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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
21/53

漏魔の一日


 急いでミカの眠るテントの近くに駆け付けると、そこは何も変わり映えはしないいつもの風景だった。

 念には念を入れて辺りに敵がいるかの確認を行う。

 テントが設営されてる近くの草場が火で燃えているのが俺の目に入った。


 これは敵が来たかもしれない。連れ去られたりしていないか不安になった。


 すぐさま暖簾の様に垂れ下がった入り口の布を分けて入る。

 目に映るのは自分のローブに包まれた彼女の寝姿だった。


 良かった。とりあえずまだ何も起きてないみたいだ。

 そう胸を撫でおろしたが安全である可能性がなくなったわけでもない。

 すぐさま彼女を起こそうと近づこうとした。

 しかし彼女は何かに気づきばっと目が覚め近くに置いてある杖を俺に向けた。


「待て待てミカ! 俺だ! 一海だ!」


「一海?!」


 彼女は大きくはあっと息を吐いた。


「どうしてこんな時間に?」


「今話してる時間がない! 早く逃げよう!!」


 俺は判断している時間もないと思い彼女の手を掴んで走り出した。


「え? ええ?!」


 そしてテントから颯爽と抜け出した。

 俺たちは草原を駆ける。まだ日も出ていない薄暗い世界を一心不乱に走り抜ける。


「い、一体何があったんです?!」


 彼女の問答に荒い息で回答する。


「魔法を使う魔物が近くにいるんだ! 凄い魔法を使う奴だと思うから早く逃げない、と……」


 俺はこの瞬間彼女の方を振り向いてしまった。

 神はこのトラブルを待ってましたかと言わんばかりに日の出がひょっこりと顔を出し暗い草原を明るい色で塗り直す。

 絶景というものはいつ見たって絶景なのだ。

 朝日は拝めれば清々しい気分になるし、一面の草原は太陽光のエフェクトで修正すれば壮大な風景へと早変わりする。

 そして、女性の下着というものは見ただけでインパクトが素晴らしい。

 ちらっと見えてしまったがパステルレッドの細目の布巻きに近かった。おとなしめな胸を整えるためと、ノースリーブのシャツをいつも着ているためだろう。

 ノーストラップのブラとして使っている物のせいかある程度ラインが際どい。

 幸いスカートは着ていたが、どっちも赤なので結局見てはいけないものを見た気分には変わりなかった。

 思わず視線がそこから離れなかった。


 これは緊急クエストである。

 魔物の襲撃から逃げないといけないが、サブミッションで彼女への誤解を解かねばならない事も追加された。


「見ないでください!!」


「うわあごめん!!」


 思わず手を放しお互いは足を止めた。

 彼女は両腕で胸部を隠し屈みこんだ。



「見ましたか?!」


「見てない!! 全く見えてない!!」


 嘘である。ガッツリ日の光に照らされて色まで見えたが俺にはノーと言うしか道はなかった。


「本当ですね?!」


「ああ、本当だ! それよりさっきの話なんだけど!」


 懸命に話題のすり替えを行おうと試みる。


「実は赤い炎の……!」


「やっぱ見てるじゃないですか!!」


 しまった!

 話題の始め方を完全にしくじった!!

 何でこのタイミングで炎に赤色を付けたんだ!

 ガスでもない限り赤に決まってるだろ!!


「違う! 誤解だ! 炎の魔法を見たんだ!! 天高くまで伸びる炎魔法を君のテント付近で見たんだよ!!」


「え?!」


 彼女は赤かった顔を更に紅潮させ何故か更に恥ずかしがった。


「見たんですか?!?!」


 見てないって言ったのに?!

 何で?!

 何か言い間違えた?!

 いや今のは普通の言葉選んだと思うんだけど!

 とりあえずその質問も否定するしかない!


