選択3
入口に目を向けてみれば、そこには凍華と佐々木に連れられるようにして桜花が居た。いや、視界には入っていないが気配的にフェルも居るだろう。
「兄さん……」
凍華がどこか戸惑ったような声を上げる。
きっと、何故いきなり契約を解除したのかとかその姿は一体なんだという疑問が多すぎて何から口にしたらいいのかわからないのだろう。
《思ったより早くバレちゃったね》
「……こうなる事はわかってただろ」
白華のどこか楽しそうな声に返事をしながら、脳内にあるスイッチを切り替える。感覚としては部屋の電気をつけるようなものだ。
このスイッチは簡単に言ってしまえば“殺しのためのスイッチ”だ。戦いにおいて感情というのは邪魔でしかない。ナニカを殺すときに情が邪魔した結果、自分が死んでしまうなど笑えない話でしかない。
スッと身体の芯が冷えるのを感じる。ソレと同時に頭の中がスッキリとし、感覚が澄み渡る。
「――ッ」
ビクリと凍華が肩を揺らす。
彼女にとって今の俺は昔の使い手と被って見えているだろう。それもそのはずで、このスイッチは元々俺が前世で使っていたものだからだ。
未だ、同一人物と思う事は出来ないが白華との契約で戦いに関する事だけは今までよりも鮮明に思い出せるようになった。
「兄さん、その姿は……」
凍華が一歩踏み出す。
俺達との距離はそこそこ広い部屋という事もあって十分にあるが、ソレ以上近づく事だけは許せない。
「白華」
《うん、わかった》
白華は同族殺しとなった後に俺と契約した事でいくつかのスキルを新しく覚えた。その中の一つが【同族殺しの衣】。効果はわかりやすいもので、特殊な武器は全て抑えていても微量に魔力やらオーラを発しておりソレを完全に遮断するというものだ。
このスキルによって相手に自分の力を隠し油断させた所を奇襲するなど様々な事が出来るようになった。
俺の呼びかけによって【同族殺しの衣】の一部を解除した白華は赤黒い魔力を刀身に纏わせる。その刃は誰が見ても死を予見するほどに禍々しい。
「……」
無造作に右腕を振るう。
ゆっくりと、怠慢な動作で振られたにも関わらずその刃は凍華のつま先より少し前の床を一直線に切り裂く。
「……ッ!? に、兄さん……?」
「その線よりも前に出るな。一歩でも出たなら……殺す」
俺の手によって引かれた境界線を前に、凍華の青い瞳と視線が交差する。
凍華は何かを言おうとし、ソレを口に出す前に飲み込んで俺の視線から逃げるように視線を外してから自らの腕を抱く。
「一つ、聞かせてください」
「なんだ」
「兄さんはこの先……どこに行こうとしてるんですか……? その先に、兄さんが求める結末は本当にあるんですか……?」
「この先の事はわからない。……だが、俺が求める最期は先にあると思ってる」
「……」
俺の言葉を聞いた凍華は少しだけ黙って、顔を上げた。
あぁ、やめてくれ……そんな目をしないでくれ。俺の気持ちとは裏腹に、その青い瞳は強い意志を持っている。
凍華が一歩踏み出す。
凍華が境界線を越えた事で条件反射のように俺の右腕はだらりと下がった状態から飛び跳ね、剣先を敵へと向ける。
だが、相手もただ突きつけられているわけではない。いつの間に抜いたのか、そもそもどこから取り出したのかさえわからない一見すれば氷で出来た刀の剣先を同じように俺へと向けている。
「……やる気なのか?」
「今更、ソレを聞くんですか? この線を超えた時に覚悟は決めています」
「……」
「兄さん……」
青い瞳と赤い瞳が交差する。
一体、俺は今どんな顔をしているのだろうか。
「私は、貴方を止めてみせます」
ただ、もう戦うしかないんだと本能的に理解だけはしていた。
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