました
救助から帰還した後、酒場まで報告に戻るのに時間が掛からなかったのはひとえにガラテンの頑丈さ以外に言葉はなかった。
血塗れになるほどの傷を負っているので早急に教会という緊急外来に駆け込んだのだが、軽い回復魔法で傷は回復。濡れた血は浴場を使ってくれて構わないからと言われそれで流す始末。
極め付けは教会の神父から言われた言葉が、
「一体どんな喧嘩したらこんなすり傷だらけになるんですか?」
だった。喧嘩どころか魔物にずっと噛まれてた上中型のヘイトを買っていたのですがそれくらいの感想しかないんですか?
と思うくらいの傷しかなかったらしい。
そんなこんなのやり取りを終えた後夜の酒場に報告に来たという流れだ。
店主に報告した後、控室らしき場所からロープでぐるぐる巻きにされた3人組を片手で引っ張って地面に叩きつけるのを複雑な気持ちで眺める。
そして耐えきれなくなった取り巻きのツーブロックが息巻いた。
「いい加減にしろよこの尼ぁ!」
「あたしに話しかけるより仲間の帰還を労った方がいいんじゃないかい?」
3人組は辺りを見回し、カウンター席に座っているガラテンを発見する。
「ただいま団長」
「が、ガラテン……」
言葉に詰まったウコッケは絞りながら言葉を選んだ。
「ご、ご苦労だったなガラテン。今後とも仲間としてよろしく頼むぜ」
「あー、その話なんだがなあ」
渋い顔をしながらポリポリと首を掻いた。
そして隣で立っていた俺の肩に右手をポンと置いた。
「お前とはもう組まん。こいつと組む」
驚嘆の声を3人は上げた。
「……おいおいガラテンちゃん正気か? そんな不意打ちしかできない雑魚と連むとかやきが回ったみてえだなあ」
「やきが回ったとは笑い種だな。俺の事をいつも『逃げ銭のガラテン』と貶したお前が離れるなだと? まるで俺の事を手放したくないと思ってるみたいじゃないか?」
正論を並べるガラテンに怒りが込み上がるウコッケ。だがその怒りの裏にはばつの悪い事情がありそうな気まずい表情もある気がした。
「折角もう一度仲良くしてやろうと思ったのに……ぶっ殺してやろうか!!」
「殺してみろよ。コエンマで逃げるような格下狩りにできるならな」
「ぐっ…魔物に身動き一つ取れねえお前に説教される覚えはねえええ!!」
縛られていたはずの縄が解け、モヒカンは怒りに任せ猛進する。
右手にはダガー。恐らく取り巻き達と縄を切る準備をしていたのだろう。そしてロープ切りに使用した短剣で元仲間に刃を向けた。
「なあ?!」
「ガラテンさん!」
気づいた時には遅かった。
その攻撃を代わりに守ることもガラテンを避けさせることも出来なかった俺はただその光景を眺めるしか出来なかった。
ミカも少し遠い距離の為どうすることもできず名前を呼ぶことしかできなかった。
誰もが反応できず見過ごすことしかできなかった。刃傷沙汰は避けられないと誰もが思った。
攻撃を行うウコッケの短剣を弾き飛ばした一閃が奇襲を防いだ等と誰も思うわけがなかった。
そしてそいつはいつの間にかウコッケの背後を取り羽交い締めして剣で封じる。
「いけねぇなあ酒場で揉め事たぁ。楽しく飲まねえと」
モヒカンの動きを止めたその男は俺のよく知る金髪の冒険者の姿だった。
「アントン!」
まさかの救世主にミカは安堵の混じった声を出す。
「戻ってきてたんだな!」
「ああ、皆んなもいるぞ」
首を振って示した方向は取り巻き達が座っていた場所。
見るとレフェリーとナナミがこちらに手を振っている。
……取り巻き達を封殺しながら。
レフェリーは斧をツーブロックに突きつけ脅し、ナナミは武器のメイスから鞭の様に氷を伸ばしロン毛に纏わりつかせている。
状況としては2人も暴れようとしていたらしく、動き出そうとしたところを抑止したという形だろうか。
どうやら俺たちにも被害が及ぶ可能性があったらしい。
「帰ってきてみりゃとんでもねえ事になってんじゃねえか。ダウンタウンかと思ったぞ」
「色々あってな……結構大変だったんだ」
アントンは「ふーん」と口ずさみ話し続ける。
「まあその話は後で聞くわ。それよりビックリしたぜ。まさかの大捕物になるとはな」
「助かったよ。タイミング良く帰ってきてくれて」
「そうじゃねえよ。こいつの事だよ」
何が違うのかは良くわからなかったが、その理由はすぐに分かった。
「お前は心当たりあるよな?……チキンウコッケさん?」
その言葉にぐうの音が出たモヒカンは取り乱す。まるで知られたくない事実かのように。
「あんたに依頼した『貴族様』が許しておけんとさ。カンカンらしいぜ? シルバーの癖にコエンマから逃げた臆病者の『チキンウコッケ』はあんたで間違いねえよな?」
「てめえ、何でそれを」
「俺達がその尻拭いをしたからなあ。いつの時代も上司のミスはブロンズが拭わなきゃいけないらしい。てことでルイズさん、バッジシルバーに変えて?」
「うちはそれくらいじゃ渡せないよ」
「……世知辛いねえ」
そして席から立ち上がり臆病者の前まで足を運ぶガラテン。
「はあ…そういうことか。そんだけの大ポカすりゃレクサンデルに居られる訳がない。俺と同じ向かった先でスローライフ決め込もうとしたわけか。逃げ銭のレッテルがマシに思えてくるな」
なるほど、チキンって臆病者の意味の方か。
……チキン?
