最期の願い
仕事が忙しく、長らく更新する事が出来ませんでした。
楽しみにしてくださっていた読者の方、本当に申し訳ございません。
短いですが、よろしくお願いします。
佐川 涼平君はクラスメイトの一人だったけど、そこまで関わりがあったわけじゃない。
流石に一之瀬君よりは交流があったけど、それでも挨拶をしたり一緒の委員会で話した事があるくらいのレベルだった。
「僕が城の外に出ている間に神崎さんが出て行っちゃったって聞いて焦ったけど、こうしてまた会えたのはやっぱり運命だよね」
「運命……?」
「うん。神様が僕にこんな素晴らしい力をくれたのも、こうして神崎さんを手に入れるためだったと言われれば全部納得できるよ」
私の記憶にある佐川君はその幼い顔立ちに似た大人しい性格で、一部の女子からはそこそこの人気があった男性だった。
だから、見た事もないような顔で笑うその姿は記憶とは似ても似つかない。まるで別人だ。
「さ、こんな寂れた場所にいつまでも居ないで僕と一緒に行こう」
彼は何を言っているんだろうという気持ちが私の中に溢れる。
確かにここは辺境も辺境だけど、それでも人の温かさとかが溢れていてとても居心地がいい場所だ。
それに……一之瀬君との思い出の場所でもある。
「神崎さん?」
「ねぇ、佐川君……」
ふと、そこで彼を囲うようにして立っている女の子たちが目に入った。
身長も髪型も服装もバラバラで、共通している事と言えば性別と生気が抜け落ちたかのようなその顔だけだ。
「どうしたんだい?」
「その子達は一体……?」
「その子達……? あぁ! 奴隷達の事か! この子達は僕の力で奴隷した子達だよ。色んな国を巡って優秀な騎士とか魔術師を集めたんだ」
「奴隷……」
まるでお気に入りのおもちゃを自慢するかのように言う彼に対して嫌悪感を抱く。
「その……貴女達はそれでいいの?」
「「「……」」」
思わず近くに居た女の子に話しかけてみたが、返事は返ってこない。
「あぁ、彼女達に何を言っても無駄だよ。なんせ、感情なんて備わってないからね。ついでに言えば思考もしないから不満なんてあるはずないよ」
「そんな……」
「まぁ、本当は僕としても色々な感情が見れた方が面白いんだけど……この力の最大のデメリットが原因でソレが出来ないんだよねぇ」
そう言って佐川君はやれやれと言った風に首を振るう。
だが、そうしていたのも一瞬ですぐに満面の笑みを浮かべて私に近づいてくる。
「ま、むしろ感情が無い方が幸せなんじゃないかな? なんせ、一度死んでるわけだし」
「え……?」
「僕の力は他人を意をのままに操る力なんだけど、そのためにはまず対象を一度殺さないといけなんだよね」
そう言っていつの間にか握っていた禍々しい短剣を振り上げる。
(まずい――)
本能が警告を上げてすぐにその場から逃げようとするが、既に両肩を二人の少女に抑えられていて動くが出来なかった。
「大丈夫。神崎さんもすぐに彼女達のように何も感じなくなるよ。一生綺麗なままで僕の傍に居るんだ……幸せでしょ?」
「そんな事を幸せだなんて感じない!」
「えぇ? あ、わかった。クラスのオタク君たちが話してたツンデレってやつでしょ? まったく、素直じゃないなぁ……でも大丈夫。奴隷にしたらすぐに素直な気持ちを聞いてあげるからね」
そう言って振り下ろされる短剣は結末を見なくても私の左胸を突き刺す事がわかった。
今までの人生が走馬灯のように脳内を駆け巡り、最後に一つだけ小さな願いが残る。
「あぁ……」
決して小さくない衝撃が左胸を襲い、とてつもない吐き気がこみ上げて来る。
でも、口から出たのは微かな言葉だった。
「せめて……君の腕の中で死にたかったな……」
私に言った事を現実にする力なんて無い。
それでも――上空から私と佐川君の間に降って来た彼は紛れもない現実だった。
「――」
黒い外套を翻し、その右手を振れば紅い軌跡が暗闇を一瞬だけ照らす。
押さえつけられていた身体が自由になり、倒れる私を一之瀬君はそっと抱きかかえた。