「いやだから見てないって!!」


「どっちなんですか?!?!」


「……何で?!?!」


 あ、ダメだこれ。錯乱してる、お互いに。

 よし。とりあえず俺は落ち着け。そして冷静に正しく誤解のないように伝えるんだ劔一海!


「えっと……とりあえず。ミカの方向は何も見てないです。それで、早く目覚めちゃったから素振りしてたら物凄く広範囲の炎の魔法が見えちゃって。偶々君のいた方向だったから助けないとって来たんだよ」


 よし、これなら問題ないはず。下着という言葉も伏せたし色も伏せた。

 何もハレンチな要素に引っかからないように話した。

 これなら何も問題ないはずだ。


「だから落ち着いてくれミグァッ!?」


 何も問題ないはずなのだが後頭部に衝撃が駆け抜けた。

 恐らく彼女は持っていた大杖を投げたのだろう。


「やっぱり見てるじゃないですかーーーー!!」


 そう言って彼女は元居たテントの方向に物凄いスピードで去っていった。

 何でだ?俺の言葉選びは最善だったはずなのにどうしてミカは見られたと思っているんだ?

 いやそうじゃないな。あまりに不思議過ぎて肝心なことを忘れそうになった。

 ミカが元居た方向に行ってしまっては助けた意味もなくなってしまう!


