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帰路

GW二日目、午後の更新となります!

 素振りを終えた俺と少女は互いに並んで平原に座り、青空を見上げていた。

 少女は俺に寄りかかり、どこか安心したような雰囲気を漂わせている。

 例えるなら……そう、甘えたい時の猫だ。


「さて、これからどうするかな……」


 ここが死後の世界だとして、俺はここからどうなるんだろうか。

 いずれ時が来れば、このまま新しい人生へと向かっていく事になるのか……それとも、気が遠くなる程に長い時間をこのままここで過ごさなければいけないのか。


「そもそも、ここは本当に死後の世界なのか?」

「……?」

「俺は、死んだことなんてないから知らないけど……この世界の女神に会った事はある。神やら女神が存在するこの世界ならば、死んだ後に何かしらのアクションがあったりしてもいいんじゃないのか?」


 特に女神とは顔見知りのはずだし、俺が死んだとすればきっと何かしらを言いに目の前に現れるんじゃなかろうか。

 それ以外にも、俺自身がこうやって落ち着いているのも気になる。最近、他人の事よりもわからなくなってきた自分自身の事だが、普通は死んだとなったらもっと焦ったりするものじゃいだろうか? なんせ、俺が唯一生きる意味であった“美咲を救い出す”という事を達成できずに死んでしまったのだから、あっちの世界に未練しか残っていないはずだ。


 それなのに、今の俺はとてつもなく落ち着いている。

 いや……心の中には確かに焦燥などはあるが、死んだにしては小さな焦りなのだ。


「……まさか、まだ死んでないのか?」

「大正解です。まぁ、貴方はそう簡単に死ねる運命に居ないわけですから、当たり前なのですが」


 久しぶりに聞いたその声の主を確認するために顔を後ろに向けてみると、そこにはこの世界の運命の女神である女性が前見た通りの姿形で立っていた。

 その顔には微笑みが浮かんでおり、まるでずっと前から俺がこの回答に辿り着くのを待っていたかのようだ。


「……女神さん」

「お久しぶりです。と言っても、私は定期的に貴方の事を見守っていたんですけどね」


 立ち上がり、女神に向き合うと少女も一緒に立ちあがって俺の背中に隠れてしまった。

 まぁ、この子の経歴を考えると結構人見知りなのかもしれない。


「あら……嫌われてしまいましたかね?」

「いや、ただの人見知りだと思うからあまり気にしなくていいと思うぞ。それより、ここは本当に死後の世界じゃないのか?」

「ええ。ここは私が一時的に作り出した魂を避難させる場所です。前世では貴方も数回来た事があるのですが、覚えていませんか?」

「……記憶にないな。でも、納得した。俺があんまり焦ったりしなかったのは、そういう感情が希薄になったとかじゃないんだな」

「そういうわけではないので、ご安心ください」


 よかった。

 これ以上、何かの感情を失ってしまったらいつか人間として成立しなくなりそうで、正直怖かったんだ。


 女神の言葉に内心で胸を撫で下ろしていると、ここからが本題だと言うように女神は顔を真面目な物へと切り替えた。


「さて、貴方は向こうで即死レベルの傷を負ったわけなんですけど、貴方は契約によってあの程度では死なないのでご安心ください。そちらの女の子も魔刀ですし、あの程度の負傷では死には至らないので問題ありません」

「なんだか、無茶苦茶だな」

「仕方がありません。魔刀という存在が既にこの世界の常識から逸脱してしまっているのですから……それより、貴方たちの肉体は何も問題はありません。時間が経てば傷も問題なく塞がるでしょう」


 その言葉を聞いて、俺は本当に自分が人間なのか疑問に思った。

 だが、それでもいい。

 心の炉に薪をくべろ。美咲を救うという想いを忘れるな。中々死なないのであれば、それは返って好都合という物だ。それだけ、無茶が出来るのだから。


「ちなみに、この世界に居る間は向こうの時間は経過しません。それらを踏まえた上で貴方には帰るか帰らないかを選ぶ権利があります――どうしますか?」

「勿論、帰るさ。桜花の事も助けないといけないしな」


 俺がそう言うと、女神は頷いた後に手を一回叩いた。

 それが合図だったように世界はガラガラと音を立てて崩れていく。


「今回も助けられたみたいだな……ありがとう」

「いえいえ、この程度であれば何も問題はありませんよ。それよりも……あまり、無理をなさらないようにしてくださいね」

「無理をしなくていいんだったら、そうしたいんだけどな」


 お互いに苦笑を浮かべた後、女神は俺たちに一礼した後にその場から音も無く消えた。


「さて、何やかんやであっちに戻る事になったんだが……」

「ユウとならどこでもいい……」

「そうか」


 ふと、そこで俺は一つ思いついた。

 もしかしたら、この提案は嫌がられるかもしれない。だが、言ってみる価値はあるはずだ。


「俺と契約しないか?」


 俺の言葉に少女はハッ! と顔を上げる。その顔は歓喜に彩られていたが、すぐにしょんぼりしてしまう。

 何か問題があったのだろうか?


「私、名前が無い……」

「名前が無いと契約できないのか?」

「うん……」


 それは困った。

 名前……名前かぁ……。確かに、記憶がない子に名前を思い出せ!ってのも酷かもしれない。


「ユウに名前を付けてほしい」

「え……俺、ネーミングセンスないぞ?」

「ん……」


 少女は至って真剣な表情とどこか期待が籠った目で俺を見上げている。

 これは、何かと責任重大なようだ。


「そうだなぁ……」


 少女の見た目で一番目立つのはやはり銀色の髪だろう。

 銀華ぎんか……いや、何かダメだ。絶妙にダサい気がする。


「白銀とも言うし、白華しろかとかどうだ?」

「白華……んっ! 私は、白華!」


 気に入ってくれたようだ。

 正直、白なら凍華だと思う気もするが、アレは白に青が混じっているために完璧な白とは言いづらいし大丈夫だろう。


「よし、それじゃあ行くか!」

「んっ!」


 俺たちは手を繋いで崩壊する世界へ向かって歩き出した。

 

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