取捨選択
火の国から出て近場にある森に着くまでに掛かった時間は極わずかだった。コレは身体能力が今までよりも向上した事が大きが、身体への負担も大きくある程度森へと入った所で力が入らなくなってしまい近くにあった木に身体を預けて座り込む。
《流石に契約してすぐにこれだけ動くと負担が大きいね。ユウは魔力を行使できる程持っていなかったからパスが小さくなってていきなり魔力を流し込むとすぐにバテちゃうんだよね》
「ソレは……大丈夫なのか?」
《うん。私が毎日少しずつ魔力を流していくから、時間が経てば負担が無くなるとは言えないけどかなり軽減されるようになるよ。例えるなら……柔軟性がある小さな管を徐々に広げていく感じかな》
「なるほど……」
その作業にどれだけの時間が掛かるかはわからないが、すぐに出来るという物ではないのだけはわかる。
だが……コレは俺の弱点だ。長時間の戦闘行為は出来ないし、逃げるにしてもある程度の余裕を見ておかなければすぐに追いつかれてしまうだろう。
「気が長いな……」
《何年も掛かる事ではないにしても……ユウからしたら苦痛だよね》
どこか申し訳なさを感じさせる声で白華が呟く。この子も好戦的な部分が多くなったとはいえ前の優しい部分も残っているのだろう。
スイッチを切る。大丈夫、しばらくは戦う事はないはずだ。
《ユウ……?》
「気にするな……コレも俺が選んだ道だろ」
《……俺“達”でしょ? 私たちは一蓮托生なんだから》
「そうだったな」
地面に置いてある白華の柄を撫でながらそんな会話をする。俺達はもう二度とあの日々に戻る事は出来ないけれど、きっとこの先にどんな戦いが待っていようとも二人ならば乗り越える事が出来ると不思議と思えた。
白華は決して裏切らない。契約した時点で魔刀に決定権なんてない。何故ならば武器と使い手では立場が違うからだ。
使い手は武器がなくても最悪素手でも何でも戦えるが、武器は使い手がいなければただの置物となってしまう。それ故に契約時に魔刀はある程度の服従を誓う。
だが、白華は本来であれば“ある程度の服従”でいいものを“完全なる服従”にして俺と契約した。だから、この子が俺を裏切る事はない……裏切るとしたら、俺の方なのだ。
《ユウ? どうしたの? いきなり暗い気持ちになったりして》
「あぁ……契約してるから俺の感情とか考えている事はわかるんだっけ?」
《私の場合は深く読まない契約にしているから本当に表面だけだけどね。それで、何かあった?》
「いや……ただ、少しだけ疲れたなと思っただけだ」
《そっか……少し休む?》
「ここはまだ火の国と近い。王城で騒ぎを起こしたんだからしばらくは時間を稼げるかもしれないが……追手が既に出されている可能性もある。今は先を急ごう」
白華を持ちながら立ち上がると、近くの草むらがガサリと音を立てる。
既に追手が? と思い白華を構えると、そこから出て来たのは狙撃銃を両手で抱えた少女だった。
小さな身長に整った顔立ち。森を一直線に抜けて来たのか綺麗な長い白髪には葉っぱが付いている。何よりも特徴的なのは全てを見透かしているかのような淡い青色の瞳だろう。この少女に見つめられると、心がざわつく。
「フェルか。なんで、こんな所に居るんだ」
「……? 私は、ユウ様に生涯を捧げました。ユウ様が行く道こそが私が進むべき道です。何よりも従者が主の傍を離れるのはおかしいと思いますが」
「別に生涯を捧げてもらった記憶はないが?」
「いえ、確かにユウ様は出会った時に言いました。“そうか……じゃあ、好きにしてくれ”と」
「その言葉がどうしてフェルの生涯を受け取ったという意味に変換されるのか疑問なんだが?」
「好きにしてくれ、とは私の好きにしていいという寛大な処置だと思います。つまり、私がユウ様に生涯を捧げたいと願うのであれば、ソレでもいいという事ですよね」
何という拡大解釈だろうか。
いや、もしかしたらコレがこの世界の普通なのか……?
「……?」
「はぁ……」
悩む俺を見てフェルは「どうしたんだろう?」と言わんばかりに首を傾げている。
「……俺は、別に従者なんて必要としてない。俺には白華が居ればそれでいいんだ」
《ユウ……》
嘘は言っていない。
一人の方が何かと動きやすいだろう。
「……」
フェルは少しだけ目を閉じて考えた後に目を開けて俺の方を見た。
その後、少しだけ頷いて自らの身長と同じくらいに大きい狙撃銃を丁寧に地面に置いた後に地面へと正座した。
「……? 何のつもりだ?」
「私は、六年間ユウ様の事を待っていました。もし、出会えたのであればこの生涯を尽くしてユウ様を支えようと心に決めていました……ですが、ユウ様は私が必要ないと言うのであればどうか一生のお願いです。貴方様の手で私の生涯を終わらせてほしいのです」
「……」
「貴方様に捧げた人生です。であるのであれば、生涯の最期は貴方様でありたい」
フェルはそう言って目を閉じ、俺に首を差し出すように項垂れた。白いうなじが目に入り自然と白華を握る手に力が入る。
今、こうしている間もフェルを愛おしいと思う気持ちは溢れている。だが、コレはまやかしだ。実際には会って間もないのだからそんな気持ちを抱くのが間違っている。
《ユウ、どうするの?》
「決まってるだろ」
コレから先の道は一人の方がいい。
フェルは確かに戦闘能力という面に関しては申し分ないが、ソレも有限の力でしかない。それに少女にコレから先の旅路に耐えられる可能性は極めて低いだろう。
ならば、俺がやれる事は一つだ。
「……」
白華を強く握る。
大きく息を吸ってから右腕を振り上げる。見下ろすのはフェルの白いうなじ。
「ありがとうございます」
フェルの小さな声を耳に入れ、それが合図だと言わんばかりに俺は白華を一気に振り下ろした。
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