「ミカーー! そっちはダメだって! ミカーーーーーーーーー!!」


 俺は彼女の杖をもって彼女を追いかける。


 その後、敵の襲撃もなく、テントで何とか説得できたがしばらく彼女は碌に口をきいてくれなかった。






――――――






 早朝の事件の後、今日もアントン達から教えてもらうことになっていた。

 ミカは立っている状態で杖を両手に支え地面に垂直に立てつけている。

 魔力を魔法として具現化させる練習をしているらしい。

 かなり集中しているようだ。

 そして俺はというと、練習ではなくナナミに回復魔法で治療されている。

 あの一件で俺は説得の為に一苦労した。

 なんせ口はきいてくれない物は投げられるわで大変だった。

 その傷を治療してもらっていた。


「……すみませんナナミさん」


「大丈夫よ。でも何があったの?」


 どう話そうか迷った。ミカを説得できたものの、おかしな事が多かった。

 お互い錯乱してたから勘違いされてるというのが大きいと思っているが、どうもそうではないのではと思っている。

 正直に伝えるのも恥ずかしいし、何より朝の出来事はナナミ達に話さないでくれとまで釘を刺されている。

 これ以上彼女の機嫌を損ねたくなかった。

 だからざっくりとだけ、自分が悪いように話を伝える事にする。


「色々あってな、敵襲と勘違いして起こしに行ったんだよ」


「あら」


 ナナミは手を口に当て目をキラキラさせた。


「一海さん意外とウルフェンだったんですね」


「ナナミさん、その冗談今は刺さります」


 意外とウルフェンって何だ。狼の類似種があれしかないからってパワーワードが過ぎるぞ。

 そして何故彼女はそんな話でドキドキしてるのか俺の頭では理解できなかった。


「まあ、状況もあったとは思うが災難だったな」


 レフェリーは意外と優しくフォローしてくれる。


「それでよ一海、何色だった?」


 アントンが右側からこそこそと聞いてきた。


「……何が?」


「おとぼけなさんなって。そんな傷ついてるってことは見ちまったんだろ? 何色だった?」


「ちょっとアンちゃん?!」


 まあナナミの反応はそうなるよな。


「私の下着じゃ物足りないの?!」


 いや自分のはいいんかい。

 多分アントンに好意を持ってるのは分かるがアプローチが過ぎる。


「男は冒険家だ! 財宝は確かめたくなる生き物なんだナナミ!!」


 また地味に本音を隠しながら言うんだなこいつ。

 何だよこいつらイチャイチャしやがって。

 レフェリー大丈夫か。こんなラブロマンス見せつけられて苦しくないのだろうか。


「それで、見たのか?」


 お前も気になるんかい。

 オープンだなこいつら全員。感性が違い過ぎて温度差で風邪をひきそうだ。

 明るいパーティーなのは良いことだが今の状況としては逆にやりづらいな。

 正直に言った方が盛り上がるのは分かるが今は極力隠さねば。


「……見てないぞ。」


「アンちゃん! この反応絶対見てるよ!」


「ああ、これは相当なむっつりだぞ」


「一海、むっつりは好かれないぞ?」


「うるせえ! とりあえずミカがどんな感じか確認しなくていいのか?!」


 無理矢理話を遮り話題をそらしてみる。


「そういえばそろそろお昼だし、一度切り上げて休憩をはさみましょっか」


 よし、何とか話題を逸らすことが出来たみたいだ。

 俺たちはぞろぞろと立ち上がる。






――――――






「ミカちゃーーん! そろそろお昼にしましょう!」


 ナナミの大声にミカは反応する。


「分かりましたーーー!」


 駆け寄るミカ。一瞬目と目が合うがプイと顔を逸らされる。

 くそ……まだ根に持ってる。


「意外と難しいですね。魔力を形にするって」


「まあ簡単だからすぐできるよ! 焦らず頑張ろ!」


「はい!」


 他の人にはあんなに機嫌良さそうに話すのに。

 今なら追いかけ続けたアントンの気持ちが分かる気がする。


「でもおかしいわね。ミカちゃんの集中力なら魔力玉は作れなくてもオリジンくらいは出ても良いと思うんだけどなー」


 オリジンとは魔力を目に見える形にした粒子の事らしい。それを集めたのが魔力玉だ。

 魔法使いは基本的にこの粒子を集めて玉にして飛ばすのが近接戦闘で大事になるらしい。

 無詠唱で慣れてくると火力もでる便利な技らしい。

 低燃費な上熟練の魔導士なら外気の魔力も利用できるらしい。


「試しにちょっとやってみて」


「分かりました」


 そしてミカは先程と同じポーズをし集中する。

 何も起きない様子を見て、ナナミは彼女の肩にポンと手を置いた。


「あれ……」


「どうしたんだナナミ?」


 レフェリーがナナミの反応に尋ねた。


「魔力を感じない」


「感じない?」


 どういうことだ。まがいなりにも彼女は一度魔法を使えそうな瞬間はあった。

 なのに魔力がない?


「魔法でも使ったのか? でも何も覚えてないんだよな?」


「そうよね……どういうことかしら」


 レフェリーは当然の疑問を口にするが誰も分かるわけがなく、ナナミさえ困っている。

 何故だろうな。

 何となくミカの方を見る。

 そこには今まで被っていなかったローブのフードを深くかぶるミカの姿だった。


 そんな時ふと思ってしまった。

 夜明け前、轟音、魔力不足。そして露営生活。

 俺はこんな訳の分からない情報だけでとある疑問を口にしてしまった。


「ナナミさん。一ついい?」


 俺の方に振り返るナナミ。


「どうしたの?」


「いやさ、寝てる時に魔法って発動しちゃうことある?」


「ちょ、一海?!」


 ミカはフードを外し俺に怒鳴る。

 皆はミカの方を眺める。

 何故だか知らないが、やっとミカは俺と口をきいてくれた。

 しかしこの瞬間の俺は想像もしてなかった。この些細な疑問が最大のタブーだったことに。

 俺は彼女の方を見るが何故そんな剣幕で睨まれているかは理解できなかった。


「そういうのは基本的にはないけど……ローマっていう現象自体はあるわね。」


「……ローマ?」


 何それ?

 休日?

 王女が身分違いの恋でもする?

 イメージが完全に地球のローマしか頭に浮かばなかった。


「魔法の才能がある子ってね、寝てる時にも魔力が漏れ出るの。魔力が漏れるから漏魔。魔漏なんて呼ばれ方もする。そういう人って寝てる時にも魔法を使ってしまうって噂でしか聞いたことないけど」


「へぇ~成程な~。じゃあそんな限定的じゃ可能性は低いよ、な……」


 いや、待てよ。

 全部揃ってない?

