ラストチャンス
あの夜から二日が経ち、白華の力がある程度回復した事もあって裕の傷も大方治りつつあった。
あれ以来、少しだけぎこちなかった神崎と裕も二日も経てば元通りになった。いや、正確に言えば最初よりも神崎の立ち位置が近づいている。当初は裕も神崎も「所詮は他人」という認識の元で一時的にお世話になっているという認識だったが、現在の神崎は「他人以上家族未満」という感じだ。
そんな気持ちが影響してか、裕へと白華へのお世話も手の込んだものになりつつある。神崎は身内には尽くす女なのだ。
「今日もいっぱい獲物が居ると良いね~」
「そうだな」
そんな神崎の気持ちなど知らない裕は白華と一緒に村から離れた森へと足を踏み入れている。
村人の脅威であるゴブリンの巣を単騎で倒せると判明してからの仕事はこうして森へと入って脅威となりうる魔物を間引いたり、ついでに鹿などを狩るという物になったからだ。裕としても、白華の力を素早く取り戻すには『獲物の血』が必要だったために引き受けており、こうして毎日森へと足を踏み入れている。
「ユウはさ、サオリの事どう思ってるの?」
「神崎……? 世話になってる人ってのと元クラスメイト」
「うーん……ユウはオンナゴコロをわかってないよね。ユミの時もそうだったし」
「……? なんでそこで佐々木が出て来るんだ?」
「ユウがそれでいいなら、私もそれでいいよ」
「……」
やりづらいな、と裕は思った。
契約している以上、お互いに様々な誓約がある。その中の一つでもある「契約者と魔刀は考えている事が少しわかる」という物がある。コレは、裕が考えていても口に出さない事を白華は感じる事ができ、逆もまた然りだ。
そのため、白華は裕が吐いた“嘘”を見抜いていた。
(そういう余裕は俺にはないんだよ)
あの夜以降、神崎から自分に対して何かしらの好意は感じている。だが、いつかは村を出て自分の目的のために行動しなければならない裕にとってソレを受け入れる事は出来ない。表面上だけ受け入れたとしても、いつかは絶対に傷つけるのだから“何も気づかないフリ”をしていた方がお互いのためだと判断している。
「なら、この話はここで終わりだ」
言外に二度とするなという気持ちを込めて言うと、前を歩いていた白華が振り返る。その顔は真面目であり、これから大事な話をするという気持ちが契約線を通じて伝わってくる。
「ユウがそれでいいなら私もそれでいいっていうのは本当。私は私の所有者だし、私はユウのための武器だから。でもね、最後にコレだけ言わせてほしいの」
「……なんだよ」
「“人間として”生きるなら、コレが最後のチャンスだと思うよ。ここで全てを忘れて幸せに生きる事を取れば――人間として、人並みの幸せを選ぶならこれが最後。ここが分岐点なの。だから、真面目に考えてほしい」
立ち止まって真剣な顔をした白華を見て、それが本気の言葉だとわかった。だから、裕は真面目に考えて――答えを出した。
ソレは苦難の道だ。歩き続ければ周りの全てが自分を傷つけ、自分も周りを傷つけるという事も理解している。だが、それでも、あの時に誓った事を嘘には出来ないし、諦めるなんてあり得ない。
「俺は、立ち止まらない。この先に何があったとしても歩き続けるよ」
「そっか……なら、私も一緒に行くよ。私は、ユウの物だから」
聞きたい事は聞いたと言わんばかりに「それよりも獲物いないねぇ~」と言いながら再度歩き出す小さな背中を見つつ、裕はそっと目を閉じる。
瞼に浮かぶのは自分の半身と言える幼馴染の姿。魔王に連れて行かれて以降、一度も会っていない彼女は今、何をしているのだろうか――。
「ユウ、行こう?」
「ああ」
自分を見つめる紅い瞳を見ながら、はやる気持ちを抑える。
今の自分が焦った所で魔王には勝てないと理解している。焦らず、慎重に、それでいて迅速に。でなければ、この先が見えない道を踏み外す事無く歩くことは出来ないのだから。
『君のために繰り返す/The Primordial Story』という全ての始まりを書いたものも投稿していますので、よければそちらもよろしくお願いします。




