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選択2

 白華しろかの手を取った瞬間、赤黒い魔力の本流に包まれる。そこに一切の暖かさは無い。冷たく、この身を切り裂くほどに攻撃的。近づく者を全て拒絶するほどに大雑把かと思えば驚くほどに繊細だ。


「これからユウと契約してもらうけど、私と契約したら今契約している魔刀との繋がりが絶たれるけどいいよね?」

「……ああ」


 返答に迷いはなかった。

 既に道は決めてしまった。もう、この先に進む以外に道はないのだ。


「ユウ、契約を。心に思い浮かんだ言葉を紡いでほしいの」

「――我ら、世界を裏切る大罪人なり。我が大罪を憐れむ者よ、我が大罪を恐れる者よ、我が大罪を否定する者よ、我が深淵を見よ。右手に刃を、左手に絶望を。我が道を遮る者には等しく滅びを与えん」


 包み込むように吹き荒れていた赤黒い魔力はゆっくりとその形を決めていく。己がどうあるべきなのかを決めるように、ゆっくりと。

 コレでいいのかなんてわからない。俺が行く道の先に何があるのかもわからない。ソレでも、どういう風になっても求める最期が変わるわけではない。


 赤黒い魔力は、無数の刃となった。

 剣先は全て俺へと向いており、俺が最後の言葉を紡ぐのを待っている。


 覚悟を決めろ。どうせもう後戻りなんて出来はしない。


「「――抜刀」」


 周囲を浮かんでいた魔力の刃は俺と白華が同時に言葉を紡いだ瞬間、一斉に俺へと飛来し全身に刺さったかと思えばそのまま体内へと吸収されていく。

 気付けば、目の前に居たはずの白華もいなくなっていた。


「ぐっ……!?」


 突然右指に激痛が走った。

 驚いて見てみれば、そこには魔刀と契約した事によって修復された指がボロボロと崩れて去っていくのが見え、全てが消え去った後に切断面から赤黒い魔力が溢れ出し、新しい指が形成される。

 それが終われば、次は右目と左目。激痛に耐え、真っ黒な空間に耐えていると徐々に光が戻ってくる。右指と同じように新しい目が形成された事はすぐにわかった。


《目も大変だったけど、次が一番大変だね》


 疲れが滲んだ白華の声が聞こえてくる。

 どうやら、あの魔力は白華そのものだったようだ。


「残ってるのは……左腕か……?」

《正確には凍華さんが修復したのは左腕だけじゃないんだけどね》

「どういう事だ?」

《ユウは今日、心臓を貫かれたんだよね?》

「ああ……それでも、死ななかった」

《うん。でも、心臓に刃が通ったのは初めてじゃないでしょ?》

「――……そう、だな」


 記憶の奥底に沈めていたあの日の記憶。意識して思い出さないようにしていたソレはあの時から今に至るまで深い傷跡を残している。

 その傷が俺を蝕み、後悔と無力感を背負わせる。

 この世界に来てからの初めての敗北であり、大切な人を奪われた決して忘れる事などない忌々しい記憶。


「確かに、俺は美咲に……魔王に左肩から心臓に掛けて斬られてる」


 口に出してその事実を確認してしまえば、後は簡単だった。

 何故、俺はあの時に死ななかったのか。体内に冷たい何かが侵入し、肉を熱と共に切り裂いたあの日に確実に死んでいるはずだ。

 そういえば、あの時に何か聞こえていたような――。


《ユウはその日に死ぬはずだったんだけど……凍華さんが上位契約と残り少ない魔力を使って心臓を修復したの》

「え……?」

《でも、不思議なんだよね。確かに契約すれば失った部位の修復を“代価”として捧げて修復する事は出来るし、何よりもそうなった部位は傷を負ってもある程度なら修復されるようになってるんだけど……》