 条件揃ってるよね?

 ルイズさんが気に掛ける程の才があって、ソウルカードでは結果はグレー。

 可能性は出てきたな。

 でもそれで全部魔力がなくなるっていうのもおかしい気はするし、何より魔法も覚える為に教えてもらってるわけだし。

 気のせいかな。

 いや待てよ。一個だけ……あれ?!


 俺の頭の中で全ての点が線になり謎が全て解ける。

 そういえば俺は今朝以外にも轟音を聞いている。

 それは偶然にもあのテントで野宿した時だけだ。

 おまけにあの時見た炎は天にも届くほどの強烈な炎の柱。

 実物を見たことがないからこそそれは恐らく確実なのだ。


じゃあ待てよ。あの時見た見てないっておかしくなった話は全部……


「あーーーーーーーー!!」


 思わず分かってしまったせいで俺の探究心は収まらない。

 その大声で思わず皆俺を見る。


「もしかしてあの時見た見てないって、下着じゃなくて魔法のことか?!」


「わーーーーーーーーーーー!!」


 言ってはいけないと分かっている。何故ならそれは彼女がもっとも人から聞きたくない事実だからだ。

 だが推理物を楽しんでいて、まだ情報も出きってない段階で、閃きだけで犯人も犯行も分かってしまった時の心の踊り具合は計り知れない。

 ギャンブルの射幸感などと比にならない喜びがそこにはある。

 分かってしまったが故に言葉を留めることは不可能だった。


 彼女は俺の漏れ出た情報を赤面しながらかき消そうと叫び、全力で駆け付け涙目で訴えかける。


「言わないでって言ったじゃないですか!あと見てるじゃないですかバッチリと!! 一海のバカ!! 嘘つき!!」


「ごめん! まさかそういうことって知らなかったんだよ!! あと下着は断じて見てないから!!」


「下着って言った時点で見てるじゃないですか!!」


「う、仕方ないだろ! 何も着てないのが悪い!!」


「しょ、しょうがないじゃないですか! あの日蒸し暑かったんですから!!」


 と漏魔の一件でのもめ事が開始し、全く関係のない下着の問題でヒートアップする。

 アントン達はそれを只々気まずい気持ちで眺めるしか術はない。


「じゃああれは事故だ! あの時俺も敵襲だと思って助けようとしてただけだから、赤い下着だって見えたのも不可抗力だ!!」


「ううっ……一海の、スカポンターーーン!!」


「グオッ?!」


 感情がフルボルテージを迎えた時、握っている大杖を横に振りかぶり、ミカのフルスイングが俺の腹部に炸裂する。

 スライムを殴り続け鍛え上げられたその全力は直撃し、あまりの渾身の一撃に俺は地面に沈み悶える。

 ミカはそのまま明後日の方向へ走り去っていなくなる。


「くそ……まさか今朝の出来事がそういうことだったなんて。魔法を漏らしてるなんて思ってなかったな。」


 何とか痛みも引いてきて、そう言いながらもう一度俺は大地に立つ。

 何故だろう。不思議と視線が痛い気がした。

 違和感のする方向を見ると、そこには冷ややかな目線で眺めてくる冒険者たちがいる。


「あー、そのー……どうしました?」


 何となく分かる。言いたいことは分かる。でも不可抗力だったんだって。

 俺の心情も理解してくれませんか……?


『最低だ(ね)。このむっつりスケベ』『ーーーー最低ね。このむっつりスケベ』


 息の合うように俺を罵るアントン一行。おまけに恐らくだが那由多の声も聞こえていた。

 あれ、何だろ。涙が出てきたな。玉ねぎでも切ったかな。


「……冗談きついぜ」


 悲しい感情を打ち消すには天を仰ぐしか俺には出来なかった。


悲しいね。一海。


良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

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