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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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星に願いを――

 花びらに一瞬だけ気を取られ、視線を戻すとそこには黒騎士は居なかった。

 代わりに広がるのはあの場所で見た色とりどりの花が咲き誇る花畑。その奥に白いロングコートを着た誰かが立っていた。


『諦めるのかい?』


 不意に、その人物が聞いてきた。

 声は若いが間違いなく男であり、その声に含まれる感情はどこか楽しそうだった。


「諦めたくない……」

『でも、身体は動かず魔力も尽きた。自分の得物(白華)なしじゃもう膝を付く事さえ出来ない』

「それでも……ッ!」


 それでも、諦めたくない。

 確かに、身体は限界を超え、魔力は尽きた。黒騎士アイツに勝つ方法など何一つ思い付きはしない。

 だが、それでも、まだ心は折れていない。

 この感情が一時の物だったとしても。この衝動が表面上だけだったとしても……!!


『前へ―――――――』

「は……?」

『前へ前へ……自ら死地へと歩いて行く姿は変わらないか』

「何を言って……」

『一つ、昔話をしよう』


 俺の質問をぶった切って、目の前の男は背を向けたまま両手を広げた。


『昔、僕は突然現れた一人の青年に負けたんだ』

「……」

『当時の僕はオリジナル魔法を編み出したばかりでね。ソレをどうしても試したくて理由を付けてその男と戦ったんだ。まぁ、あの時は木の棒だったけどね』


 どこか楽しそうに語られるその話には、身に覚えがあった。

 というか、そのことに関しては記憶に新しい。


『その男は強かったよ。まだ子供だったとはいえ、僕とまともに打ち合う事が出来たんだからね。そして、僕は魔法(オリジナル)を使った。すると、どうなったと思う?』

「……その男も、同じ魔法を使った」


 俺の回答に男は嬉しそうに頷いた。

 後ろ姿のために顔は見えないが、きっと満面の笑みを浮かべているだろう。


『そう! 誰にも見せた事が無かったはずの魔法を彼も使ったんだ! あの時に僕が受けた衝撃を君に正しく、全て伝えたいけど……残念ながら、それだけの語彙力を僕は持ち合わせていない』

「結果は相討ち……というか、木の枝が砕け散って終わった。――お前の話は、俺の事だろう? そして、お前はあの時の少年だ」


 男は、広げていた両腕を下ろした。

 そして、楽しそうな空気から一変して悔しそうな空気を醸し出し始めた。


『僕が鉄の剣を取りに行って、戻って来た時には男は居なくなっていた。僕は悔しかった……何故なら、あの戦いは間違いなく僕の敗北で、男は勝ち逃げしたと思ったからね』


 そう言って空を見上げる男に釣られて、俺も空を見上げるとそこには雲一つない青空が広がっていた。

 だが、不思議と眩しいとは感じない。


『だから、いつか会った時のために僕は新たな力を求めた。でも、僕は魔力をほぼ持っていなくてね。これ以上の魔法を編み出す事は出来なかったんだ……だから、別の方法を考えた』

「……?」

『君は、精霊魔法を知っているかい?』

「単語だけなら……」

『この世は神や君も知っている“彼ら”以外にも精霊と呼ばれる者達も存在している。彼らに実体はないが――言葉で表すのであれば、事象であり、友であり、家族であり、良き隣人だ。彼らはどこにでも居て、どこにも居ない。好意的であり悪意的。協力的であり非協力的。友好的であり敵対的。そんな存在さ」

「よくわかんないな……」

『つまり、表と裏の同一体ってわけさ。そして、精霊魔法とは彼らと心を交らわせて、彼らの力を借りて発動する魔法の事だね』


 そんな魔法があるのであれば、この世界でも使っている人が居るはずだ。

 だが、俺が知っている精霊魔法という単語はあくまでも元の世界で呼んだ小説に出て来たから知っているだけで、こっちの世界で聞いた事は無かった。


『君が聞いたことがないのも当然だよ。精霊はたまに現れる素質を持った人間以外には観測出来ないからね。さて、話を戻そう。精霊には属性の分だけ種類が居るわけで、僕は何日も彼らに願ったよ『どうか、力を貸してくれませんか?』ってね』

「それで、借りれたのか?」


 男は肩を竦めて、溜息を吐いた。


『ダメだったよ。彼らは口を揃えて言うんだ『運命を決められた哀れな子供(ベラルタ・ベガ)。貴方には力を貸せません』ってね』


 ベラルタ・ベガがどういう意味なのかはわからないが、何故精霊は力を貸してくれなかったんだろうか。


『彼らだって善意で力を貸してくれるわけじゃないんだよ。君も知っての通り大きな力には相応の代償が必要だ。彼らの力を借りるには、魔力、身体の一部、人生の先にある栄光……様々な物から選んで渡さなければならない。でも、僕には何も差し出せる物が無かったんだ』

