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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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雪降る戦場での誓い③

新年あけましておめでとうございます。

今年も定期的に更新していきますので、どうかよろしくお願い致します。

 星の精霊に行くよう伝えられたのは城の中庭だった。そこに辿り着いた裕が見たのは武装した兵士達と同じく武装したユキの姿だった。


「これは……?」


 その光景に戸惑う裕に対して武装した兵士――ガンダルがユキのために残した者達――は一斉に敬礼をし、代表としてユキが裕へと一歩踏み出す。


「ユウ様」


 裕とユキでは身長差がありすぎる。そのため、ユキが見上げる形になるのだが普段の姿からは想像出来ない程に今のユキは堂々としていて、ガンダルに匹敵する程の存在感があった。


「戦場へと赴くんですね?」


「ああ……時間は掛かったけど、俺は戦う」


「そうですか……」


 狐の面によって隠されているために表情はわからなかいが、その声色からどこか悔しそうにしているのを裕は感じた。


「本来、お父様のお客様であるユウ様にこんな事を頼むのは失礼なのですが――」


 だが、それも一瞬だった。


 言葉を紡ぎ始めた時には一種の覚悟を決めたような声色であり、周りの兵士もジッと裕を見つめている。


「どうか、お父様とお兄様たちを助けてください」


 そう言って下げられた頭。それと同時に周囲に居た兵士達も一斉に頭を下げた。彼らだって裕に頼むのはお門違いだと思っている。王の客人として招かれている彼の力を当てにするなどこの国に仕える兵士として恥ずべき事だ。


 だが、それでも、頼らなければならない。


 自分達もこの後戦場に赴くつもりではあるが、それでも時間が掛かってしまう。この国から戦場となっている国境まではどれだけ急いだとしても三日は掛かってしまう。それに、自分達が行ったとして王達を確実に救えるという保証は無かった。


 しかし、目の前の青年は違う。


 先の黒騎士との戦いを見れば王達を救う事が出来るはず。それに、単独であれば自分達よりも早く戦場に辿り着けるはずだという確信があった。


「……」


 だから、頭を下げた。


 本来であれば王族であるユキが頭を下げる事はあってはならない。兵士達もそう言ったのだがユキは自分が誠心誠意、礼を持って頼まねば何の意味があるのかと決して譲らなかった。


「……」


 だが、コレは自分達の我がままだ。


 未だ無言でいる青年が首を振れば、自分達だけでどうにかするしかなくなる。彼は今さっき戦場に行くとは言ったが、王達を助けてくれるとは言っていない。ユキの兄たちが彼にした無礼な態度を考えれば、断られる可能性は大いにあった。


 数秒か数十秒か……それとも数分か。どれだけ頭を下げたままの体勢でいるのかわからなくなり、コレはダメかもしれないとユキが感じ始めた辺りでユキは自信の頭に手が置かれるのを感じた。


