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銀色の刀身

昨日は急な仕事が入ってしまったため、更新する事が出来ませんでした……。

楽しみにしていた方、申し訳ございません……。


昨日の分と今日の分で午前午後の合計で4本更新します。

 裕と少女――白華しろかが並んで倒れている近くで、レギルスは桜花をどうにか回収しようと試行錯誤していた。

 自分で拾おうとしたら拒絶されて弾かれたため、部下である魔物にやらせてみたが、レギルス以下の実力しか持っていない魔物達はその身体を桜花に斬られて絶命した。


 その結果に舌打ちをしながら、自らの身体を変形させたりして色々と試していたレギルスはとある案を思い出す。


「そうか……アイツの腕を使えばいいのか」


 それは、桜花を普通に所持していた裕の腕を使うという案だった。

 レギルスは己の肉体を変化させたり、他の生き物を吸収し、自らの一部とする能力を持っている。


 その力を使って裕の腕を吸収すれば、桜花を拾い上げる事が出来ると思ったレギルスは倒れている裕に向かって歩いて行く。


 この時、レギルスは裕が完全に死んだものと認識しており、油断し切っていた。

 故に、裕の右手がピクリと動いた事にも気づかずに無防備に裕の傍にしゃがんでしまった。


「――ッ!!」

「貴様ッ! 生きて――ッ!!」


 レギルスが伸ばした腕を掴んだ裕はそのまま自分の方へと引っ張り、レギルスの整った顔に頭突きを食らわせた。

 腕を振り払ったレギルスは鼻血を流しながら大きく距離を取った。


「貴様、どうして生きているッ……確かに私は心臓を撃ち抜いたはずだッ!!」


 視線で人を殺せるのであれば、即死する程の圧力を滲ませてレギルスは裕を睨む。

 だが、裕はその睨みさえもまるでそよ風のように受け流していた。いや……それは少し違う。今の裕はどこか虚ろ気な表情をしており、右腕もレギルスが振り払った後の形で止まっていた。


