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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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氷の国③

 甘い残り香に誘われるように目を開けると、隣には沙織《さおり》の姿は無くて代わりに昨晩着ていた寝巻きが綺麗に畳まれて置かれていた。


「……何やってんだ」


 覚醒し始める意識の中で、昨晩の出来事がフラッシュバックして顔に手を当てる。

 疲れていたし、何かそういう気分になってつい沙織の誘いに乗ってしまったが、異性と添い寝とかいう初めての経験は結構刺激が強い。


「ユウ、おはよう」

「白華《しろか》……」

「昨晩はお楽しみだったね?」


 白華が首を傾げながら言った言葉に吹き出しかけたが、どうにか我慢する。

 一体、どこでそんな言葉を覚えて来たのか……。


「添い寝しただけ……だよな?」


 寝ている間にもしかしたらと思って疑問形になった。

 白華はニヤニヤしているが……。


「大丈夫。ぐっすり寝てたよ」

「なら、そんな意味深な顔をしないでくれ……」


 舌を出す白華をジト目で見ながら、身体を起こして固まっていた筋肉をほぐす。


「ちなみに、今って何時かわかるか?」

「私は時計じゃないよ? でも、大体いつも起きてる時間と同じくらいだと思うよ」


 結構寝た気がしていたが、どうやら染みついた習慣はいつもどおり機能したらしい。


「いつもよりも何かスッキリしてるな……」

「サオリの胸に抱かれて寝た効果じゃない?」

「……アホ言うな。ほら、鍛錬にいくぞ」


 これ以上は不味いと判断して話題を変えたが、そこで白華が待ったを掛けてくる。

 どうやら、沙織から伝言を預かっているらしい。


「洗濯と補修をしたいから、服は全部置いていってほしいらしいよ」

「補修……?」


 言われてよく見てみれば、確かにあちこちにボロが出ていた。

 ていうか、昨日の戦いで最後の一押しが入った感じがするな。


「じゃあ、俺は何を着ればいいんだ?」


 悲しいことに、俺は服をこの一式しか持っていない。

 この服は【清浄】の効果が付与されているから洗濯は最低限で済む。何よりも、全身鎧《フルプレートアーマー》よりも防御力がある。


「服ならそこにあるよ?」


 そう言って白華が指差した先にあったのは、沙織が畳んで置いていった寝巻きだった。

 沙織の匂いがついたソレを着ればいいと白華は言いたいらしい。


「冗談だろ?」

「サイズは合わないだろうね」

「そういう問題じゃないだろ……」


 俺達がそんな話をしていると、襖が控えめにノックされる。

 返事をすると、襖が開きユキが顔を覗かせた。


「頼まれていたお着替えをお持ちしました……」


 どうやら、沙織が予め手配してくれていたみたいだ。

 てか、そういうのって使用人が持ってくるものじゃないのか? 王族のユキが持ってくることに違和感があるな……。


「この時間は、みんな忙しい……ので」

「なるほど」


 俺の表情から考えている事を察したであろうユキの言葉に頷き、着替えを受け取る。

 ユキが襖を閉じた後に着替えてみれば、渡されたのは黒色の着流しだった。


「まぁ、この国の人達はみんな和服とかだったもんな」

「動きにくそうだけど、大丈夫?」

「慣れれば問題なさそうだ」


 初めて着たけど、意外と動けそうだ。

 それに、着心地もかなりいい。俺は沙織と違って目利きは出来ないが、かなりいい布を使っているんだろう。


「さて、朝の鍛錬に行くか。使っていい訓練場は昨日の内に聞いてあるしな」

「私はまだ眠いから、ユウ連れてってー」


 差し出された手を握ると、白華はそそくさと刀状態になった。

 どうやら、本当に眠かったらしい。


「でもコレ、そのまま持ち歩いてたら捕まりそうだな……」


 辺りを見渡して、白華を包めそうな布を見つける。

 何でここに置いてあるのかわからないが、いったん拝借していこう。


 白華に巻き付け、襖を開けるとソコにはユキが待っていた。


「ご案内、します……」

「ああ。土地勘がない場所だからな。ありがとう」


 お礼を言うと、ユキは頷いて先を歩きはじめる。

 小さいながらも背筋が伸びたその姿を後ろから眺めつつ、俺も後へと続いた。



△

▽



 案内されたのはかなり広い闘技場だった。

 正直、ここに来るまでにいくつもの角を曲がったりしたから、一人で帰れる自信はない。


「ありがとう」


 案内してくれたユキに礼を言って、身体を動かしながら周囲を見渡す。