「ぇ……?」


 思わず顔を上げると、そこにはどこか困ったような顔をした青年が自分の頭に右手を置いて立っていた。


「王は頭を簡単に下げちゃダメなんだろ? 頼まれなくても、ガンダル達はちゃんと助けるよ」


 そう言って広場の中央へと歩き出した彼は、振り返って自身の後ろを付いて来ていた星の精霊を見据えた。


「急いで行く必要がある。ここに俺を連れて来たって事は何か案があるんだよな?」


「ええ。でも、私一人の力では難しいわね。今の私は誓約が掛かったままだからそこまで大きな魔力は使えないの」


「で、でしたら! 私たちがお力をお貸しします!!」


 二人の会話を聞いていた魔法師団所属の女性が声を上げる。それに追従するように魔法師団の面々が声を上げる。


 それを見た星の精霊は頷き、裕に対して右手を掲げた。


「貴方を戦場まで“飛ばす”わ。目的地までは私の方でコントロールするけれど、着地まではカバー出来ないから貴方の方でどうにかしてちょうだい」


「わかった」


 星の精霊の言葉が正しく、そのままの意味で“飛ばす”だという事に気付いた裕は頬を若干引き攣らせながらも頷いた。


「貴方達は魔力を放出して頂戴。それを私が操作するわ」


「他人の魔力を操作……? わ、わかりました!」


 本来ならあり得ない事を言われた魔法師団の面々は疑問に思いつつも時間が無い事もあって素早く裕を囲むように展開し、魔力を放出し始める。


「一つ、言っておくことがあるわ」


 吹き荒れる魔力によってコートの裾がはためき、その風を受けて前髪を揺らしながらも戦場の方へと視線を向けている裕に星の精霊が魔力を操作しながら口を開く。


「なんだ?」


「私、まだ貴方に戦場に行って欲しいとは思ってないわ。あの時、言った言葉は全部本当の事だから……でも、貴方が行くと決めたなら止めないわ」


「ああ」


「本当なら私も一緒に行って力を貸したい所だけれど……貴方を飛ばさないといけないから。だから、一つだけ約束してほしいの」


「なんだ?」


「生きて帰ってきて。また、貴方の声を私に聞かせて」


 その言葉には悲痛な感情が込められていた。かつて、自身を魅了した彼が死んだ時の事を想って発せられた言葉を受け取った裕は静かに頷いた。


「わかった。必ず帰ってくる」


「ええ。待ってるわ」


 魔力の奔流が勢いを増す中で裕は身を屈めた。左手に持った鞘の取っ手を一度だけ握りなおし、雲一つない青空へと目を向ける。


『ユウ、緊張してる?』


「空を飛ぶなんて初めてだからな」


 白華しろかの言葉にそう返事をすると、裕の中に入っている沙織がどこか緊張したように声を上げる。


『私も生身で空を飛ぶのは初めてだよ……』


「普通、体験する事ないからな……まぁ、どうにかなるだろ」


『着地だけは気を付けないとね~』


『なんで白華ちゃんはそんなに楽しそうなの……』


 そんな会話をしていると、星の精霊から準備が出来た旨が伝えられた。自身の身体が僅かに浮き上がるのを感じながら裕が意識を切り替える。


「ご武運を!」


 誰が発したのか。そんな声に押されるように裕は上空へと飛ばされた。



◇ ◇ ◇



 国境付近の戦場は敵味方が入り乱れる乱戦だった。


 魔王側はスケルトン騎士(ナイト)で構成されている。スケルトン騎士は未来ではC級に分類される魔物だが、過去では魔素の濃さが影響してBランク相当に分類されている。だが、人類側の兵士達も魔素の影響を受けて一般兵士でもB級。指揮官クラスになればA級程の力を持ち合わせている。


 数では圧倒的に魔王軍が有利だが、個々の力を考えれば拮抗するはずだったが現在人類側は押されていた。


 原因は二つある。


 一つはスケルトン騎士が持つ中盾。この盾には強力な対魔法防御が施されており、人類側が放つ魔法はコレによって悉くが無力化され、大規模な面制圧が出来ない。そのため、近接戦がメインとなって混沌とした戦場が出来上がってしまった。


 二つ目はスケルトン将軍(ジェネラル)の存在。未来ではA級。過去ではS級に分類される強力な魔物であるヤツらが多数存在している。スケルトン将軍は個々の力も凄まじいが、特筆すべきはその指揮能力だった。


 烏合の衆ならばやりようはあった。だが、統率が取れた魔物の大群が相手となると数で劣る人類側に打てる手は多くは無かった。


「行け! 進めぇ!!」


「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


 敗北が目に見えている戦場であっても、人類側の兵士達はその手に得物を持って前へと進む。彼らだって死ぬのは怖い。だが、自分達がここで引けば目の前の敵が持つ武器は自分達の家族へと突き立てられると理解しているのだ。


「ぬおおおおおおおおおおッ!!」


 彼らの士気が落ちない理由は他にもある。


 今も尚、誰よりも前線に立って一撃でスケルトン騎士を巻き込みながらスケルトン将軍を斬り伏せたガンダルの存在だ。


 王が引かないのに自分達が引くわけにはいかないという思いが燃焼材となり、彼らを進ませ続けていた。


「ふんっ!!」


 ガンダルは素早く自分を囲もうとするスケルトン騎士を振り払って後ろへと跳び、自分の副官が戦っている場所へと着地する。


「王! そろそろ後方で治療を!」


「良い! 儂がここで引けば前線は維持できなくなる! それに、この程度は掠り傷でしかないわ!」


 そうは言っているが、ガンダルの身体には決して浅くない傷がいくつも出来ている。今はソレを筋肉を締め付ける事で血を止めているが、本来であれば今すぐにでも後方に下がって治療するものだ。


 副官もそれを理解しているが、ガンダルを止める事など出来ないと理解している。


「それより、報告を!」


「ハッ! どこも抵抗はしておりますが、やはり徐々に押されています! このままでは前線を抜かれるのも時間の問題かと……!」


「くっ! どうにかして持ちこたえよ! 我らがここで敵を通せば、後方にいる民たちが――」


 ガンダルの言葉が最後まで発せられる前に轟音と地響きが二人を襲う。


「何事――ッ!?」


 もうもうと立ち込める砂ぼこりが晴れ、二人が目にしたのは抉れた地面とバラバラになった兵士達の姿――そして、その中央に直立する一本の槍だった。


 否、槍と形容するにはソレはあまりにも大きすぎた(・・・・・)。身長が2mあるガンダルを超えてその長さは4mはありそうな物だ。


「……ッ! 次が来るぞ!」


 ガンダルがそう叫ぶのと同時に上空が煌めき、スケルトン騎士を巻き込むことなど考慮しない兵士達が多く居る場所へと槍が到来する。


「ぐぅ……オオオオオオオオオ!!」


 ガンダルは自分の方へと飛んできた槍を弾きながら、この攻撃が敵軍を率いている四天王の攻撃であると判断した。人類側で確認された四天王は二人であり、その中の一人が巨大な槍を使うという情報があったからだ。


「だが、何故このタイミングで……」


 戦闘が始まってかなりの時間が経っているのにも関わらず、このタイミングで初めて攻撃してきたことに疑問を抱くが、その考えはすぐに突撃してきたスケルトン騎士によって中断させられた。


「ぐっ! この好機を逃してくれる程、優しくは無いか!!」


 周囲を素早く見渡してみれば、他も同じような状況だった。さっきまでの人数が居てどうにか抵抗出来ていた人類側はその数を大きく減らした現状ではスケルトン騎士の波に飲まれて消えてしまうというのは、誰の目から見ても明らかだった。


「もはや、ここまでか……! じゃが、せめて兵達だけが下がる時間は稼がねば……!」


 覚悟をし、ガンダルが一歩踏み出して後退の雄叫びを上げようとした時、目の前の地面が爆ぜた。


「なっ―――」


 地面が爆ぜ、先程よりも大きな土煙が立ち込める中、両陣営が動きを止めた。いや、土煙の中に立つ人物が発する威圧によって動きを止めさせられたのだ。


 土煙の中でユラリと紅い二つの光が揺れ、兵士達を見渡すように動いた後にスケルトン騎士達へと向けられ――


「……一閃」


 不意に聞こえたその声と共に今まさに人類側に突撃しようとしていたスケルトン騎士全てに紅い斬撃が飛んだ。

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