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草原で会いましょう

GW二日目午前の更新となります!

 意識を取り戻した時、俺は草原に立っていた。

 辺りを見回しても、どこまでも平原が広がっているだけでそれ以外には何も存在していない。

 空は青空が広がっており、雲一つない。


「左腕がある……」


 自分の左腕があるという事に違和感を覚える。

 あの時、あの場所で落として来てしまったはずの長年付き添った左腕。昔はあるのが当たり前だったのに今では無いのが当たり前だと思える程の存在だ。


「ここは……そうだ、俺はアイツの魔法に撃たれて――」


 死んだ。

 あの魔法は紛れもなく俺の左胸を貫いていた。つまり、心臓を貫いてそのまま貫通したのだ。


 アレでは助かる助からないどころの話ではない。

 誰がどう見ても即死だろう。


「そっか……」


 思いのほか、死んだという事実をすんなり受け入れてしまっている自分がいる。

 美咲の事とか色々と思う事はあるし、悔しいし、やるせない気持ちで一杯だが何故か今はそれよりも平常心の方が勝ってしまっている。


「そういや、目も両方見えるな……」


 桜花も翠華も居ないのに、両目はハッキリと景色を映し出している。

 やはり、死んだことで契約が破棄されたのだろうか。


「まぁ、考えても仕方ないし……適当に歩いてみるか」


 そう判断して、俺は歩き出す。


 どこまで行っても同じ景色で、もしかして俺は歩いているようで歩いていないのではないか? という感覚を覚えながらも前へと進んでいると、草原の中に光る物を見つけた。


 近づいてみると、光っていたのは銀色の髪だった。


「ぇ……?」


 少女は俺の存在に気づいたようで顔を上げ、驚きを露わにした。


「よぉ」

「ど、どうして……?」

「すまないな……折角助けてくれたのに、あの後俺も死んじまった」

「……ッ!!」


 座って居た少女は勢いよく立ち上がると、そのまま俺の服を掴んだ。

 少女と俺ではかなりの身長差がある。少女の頭が俺の鳩尾くらいだから、服を掴まれたとしても何の恐怖心もなかった。


「どうして……どうしてッ!? 貴方なら、あそこから逃げる事も出来たはずでしょ!? それなのに、どうしてこうなってるの!?」

「……さぁ。ムカついたから殴ろうとして返り討ちにあった」

「なっ……」


 怒ったと思えば、今度は絶句する。

 生きていた時には無表情で無感情なのかとも思っていた。だが、目の前に居る少女は年相応に感情を持っていて、それをハッキリと表現出来ている。


 もしかしたら、こっちが素なのかもしれないな。


「何にムカついたの……?」

「俺にもよくわからない。ただ、お前が死んだ後にアイツがお前をバカにした。それに無性に腹が立った」

「私の……ため……?」

「それはわからない。正直、俺は会ってそれ程の人にそこまでの親近感を持つことは出来ない。でも……あの時、腹が立ったという事はそういう事なのかもしれないな……」


 俺の言葉に何を思ったのか、少女は服を掴んだまま俯いた。


 そこで、俺はふと気づく。

 少女の髪はあっちとは違って綺麗に洗われており、光を反射して銀色に輝いていたのだ。


(ほら見ろ。俺が思った通り、綺麗な銀色だ)


 誰に自慢するわけでもなく、一人内心でそう思っていると少女がポツリと言葉を漏らした。


「もう、会えないかと思った……」

「俺もそう思ってたよ。人生、何があるかわからないものだな」

「もう、触れられないと思った……」

「ところがどっこい。こうして触れる事が出来てるな?」

「もう、あの温もりを感じられないと思った……」

「まぁ、俺も死んじまったし、あの時言った通り、その時が来るまでいくらでも手くらい握ってやる」

「……勝手な事をしてごめんなさい」

「謝るな……俺のほうこそ、言うのが遅れたけど、あの時助けてくれてありがとう」


 右手で少女の頭を撫でる。

 桜花とは違う髪質だった。


「ぅっ……」


 それからは、泣き出してしまった少女が泣き止むまで頭を撫で続けた。




 落ち着いた少女からは色々な事を聞いた。

 自分が生物に触れると斬ってしまう事。記憶がない事。昔、とある商人の指を斬りおとしてしまった事……。


 冗談かとも思ったが、少女の口調からして本当の事なのだろう。

 だとすれば、何故俺は触れても大丈夫なんだ?


「あの……えっと……」

「裕……一ノいちのせ ゆうだ」

「あ、うん。あのね、ユウ。私、一つだけ思い出した事があるの」

「何を思い出したんだ?」


 少女に聞くと、掴んでいた服を離して俺に右手を差し出した。


「取って」

「――ッ!」


 その行為は見覚えがある。

 凍華も、桜花も俺にやってきた。

 まさか、そんな……。


「ダメ……?」

「それは……」

「いつでも握ってくれるって言った。私は、ユウがいいの」


 そう言われてしまえば、もうどうしようもない。

 俺は少女の右手を握った。


 一瞬光が視界を支配した後に、俺の右手には一振りの日本刀が握られていた。

 鞘はボロボロで何の細工もされていない。


「……」


 ゴクリと唾を飲み込みながら、左手に持ち変えて右手で刀を引き抜く。


「あぁ……」


 現れた刀身はまるで穢れを知らないかのように銀色に輝いていた。

 少女の髪の色と同じ……綺麗な銀色だ。


 ただ、この刀は桜花のような一般的な刀とは違う。

 峰の部分に何やら溝が出来ていて、柄の峰部分には刃が付いていた。


「そうか……だから、俺は触れても大丈夫だったんだな……。俺が、刀剣術スキルを持ってるから――俺が、お前を握る資格があったから」

《うん……裕の血を飲んじゃった時に思い出したの》

「そうか……」


 そっと目を閉じてから、鞘に納めようとすると少女から待ったの声が掛かった。


《待って。振ってみて……私、ちゃんとユウに振られるか心配なの……》


 そんな事、気にしなくてもいいとは思うが、彼女たち魔刀には俺には理解できない感情があるらしい。

 ならば、ここで俺にやれる事は願い通りに振ってあげる事だろう。


 慣れ親しんだ素振りの態勢を取って、刀を大きく振りかぶってそのまま振り下ろす。


 ヒュンッと風を切った刀身は素人の俺でもわかる程に見事と言えるものだった。

 この刀は間違いなく、業物だろう。


《ど、どう……?》

「最高だよ。間違いなく、業物だろうな」

《そっか……よかった》


 本気で安心してそうな少女に苦笑いしつつも、少女が満足するまで俺は素振りをした。

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