「なにも……?」

『うん。魔力も身体の一部も渡すわけにはいかなかった。人生の先にある栄光は……運命を決定付けられた者に訪れるわけがないからね』

「じゃあ、諦めたのか?」

『まさか! それでも僕は願い続けたよ。君も知っての通り、僕は負けず嫌いなんだ。それに……どうしても、守るためには力が必要だったからね』


 そう言って男は再度空を見上げる。

 俺も視線を空へと向けるが、そこにはやはり青空が広がっているだけで先程と特に変わった所はない。

 ただ、不思議と男には俺が見えていない物が見えている気がしていた。


『君は、星を見上げる事があるかい?』

「唐突だな……」

『失礼。重ねてお詫びすると、本当はこの答えを知っているんだ。君はきっと、星をよく見上げるだろう?』


 言われて考えてみる。

 確かに、何かと見上げる事は多いかもしれない。


「でも、それがどうかしたのか?」

『星を見上げるなんてよくある事、と普通なら言えるんだけど君の場合はちょっと違う。頭では忘れてしまっていても魂が覚えているのさ』

「何の話をしてるんだ? お前の話は色々と脱線したり遠回しで分かりづらい」

『そんな態度でさえ、懐かしいよ。さて、精霊たちに願い初めて二年が経った頃、とある精霊が僕に声を掛けて来た。彼女は僕に力を貸してくれると言って来たんだ』


 その言葉を聞いて疑問に思った。

 何故、今までどの精霊も力を貸してくれなかったのにソイツだけは貸してくれる気になったんだろうかと。


「騙されたって話か?」

『精霊は嘘を吐かないし、契約を違える事はないよ。まぁ、こちらが違えない限りだけどね』

「なら、莫大な代償を求められたとか?」

『ふふ、忘れていてもそういう所は変わらないね。さて、その話をする前に彼女について話しておこうか。火も風も土も水も闇も光でさえも僕に力を貸してはくれなかった。でも、彼女だけは貸してくれると言った。さて、彼女は何の精霊だと思う?』


 今出て来たのはこの世に存在する魔術の系統全てだ。

 ならば、他に一体誰が手を貸してくれると言うのか。


「悪魔とか?」

『そんな事を言ったら彼女に怒られるよ? 正解は“星”さ』

「は?」

『星は魔素の源。全ての原初だ。そこに精霊が居ないなんてあり得ない事だったんだよ。ただ、人は――いや、生き物は自分が認識出来ない物は全て“存在しない”と決めつけてしまう癖があるよね』


 星――確か、白華も言っていた。

 星とは魔素の源だと。


「仮に星の精霊が居たとして、何でお前と契約する気になったんだよ?」

『彼女が興味を持ったのは僕自身にじゃないんだ。その先にある人物に興味を持ち、未来を観測し、そして好きになったらしいよ?』

「何を言ってるのかわかんないな」

『ここら辺を説明する事は誓約で出来ないんだ。ただ、結果として言えば僕はいくつかの契約を交わして彼女の力を借りる事が出来るようになったという事さ』


 なら、最初からそう言えばいいのに。

 コイツは何かと遠回しで喋る癖でもあるのだろうか。


「星は夜にしか見えないが……もしかして、夜限定なのか?」

『いい着眼点だね。火も水も風も土も光も闇も――みんないつでも居るのに星は夜にしか姿を現さない。だから、君がそう思うのも無理はないだろう』


 だが、と続けて男は青空を指さす。

 真っ直ぐに、決して見失っていないというように一点だけを。


『それは君たちの視点では、だ。星はいつでも僕たちを見下ろしている。どんな青空でもどれだけの曇天でも……ソレは変わらない』


 言われて、指の先を見てみるがやはり青空が広がっているだけだった。


「おい、何も―――」


 見えないぞ、と続けようと視線を戻すとそこには男の姿はなかった。

 ただ、俺の背後から花の匂いがした。


『なに、向こう側に戻ればきっと見える』


 耳元から男の声がして、背筋に鳥肌が立った。

 男に耳元で囁かれて嬉しいヤツなんていないだろう。


『いいかい? 忘れてしまった君に最初の一句だけ教えよう。コレを教えないと彼女に怒られてしまうからね。彼女、怒ると凄く怖いんだ』


 楽しそうに言う男は、そっと俺の背中に手を当てた。

 そして、勢いよく押した。まるで、前へ進めと言わんばかりに。



『“星に願いを”――もう、忘れてはいけないよ』



 最後に聞こえた声はそんな物で――風の壁を突き破ったかのような突風が顔面を叩き、目を細めた先に一瞬だけ麦畑が見え、気付いた時には黒騎士が大剣を振り下ろしている所だった。


『ユウッ!!』


 白華の焦る声を聞きながら、悲鳴を上げるだけで動かない身体と初撃で切った頭から流れ出す血で左側の視界だけ赤く染まる中で、黒騎士の背後に俺は確かに見た。


 悠然と輝く、一つの星を。


「“星に願いを――――”」


 そして、無意識に俺はその言葉を口にしていた。

白華「というわけで! 教えて白華先生の時間だよ!」

沙織「わー!」

裕「え? どこだここ? てか、何でホワイトボード? 白華はなんで白衣???」

白華「ユウくん、授業中は静かに!」

裕「えぇ……?」


白華「さて、前回の続きだけど、まずは人が魔力をどこに保有しているかを説明する必要があるね(カキカキ」

沙織「白華先生、絵上手いね」

白華「今日のために練習したから! それで、人間の魔力は人体内のどこかにある魔臓という場所にあると言われてるんだ」

沙織「魔臓?」

白華「正式名称は“魔術的魔力供給架空臓器”だね。魔術学会が提唱している架空の臓器だよ。ちなみに、魔術師何百人も解剖しても見つけられなかったから、どこにあるのかわからないって事だね」

沙織「魔術を使える人はみんな持ってるの?」

白華「うん。この魔臓は空気中の魔素を取り込んで、人が扱えるような魔力に変換・貯蔵・供給する機能があるんだ。そして、コレがなければ魔術は使えないとされてるんだよ」

沙織「へぇー」

白華「さて、どうして私と契約している事でユウの筋力とかが上がるかだけど――」


キーンコーンカーンコーン


白華「あっ、もう時間だ! じゃあ、続きはまた次の授業でね!」


裕「チャイムまであるのかよ……結局、ここはどこなんだ……てか、途中でサラっと怖いこと言ってなかったか?」

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