「なんだ……?」


 一見、隙だらけの姿だが先ほどの事もあるためレギルスは最大限に警戒していた。


「……あぁ」


 レギルスが睨みつける中、裕は小さく言葉を漏らせて右腕をダラリと下げた。

 それと同時に徐々に顔に生気が戻ってきて、自らの右腰にマントで隠すように差してあった寝華を触った。


「守ってくれたのか」


 そこに差してあるのは、紛れもなくいつも寝ていて契約者である裕とでさえ滅多に喋る事がない寝華だった。

 意識がない間、寝華はずっと守ってくれていたという事を裕は察してお礼を言ったのだ。


「よぉ……少しは男前になったんじゃないか?」

「貴様ァ……!」


 鼻血を垂らしているレギルスを見て、裕はどこかバカにしたように笑う。それはさっきまでいいようにやられた事への仕返しだった。


「死に損ないが……今度こそ、殺してやるッ!」


 レギルスの右手から青いレーザーが発射されるが、それを裕はただ見つめるだけだった。

 反応出来ていない――レギルスはレーザーが直撃するのを幻視したが、現実にはそうはならなかった。


「……」


 いつの間に起き上がったのか、白華が裕とレーザーの間に割り込み、ソレを木の葉を払うように右手で弾いたのだ。

 弾かれたレーザーは白華が立っている場所から垂直に曲がって空へと打ちあがる。


「白華……」

「ユウ、契約を」


 レーザーを弾き終わった白華が裕の方に振り向き、お互いに見つめ合う。

 目線だけで会話をした後、裕はそっと白華の右手を取った。





「お前は、俺の何を求める?」


 俺は白華に聞く。

 魔刀との契約には対価が必要だ。それは、身体の一部であったり何かしらの感情だったりするらしい。今の所、俺が契約した魔刀は全員体の一部を要求してきている。


「あぁ、両腕と両目はもうあげてるから、他の所にしてくれるとありがたい」


 ここは大事な所だ。

 もしも被ってしまったら、どうなるか知らないしもしかしたら魔刀同士の殺し合いとか、拒絶反応で俺が命を落としかねないしな。


「ユウは、ご飯を美味しいと思う?」

「唐突だな……いつからか、俺は味を感じないんだ。理由はわからないんだけどな……ただ、味を感じていた時の事を考えるなら、美味しいとは思ってたぞ」

「そっか。私は、ご飯が好きだよ」


 魔刀は食事を必要としないはずだが、白華はご飯が好きだと言う。

 桜花も魔刀なのに食事を取るから同じようなものなのだろうか。


「それじゃあ、食欲を欲するのか?」

「ううん。それはいらないから、ユウの味覚を頂戴?」

「味覚、か……まぁ、味を感じないからいいぞ」

「ん……契約、成立」


 白華の身体が光り、身体を刀へと変えていく。

 あの世界で見た特殊な形をした刀だ。


「行こう――」

《うん》


 グッと柄を握ると、ボロボロだった鞘が吹き飛びその美しい銀色の刀身をあらわにする。

 そのまま大きく一歩踏み込み、レギルスに斬りかかる。


「――ッ!」


 俺が振るった白華は細剣に弾かれるが、レギルスは若干態勢を崩す。

 そこに態勢を直す隙を与えないように連撃を放つ。


 先ほどまではまともに振るう事さえ出来ない程に疲弊していたはずなのに、何故か今は普通に振るえている事に内心で首を傾げる。

 だが、考えても答えは出てこない事はすぐに思考から破棄。とりあえずは、目の前のヤツを斬る事だけを考えた方がいいだろう。


 慢心はしていない。

 それでも俺の実力はヤツの足元に及ぶかどうかかという事が本気で戦っていてわかった。


 足りないのなら、補えばいい。


 目を凝らし、レギルス全体を見据える。

 一つ一つの動きに気を配り、相手が魔法を放とうとするのであればそこを潰すように白華を振るう。


「お、おのれえええええええええッ!!」


 絶叫と同時にレギルスの態勢が崩れる。


「――ッ!!」


 そこを見逃さず、白華を右斜め上から振り下ろす。

 白銀一閃。銀色の軌跡を連れて振りぬかれた白華は確かにレギルスを捉えた。その刀身は右肩から侵入し、身体の半分を切り裂いて止まった。


「ふ……」

「コイツ、まさかっ!!」


 斬られたというのに笑いを零すレギルスに対して嫌な予感がして、白華を引き抜いて急いで下がる。

 それと同時にドパァッ! という音を立ててレギルスの身体からピンク色の触手が飛び出す。


「クソッ!!」

《ユウ、斬ってっ!》

「わかってるよ!!」


 大きく距離を取った俺に向かって飛んでくる触手を白華で斬っていくが、一時的に勢いは落ちるものの斬った所から再生してこちらを襲って来るのでキリがない。

 ならばと本体の方を狙おうとしても、根本の方が触手が多くて近づいた瞬間に襲って来る。


「ほらほらっ! 当たってしまうぞぉ!!」

「……ッ」


 触手を対処している俺に向かって青いビームが飛んでくる。

 それを避けながら、更に大きく下がると触手の射程から外れたのか追ってくる事はなかった。


「はぁ……はぁ……くそっ」


 息を整える努力をしながらも相手からは目を外さない。

 レギルスは触手を引っ込めてから斬られた部分を触っているようだ。斬られたローブから覗く肌は傷が塞がっていた。


「お前では私は倒せないさ。力の差がわかったか?」


 煽るように言ってくるレギルスを睨む。

 確かに、俺ではコイツを倒す事は出来ないだろう。だが、平行世界の俺だったらどうだろうか? 龍剣に使用を禁止されているが、ここで出し惜しんだら俺が死んでしまって元も子もないだろう。


 目を閉じて集中する。

 あの星空が瞬く空間に行きたい――。


 バチンッ! と何かに弾かれ目を開ける。

 レギルスの攻撃ではない……つまり、俺はあの空間に入る事を拒否されたのだ。


(あの空間は、俺が作りだした物じゃない……? 俺の能力じゃないのか!?)


 焦る気持ちが表に出ないようにしながら、思考を巡らせる。

 あの能力を使う時と、今の俺で違うところ……それは、持っている得物だろう。

 いつもは俺は桜花を持っているが、今は白華を持っていて桜花は手元にない。


 ならば、あの能力は桜花のものという事になる。


 桜花は現在レギルスの足元付近に落ちており、それを拾ってから能力を使う事は不可能と言っても過言ではないだろう。

 そもそも、片腕でどうやって拾えばいいんだ。


《ユウ……》

「ダメだ。手がない」


 どんどん焦っていく。

 このまま誰か助けに来るまで凌ぐか……? いや、誰が助けてくれるっていうんだ。俺は一人だ。この世界に友達なんていない。

 ならば、ヤツのスタミナ切れを狙うか?

 それもダメだ。現状でもピンピンしているレギルスよりも先に俺のスタミナが切れる方が早いだろう。


《ユウにないなら、私が作るよ》

「え……?」


 カタカタと白華が揺れて、俺に峰内の部分を見せるように回転する。

 そこには、溝と柄の部分にある不思議な刃物。


《ユウは知ってるはずだよ。契約者だもん。コレは私には教えてあげられないから……》


 思考を回す。

 幸い、レギルスはこちらの動きをニヤニヤと笑いながら眺めているだけだから、考える時間はある。


 この溝は何の為にある?

 この刃物は何のためだ?

 白華の能力はなんだ?


 全て――俺の中に答えがあるはずだ。


「――あぁ、そうか」


 答えは出た。

 俺は、脇構えを取りながら左手の親指を柄付近に付いている刃物へと当てた。

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