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乱入者③

 ダンジョンで戦うモンスターよりも強大な殺意。それを向けて来るのが同郷のクラスメイトという事態に異世界組はパニックを起こしていた。

 こんな時に指揮を執る勇者である春斗はるとは先の一撃で気絶しており、異世界の将軍も目の前に佇む【化け物】に本能が怯えて声を発する事が出来ない。


「お前……一之瀬なのか……?」


 そんな中でも盾の勇者という一番の精神力と防御力を持つ馬籠まごめだけはどうにか持ちこたえて目の前の化け物へと声を掛ける。


「ああ。久しぶりだな」

「どうしてここに……いや、それよりもどうして俺達を攻撃するんだ!? 仲間だろう!」

「仲間……?」


 馬籠の言葉に一之瀬 裕はピクリと眉を動かしてから元クラスメイトの顔をジッと見た。


「俺は、お前たちを仲間だと思った事はない」

「なっ――」

「なぁ……お前たちの目的ってなんだ? 元の世界に帰る事か?」

「ああ、そうだ。俺達はあの世界に残してきたものが多すぎる……誰だって、元の世界に帰りたいと思うのは当たり前の事だろ」

「その方法はわかってるのか?」

「……王様が魔王を倒せばわかると言っていた」

「それが本当だという確証がどこにある? 今まで数回勇者召喚は行われてきた。それなのに勇者が元の世界に帰ったという記録はどこにもない。中には魔王を倒した勇者も居たはずなのに、だ」

「何が言いたい……?」

「魔王を倒すだけじゃ不完全って事だよ」


 裕は話しながらゆっくりと歩みを進める。

 まるでちょっとそこまで行くような軽い足取りで、そんな足取りに似合わない重い威圧感を伴ってゆっくりと馬籠に近づいていく。

 その行動が間合いを詰めるためだというのは実戦を経験した馬籠は理解していたが、自分の背後には仲間が居て下がれない。


「俺達が元の世界に帰るためには魔王を倒すだけじゃ不完全だ。そもそも、俺達がここに召喚された時点で無数に枝分かれしていた道は一つに統合され、この世界で死ぬまで生きていくしかなくなった」

「……だが、お前の口ぶり的に方法がないわけじゃないんだろ」

「ああ」


 一刀一足の間合いまで近づいた所で裕は足を止めた。


「魔王の嫁は知ってるか」

「王様が言ってたな……確か、桜木がソレだったらしいな」

「ああ。魔王の嫁というのは称号の一つであり、この世界において最低最悪の運命だ。その身は魔王の武器となり、次第に自我は失われ最終的には何も考えない武器となる。そして、魔王がその武器を持つと下手な勇者では手も足も出なくなる程に強くなってしまう」

「それが一体なんの……」

「魔王と魔王の嫁は表裏一体だ。どちらかが生き残れば死んだどちらかは輪廻を廻って復活する」

「……」

「そして、俺達が元の世界に帰るためにはこの世界に召喚された際に神と交わした契約を終わらせなければならない」

「神との契約だって……? 俺達はそんなものを結んだ記憶はないぞ」

「当たり前だ。なんたって一方的に結ばされてるんだからな。契約の内容は一つ。魔王を“完全に消滅させる事”だ」


 つまり、と言葉を切って裕は馬籠の目を真っ直ぐ見つめる。


「魔王と魔王の嫁を完全に消滅させない限り、元の世界に帰る事は出来ない」

「なっ――つまり、俺達は……」

「そうだ。元の世界に帰りたいなら美咲を殺さなければならない」


 右手に握った白華しろかをゆっくりと持ち上げ、紅に染まる剣先を馬籠へと向けながら裕は息を吐く。


「俺は……美咲を殺す事は出来ないし、殺させる気もない。馬籠、俺達は仲間なんかじゃない。敵だ」

「……何か、別の方法が……いや、その話自体が間違っている可能性だって――」

「残念ながら、その少年が言っている事は正しいよ」


 この場に似つかわしくない清涼感のある声が響く。

 チラリと裕が視線を馬籠の背後へと目を向ければ、そこにはゆっくりと歩いて来る金髪の青年の姿があった。

 鎧ではなく白地に青いラインが入った騎士服を身にまとい、両腰に直剣を二本ずつ帯剣した青年の足取りは裕が放つ威圧感と白華が放つ殺気の中にあっても軽い。


「しかし、王家でさえ秘匿している事をよく突き止めたね。一体誰から聞いたのか教えてほしいけど君は口を割らなそうだ」

「アルドルノさん!? 砦の防衛をしていたはずじゃ……」


 馬籠にアルドルノと呼ばれた青年は肩を竦めてから、背後で倒れている春斗へと目を向ける。


「勇者がやられたと聞いてね。それに……彼の相手は君たちには荷が重すぎるだろう? だから、砦から急いで来たんだよ」

「砦から結構な距離があったと思いますけど……」

「この程度の距離なら一瞬だよ一瞬。そこの君も同じだろう? いや、君は僕よりも早く移動できるだろうね」

「えっ……」


 アルドルノの言葉に元クラスメイトの誰かが声を上げた。裕が自分たちよりも遥かに強いという事は理解していたが、まさかそこまでとは思っていなかったという声だった。


「ああ、君には自己紹介しなくてはいけないね。僕はアルドルノ・アースガルド。一応、剣聖って呼ばれてるよ」

「……」

「君は自己紹介してくれないのかい?」

「俺の事は知ってるんだろ?」

「はは、何から何までお見通しか。それなら、僕が今からやる事もわかってるんだろう?」


 アルドルノは両腰の剣を引き抜き、馬籠の隣へと立つ。


「マゴメくん。みんなを連れて砦まで――いや、王国まで撤退するんだ。この少年の足止めは僕がするとしよう」

「それは……! いや、わかりました」


 何かを言いかけた馬籠はアルドルノの飄々とした声とは違う真面目な表情を見て言葉を飲み込んでゆっくりと下がった。


「やっぱり、動かないか」

「アンタが脅威だから動けないという可能性もあるぞ」

「それはないだろうね。君は僕が動くよりも早くマゴメくんの首を刎ねる事が出来たはずだ。ましてや、敵だと言うのであればそうするべきだった。それなのに、君は剣先を向けて警戒をするだけで一切動こうとしなかった……つまり、最初から斬るつもりなんてなかったんだ」

「……」

「同郷のよしみかな? それとも、彼らがあの話を聞いた上で未だに敵対しない事を期待しているとか?」

「アイツには……馬籠には、少し借りがあっただけだ」


 その言葉には「別のクラスメイトなら斬っていた」と含まれていた。


「なるほど、君は意外に義理堅いと見える」

「どうだろな? 少なくとも、アンタを殺す事に何の躊躇も持ってない」

「そうだろうとも。だが、君もわかっているだろう?」


 アルドルノは両手の直剣を構えて裕の前に立ちはだかる。

 その目には完全にスイッチが入ったかのように薄く闘志が煌めいていた。


「僕も、君を殺す事に何の躊躇もないよ」


 その言葉を置き去りにし、アルドルノは大きく一歩踏み込んだ。

お久しぶりです。

GWは満喫できましたか? 自分は仕事やら何やらに追われてました……。

これからも不定期ではありますが更新していくのでよろしければブックマーク等よろしくお願いします。

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