「チキン……ウコッケ……?」
笑いの噴火は今にも起こりそうだった。
ミカは俺の様子のおかしさに心配する。
「……チキン烏骨鶏!?」
噴火した。我慢しきれなかった。
笑う事を止められない。
「一海? 何がおかしい?」
心配そうに声をかけたのはガラテンだった。
「だって! 烏骨鶏だぞ?! そりゃ臆病者に決まってるだろ!! その癖カラースタイル比内地鶏じゃねーか!!」
「何言ってるか分からねーが馬鹿にしやがって、笑うんじゃねえ!!」
臆病者とそんなやり取りをする最中ガラテンはミカに耳打ちして尋ねた。
「……あいつっていつもああなのか?」
「いつもはまともなんですけど、偶に頭が空を舞うんですよ」
そして俺の衝動が治り、空に舞った脳みそを元に戻した。
「さて、バッジの銀メッキも剥がれた所でルイズさん、俺たちも丁重に扱わないといけませんね。しっかり馴染みの街に返してやらないと」
「あはは、そうだねえ! 流石家のブロンズ。優秀だねえ」
目と目を合わせお互いに獲物を睨みつけた。
きっとその顔は凄くいやらしいものだったに違いない。
俺達の顔を見たそいつの顔はもう比喩ではなく真っ青だった。
「やめてくれ……頼む。助けてくれええええええ!!」
酒場で悲鳴が轟いたが、その依頼に誰も手は伸ばさなかった。
ーーーーーー
『ガラテンがあ?!』
2つの円形テーブルを各グループで分け合い晩餐をしている中その雄叫びが1テーブルから放たれた。
ウコッケを引き渡した後、流れで彼らの帰還を祝う流れになったのだが突然の重大発表にシビアな雰囲気になった。
「ああ、暫く一海と共にする事にした。だからよろしく!」
「おお、それはそうだが……いけるのか?」
不安な声を出したのはレフェリーだった。
恐らく彼らが心配してるのはガラテンの事情と不調を知っているからだろう。
「事情は全部聞いてるから安心しろ。それに呪いの件も考えがあってな」
「もしかして手立てがあるんですか?」
「それはない」
「ないのかよ!」
ナナミの質問に俺はトンチンカンな答えで返しアントンに前のめりでキレられた。
そのままアントンに「なら…」と言葉を続けられたが遮って話した。
「だけど役立てる余地はある。ただ……」
言葉が澱んだのは策なんてないなどという熱血論ではなく、ある意味ウコッケ達の様な非人道的な話だった。
「……俺に敵を集中させる方法で問題ない。ウコッケ達がシルバーで息巻けたのは俺を囮にしてちまちま倒したからだ」
「そうなのか?」
まさかガラテンからその答えが出るとは思わず驚いた。
「あいつ、才はある癖に横着でな。武器も色々使えるし魔法も使える。だから仲間と一緒に俺を撒き餌にして安全圏から攻撃してたんだよ」
「ガラテンさんの耐久にあぐらかいてたってことか。そりゃ追いかけにも来るか。……でも良いんですか?」
「当たり前だ。今までとやる事は変わらんからな」
俺は慣れてるとでも言いそうな感じだ。
だけど俺としては同じ方法をするのは躊躇いがある。ましてや今までと変わらない扱いをするというのは本人が辛いはずだ。
それが良くなかったら俺も連れて行くのは不本意なのだ。
「勘違いしてるだろお前」
俺の後ろめたさを察してまぶたを閉じ語る。
「初めてなんだ、前に進めた気がしたのは。誰と組んだってそんな気分にならなかったのに。誘ってくれて本当に嬉しかったんだぜ。だから……心から役立ちたいと叫んでるんだ」
己の手を心臓に叩きつけ心からの気持ちをパッションする。……そう言ってくれるなら俺も遠慮なくさせてもらおう。
「分かった! 馬車馬の様にこき使うからな!」
「ハハハハハ! そっちこそ後悔するなよ。選んだのはじゃじゃ馬だからな!」
暴れ馬は肩を叩いてきた。
「友情ごっこは食べた後にしてください」
水をさしたのは白身魚を頬張るミカだった。
「何だ嬢ちゃん、嫉妬したのか? 仲間なんだから遠慮するなよ!」
そう言うとミカと肩を組んだ。
あまりに突然のことだったので慌てふためいた。
「うわぁ?! 仲良くして欲しかったけどベタベタするのは変態ですよ!」
「いや嫉妬は本当かよ!」
あまりの自然なツッコミに思わずアントン達も笑い出す。
この日ガラテンの経緯を聞いていて、地球の事を思い出したのだ。俺が読んでいたネットの小説サイトで、旅をするメンバーの1人が仲間から追い出され、別の仲間と人生を共にするという物語の流れがジャンルとして成立する程に流行っていた事を。
何となくガラテンの経緯で1作作れる気がした。
もしこの内容で作るならタイトルは『元王国騎士団長は呪いで戦えないが不死身なので勇者の盾になりました』って所だろう。
ちょっと読みたいと思ってしまった。
だがこれは、俺の仲間の本当の話なのだ。
書き手が俺だとするならば、絶対にハッピーエンドにしなければならない。その義務が勇者にはあるということを理解して俺は冒険の書を書き記すのだ。
こうして明るい復讐劇は幕を開けた。
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