 こんなに広いのにも関わらず、人が誰も居ないな……。


「ここは、おとうさ……王専用なので……」

「そうなのか。てか、そんな場所を使わせてもらっていいのか?」

「王が決めた事なので……」


 良くも悪くも、王の決定が全てのようだ。

 ガンダルが何を考えてこの場所を俺に提供したのかはわからないが、ありがたく使わせてもらおう。


「……」


 白華を抜きながらチラリと背後を見てみると、ユキは入口付近でこちらを見ていた。

 どうやら、見学するらしい。


『ついたぁ?』

「ああ。今から始めるぞ」

『はぁーい』


 朝練のメニューは決まっている。

 まず、自分の魔力を認識する事。咄嗟のタイミングで魔法を使うには、こういう所から訓練していった方がいいらしい。

 それが終わったら、素振りだ。

 白華を両手で構えて、上段から振り下ろす。


『よく寝たからかな? いつもよりいい感じだよ』

「そうか?」


 素振りをしばらく続け、白華が満足したら最後の訓練に入る。


『今日は勝てるといいね』

「勝つさ」


 目を閉じ、集中――脳内に思い浮かべるのは剣聖。あの時に戦ったままにイメージする。


「――ッ!」


 イメージを終えた直後に目を開くと、そこには確かに剣聖が居た。

 両手に剣を握った剣聖が踏み込んでくるのを迎え撃つように白華を振るうが、相手はまるでソレを読んでいたかのように半歩下がる。

 相手は所詮、俺の記憶を元に作ったイメージ体だが……その強さは本物だ。

 あの戦いから、毎日こうやって戦っているが勝てた事なんて一度もない。


「ぐぅっ……!!」


 一体どれくらい戦っていただろうか。

 最後は剣聖が振るった右手の剣を弾いた瞬間に突き出された左手の剣で心臓を突き刺されて終わった。


「……」


 流れる汗を拭いながら息を整えていると、後ろから拍手が聞こえて来た。

 ユキかと思って振り返ってみると、そこには満面の笑みを浮かべたガンダルがユキの隣に立っていた。


「見事じゃな。しかし、お主が考える相手は余程強敵と見えるな」

「まぁ、俺が知ってる限りで最強の――」


 ふと、そこまで言いかけて俺はある事に気付いた。

 白華は、未来よりも過去の方がモンスターは強いと言っていた。つまり、そのモンスターと戦う人間達の強さも過去の方が高いんじゃないだろうか?

 となると、目の前に立っている大男は剣聖を超えるのだろうか。


『残念だけど、おじいちゃんと剣聖を比べる事は出来ないよ。タイプが違い過ぎるからね』


 考えている事がわかる白華がそう言う。


『おじいちゃんは確かに強いけど、力で全てをねじ伏せる強さなんだよね。対する剣聖は技術が高くて強いタイプなの』


 だから、比べる事に意味はないと白華は言う。


「急に黙り込んでどうかしたのか?」

「いや……ガンダルが知っている範囲でいいんだが……技術が高くてガンダルくらい強い人間っているか?」


 俺が聞くのと同時に、ユキが焦ったような雰囲気を醸し出す。

 というか、両手をバタバタさせている。


「ふむ……儂にソレを聞く人間はこの国には存在せん。何故ならば、この国の王とは“何者よりも強い”からこそ王だからじゃ」

「あ……」


 そこで、自分の失言を悟った。

 怒らせたかもしれないと思って、視線を向けるとガンダルは考え込むように髭を触っていた。


「本来ならば……『そんな人間は存在せん。儂が最強じゃ』と答えるのが王として正解なのだろうが……」


 閉じていた目を開けて、チラリと俺を見たガンダルは言葉を一旦止めた。

 そして、肩を竦めて仕方ないと言った風に笑う。


「お主にならば、良いか。儂が知っている限りでお主の言う条件に合う人間は三人だけ存在した」

「した……だって?」

「うむ。極東の大陸にある国におる“轟雷”の異名を持つ男、この国から南の方にある国の将軍である“蘭歌”の異名を持つ女」


 名前が呼ばれる度にユキがビクリと反応する事から、本当に強いんだろう。

 しかし、今言われた二人は言葉のニュアンス的にどっちも遠い国に居るっぽいな……。コレでは、会いに行って挑戦する事は出来ないか。


「そして、隣国の“千才”の異名を持つ男じゃ」

「隣国……!」


 それなら、結構近いんじゃないかと思ったが、ガンダルは目を閉じて腕を組んだ。


「今、この世に存在しておるのは……轟雷だけじゃ。いや……轟雷でさえも国が遠すぎて連絡が取れん故に健在かどうかわからぬ……」

「なん……」


 恐らく、今名前が上がった三人はどれも剣聖に匹敵――もしくは、それ以上の実力を持っていただろう。

 そんな人間が……もはや、人間と言っていいのかわからない程に強い生物が死ぬだと?


