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剣聖

 踏み出したのは両者同士。

 だが、先に言葉を発したのは裕だった。


「――発射インパクト


 それは魔力量が一般人よりも低い裕に許された唯一の“魔法”だった。

 この世界で一般的に使われているのは魔術であり、失われた奇跡としてまことしやかに語られているのが魔法。魔術と魔法の違いは多々あれど一番代表的な物としては“代価”がいつ請求されるかだろう。

 魔術は事象を起こした後に代価――主に魔力を消費する。それに対して魔法は事象を起こすために代価を支払う必要がある。

 一般的に魔術は魔力と属性適正さえあれば誰でも使えると言われているが、魔法は先天的な才能が必要と言われている。それ故に使い手は少なく、魔法を使える人間が生まれるのは数百年に一人とまで言われている程希少なのが現状だった。


『あは……』


 それだけ聞けば魔法よりも魔術の方が優れているように思うだろうが、実際はそんな事はない。何故ならば魔法には“支払った代価に比例した事象を発現させる”という特性があるからだ。

 多くの魔力を込めれば最上位魔術さえ霞んで見える程の威力を持った攻撃をする事も出来る。それに――


『あははっははははっ!!』


 ――どれだけ魔力が少なくとも、代価さえ支払えるのであれば事象を発現させる事が出来るのだ。


『この感覚、本当に最高! ユウってば、滅多に血をくれないから私喉が渇きすぎて干からびちゃいそうだったよ!』


 どこか色気があるまだ幼い声が裕の脳内に響く。

 白華しろかの柄に付いた長く黒い黒龍布こくりゅうふは急激に白く染まり始めた。


「白華、今は目の前に立つ男を斬る事だけに集中してくれ」

『わかってるよ。でも、戦うにしても楽しむのは必要でしょ?』

「……好きにしてくれ」


 およそ殺し合いに似合わない明るい声に眉を顰めながらも足は止まらない。

 ただ、今の裕にとって自らの一歩と相手の一歩は遥かにゆっくりとした物だった。何故なら血を得た白華が所有者《裕》の体感速度を調整しているからだ。

 間合いにしておよそ五歩。そこまで踏み込んだならば勝負は一瞬で決まるという事を白華は理解していた。


『流石、剣聖って呼ばれるだけはあるよね。素のユウじゃ結構辛い相手だったかも。でも、大丈夫! ユウが血をくれたなら“私たち”に殺せない相手なんていないよ』

「当たり前だ。俺はこんなところで死ぬつもりはない」

『インパクトまで使ったもんね。コレで明日のユウは筋肉痛確定だね~』


 白華は筋肉痛と軽く言っているが、実際には身体の限界を超えた動きによってボロボロになった全身の筋肉が白華によってゆっくりと超回復されるという拷問よりも酷いものだ。


「あと三歩だ」

『大丈夫。もう全部見切ったから……ユウにも見えるでしょ?』


 そう囁く声に身を寄せてみれば、視界には紅い線が現れた。

 何重にも重ねられた線はアルドルノが振るう剣の軌跡。コレを超えた先にこそ勝利がある。


「あと一歩」

『れっつごー!』


 気の抜ける掛け声と同時にお互いの間合いに入る。

 先に仕掛けたのはアルドルノ。右手に持った剣が突き出され、それを追うように左手の剣が振るわれる。

 一撃でも貰ったら……いや、掠っただけでもその剣に纏われている魔力によって自らの身体は消し飛ばされると判断した裕は初撃を白華で上へと弾く。続く二撃目は返す刀で下へと叩きつけた。


「――っ!」


 アルドルノが息を飲む気配が空気を伝って裕へと届く。

 言葉にするのは簡単だった。考えるだけならば誰でも出来た。ただ、ソレが通常ではあり得ないという事だけは事実だった。

 アルドルノが振るった剣は間違いなく神速であり、ソレを二撃とも弾くなど“本来ならあり得ない事”だからだ。


「オォッ!!」

「はぁっ!!」


 続く一合。アルドルノは砕かれた左手の剣を素早く破棄し、残った剣を両手で持ち振り下ろす。この全力の一撃を相殺する事は出来なかった。それ故に裕はありったけの魔力を白華へと叩きこみ、どうか折れないでくれよと祈りつつ刀身を立てる。

 振り下ろされる直剣に添えられるように刃を当てられた白華は自らの刀身に直剣を滑らせ、その軌道を僅かに横へとズラす。


「くっ!」

「――!!」


 衝撃は一瞬。裕は背中から叩きつけられる衝撃を勢いとして利用し、アルドルノの脇を駆け抜けていく。そうして二人は斬り合う前と同じ距離を離れた。


「はぁッ……はぁッ……!」


 最初に息を吐いたのは裕だった。

 ボロボロになった右手で持った白華を地面へと突き刺し、肩で息をする。どれだけ酸素を肺へと叩きこみ、息を整えようとしても心臓はあり得ない程に脈動し全身の肌は粟立って止まなかった。

 今の攻防は本当にギリギリだった。一手間違えれば……ほんの数ミリでもズレていたらこの世に自分という存在は既になかったと言える。剣聖の剣は間違いなく本物で、これまでに斬り伏せてきた相手は三十や四十なんて数でさえない。一体、何がそこまで彼を駆り立てたのか? その末に一体何を見て、この剣に至ったというのか。


「――ああ」


 アルドルノがぽつりと声をこぼす。ユウがその声に反応して肩越しに振り返ってみれば、そこには空を見上げたまま佇むアルドルノが居た。右手に持った剣は既にその形を保つ事が出来ずに小さな粒子――アルドルノの魔力に包まれて消えていっていた。


「君の勝ちだ」


 ボトリと音を立ててアルドルノの左腕が地面へと落ち、それと同時に脇腹からは血が噴き出す。

 間違いなく致命傷のはずなのにアルドルノはゆっくりとした動作で首にかけたペンダントを外し、裕へと投げ渡す。


「君が求めていた物はソレだろう。詳しい事は僕も知らないけど……とあるお方が言うには、過去に君と同じ武器を使っていた人間が所持していた物らしい」

「……そうか」


 投げ渡されたペンダントをどうにかキャッチした裕はソレが本物であるという事を確認して呟いた。

 銀装飾が施されたペンダントは中が見れるようになっているがその口を開くことはできない。ただ、裕の中にある何かがソレを本物だと叫んでいた。


「行くといい。もうすぐ、砦に待機していた兵士を連れて彼らが戻ってくるだろう。流石に今の君では手に余るだろう?」

「……」


 ペンダントをポケットへ入れ、地面から白華を引き抜いた裕は最後にアルドルノを一瞥してからその場から消える。


「僕は、君にとって強敵であれたのだろうか」


 その場に残されたアルドルノはそう呟いてから地面へと沈んだ。

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