「じゃあ、俺が心臓を刺されても死ななかったのは凍華が心臓を修復したからなのか?」

《そこが不思議な所だね。ユウは魔力は人によってそれぞれ違うって話を覚えてる?》

「ああ。前に説明されたな」

《うん。ユウは魔力を失ってるけど、正確には0じゃなくて認識できない極々少量だけ残ってるの。それで、心臓っていうのは魔力を生成する部分でもあるんだよね……修復の時は“契約の代価”という事で世界の理を無視する事が出来たけど、その後の修復では必ず影響を受けるんだよね》

「つまり?」

《ユウが心臓を貫かれて修復される度に凍華さんの魔力が全身に回って死んじゃうはずなの。他人の魔力はどんな毒よりも強力で、極少量でも即死するはずなんだけど……》


 背中に冷たい汗が流れる。

 もしかしたら、俺は既に死んでいるのか……?


《でも、体内にユウ以外の魔力は感じないし……そこが不思議なの》

「俺が心臓を刺されても死なないのは、既に死んでるとか?」

《ううん。ユウは生きてるよ……でも、凍華さんが心臓を修復した跡も契約の一回だけで他にはないの。ユウはもしかして元々不死身だったりする?》


 言われて記憶を探ってみるが、普通に日本で生活していた俺にそんな能力があるとは思えない。

 ましてや、よく物語にあるような神様から特別な力を貰っているなんて事もない。


「いや……そんな能力を持っているわけがない。俺はこことは違う魔法もない世界に住んでいたんだぞ」

《まあ、そうだよね。だったら、何か別の原因かも……まぁ、今は気にしても仕方ないね》


 そもそも、俺に不死身の能力があったとしてソレを最初から自覚する事が出来ていたら――あの時、死を恐れずに魔王へと立ち向かい美咲を奪われるのを阻止出来ていただろう。


《とりあえず、契約を続けるね》


 白華が言うのと同時に氷で形成された左腕がボロボロと崩れ始める。

 黒龍布に包まれた右腕が指先から崩れていくのは見ていて気持ちがいいものではない。そういえば……左腕は黒龍布を取ったらヤバいよな。


《あ、そこら辺は大丈夫だよ。溢れ出るものは全部私が吸収するから》

「そうなのか」


 左腕が完全に無くなり、黒龍布がベッドの上にポトリと落ちる。

 長袖の上着を着ているために左腕の断面図は見えないが、出血してはいないようで安心した。


「……白華」

《なに~?》

「左腕は修復しなくていい……コレは、このままでいいんだ」

《……? わかった》


 白華は不思議がっていたが、特に追及する事もなくあっさりと頷いた。

 左腕を修復しなかったのは自分への戒めのためだ。あの敗北を決して忘れないように……もう逃げずに、きちんと向き合うために。


「最後は心臓か?」

《うん、でもそっちは時間を掛けてゆっくりやらないと危ないから……》


 確かに、先程の話を聞いた限りでは心臓は慎重にやった方がいい部位という事はわかる。


「でも、凍華達との契約は破棄されるんだよな? 俺は大丈夫なのか……?」

《外側だけはちゃんと修復したから大丈夫だよ。問題は細かい部分だから……激しい戦いだけ避ければ大丈夫》

「わかった」


 全ての工程が終わったのは始まってから5分くらいだった。

 周囲に残っていた赤黒い魔力が収束し、刀の形になる。長さ約60cmのソレを掴むと刀身が赤黒く、柄頭に黒龍布が何故か付いている白華が現れた。


「大分、変わったな」

《ふふ、綺麗になった?》


 どこか嬉しそうに聞いてくる白華。

 全体的に黒いシルエットに赤黒い刀身。それだけでも禍々しい雰囲気なのに黒龍布まで付いているその姿は見る者全てに危機感を植え付ける。


「ああ。綺麗だと思うよ」

《えへへ、嬉しい》


 柄頭に付いていた黒龍布が動き、白華を持つ右腕へと巻き付いて来る。痛いという程ではないが絶対に離さないという意思を感じるくらいには強く巻き付かれたソレは俺と白華が一蓮托生となった事を暗示させた。


「さて、行くか」

《行く当てなんてないけどね》


 白華の言葉に苦笑するのと部屋の入口が勢いよく開くのは同時だった。

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