『……最悪の一日』

「最悪の一日……?」

『私が読んだ歴史書に書いてあったんだけど、人類で最強と名高い三人が一日の内に全員殺されたの。ソレが……最悪の一日』


 白華の言葉が本当だとしたら、轟雷さえも既に死んでいるんだろう。

 だが――


「一体、誰が?」

「『魔王』」


 二人の声が重なる。

 魔王――その固有名詞に、心臓が大きく脈打つ。


『この時代の魔王は、歴代の中でも最強と言われる程の存在だったの。人類は魔王軍との戦争で人口の約7割を失ったとされてるくらいにね』

「ヤツは最強じゃ……儂も、一度だけ相まみえた事があるが……命からがら逃げだす事しか出来んかった」


 二人の言葉に、俺は何も言えなかった。

 ガンダルの実力は昨日でよくわかっている。そんな男でさえも太刀打ちできない程に強いのか。


「……ガンダル。頼みがある」

「申してみよ」


 俺には力がいる。

 目的を果たすためにも――沙織を守るためにも、誰にも負けない力が。


「俺に……心剣《しんけん》を教えてくれ」

「――」

『ユウッ!?』


 白華が驚いた声を上げる。

 ソレはてっきり白華以外の武器を使う事への抵抗感から来る物かと思ったが、どうやら違うらしい。

 その理由は、目を閉じたガンダルが静かに説明してくれた。


「心剣か……お主は心剣がなんであるか知らぬだろう」


 目を開けたガンダルは静かな空気で語りだした。


「心剣は、真の剣でも……神の剣でもない。心の剣と書いて心剣というのじゃ。お主にこの意味がわかるか?」

「……心を具現化させた剣?」

「おしいな。じゃが、本質は間違っておらぬ。心剣とは確かに己の心にある剣を具現化するものじゃ。心とは本質。本質とは魂の根源――ソレを具現化して武器として使うなど、この世の理に反した物でしかないのじゃ」


 ガンダルの説明に首を傾げていると、右手に持っていた白華が小さく震えて人型になった。


「ユウ、心剣は使用者の心次第で強さが変わるの。でも、大きすぎる力には代償が付き物……」

「うむ……心剣は、使用者を殺す剣じゃ」

「使用者を殺すだって……?」


 聞き返した俺にガンダルは静かに頷く。


「心剣は――使う度に魂を擦り減らす。それ故に、使い続ければいつかは死に至るのだ。代々、心剣の使い手は短命だと言われているが、コレが原因じゃな」

「ソレ、言っていいことなのか?」

「勿論、我が国のトップシークレット……王族にしか伝わっておらん事じゃ」


 教えてくれって言ったのは俺だけど、そんな重要な秘密を簡単に口にしないで欲しい。

 そういう事なら、無理と一言言ってくれれば……。


「お主の目からは覚悟を感じたのじゃ。儂は、そういう戦士に適当な誤魔化しをする事を好かん」

「……そうか」

「ユウ……心剣の事はほとんど何も伝わってなかったんだけど、使用者が短命って事は知ってたの。それも半信半疑だったけど……今、おじいちゃんの話を聞いて確信した。この技術は“あってはならない”物だよ……」

「白華……」


 そう言って見上げて来る白華の瞳は不安そうに揺らいでいる。

 理由はどうであれ、白華は心の底から俺の事を心配してくれている。


「……それでも、ユウは習得したいの?」


 白華を一瞥した後、俺はガンダルの方を向く。

 心は決まっている。

 この先に進むには、デメリットを怖がっていたらダメなんだ。


「ガンダル……俺に、心剣を教えてくれ」


 俺の言葉にガンダルはしばらく考える仕草をした後、ゆっくりと頷いたのだった。

白華「でも、剣聖って本当に強かったよね。あの時代じゃ考えられないくらいだよ」

裕「確かに、頭一つ抜けて強いな」

白華「この時代の人なら何となく納得出来るんだけどなぁ……そもそも、剣聖って何歳なんだろ?」

裕「見た目的には結構若そうだよな」

白華「うーん……でも、見た目通りじゃ無さそうなんだよねぇ……そもそも、アレって人間なのかな?」

裕「どうだろな……見た目がかなり良かったけど」



沙織「剣聖って……誰だろう……? 見た目がいいって事は女性なのかな……?」

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