一時の休息
あの空間から殺風景な部屋へと戻ってくる。
辺りを見渡してみれば、そこには佐々木や凍華達がリルと一緒に俺の事を見ていた。
「兄さんっ!」
凍華が誰よりも早く俺に気付き、走り寄ってくる。いつもなら、ソレを受け入れるが――ドクンッと右手に持った抜き身の白華が跳ねた事でこちらに来るのを左手を突き出す事で止めた。
「兄さん……?」
「凍華……」
「何が……あったんですか?」
こちらの真剣な様子が伝わったのか、息を飲みつつも聞いてくる凍華に何と答えたものかと考える。
まず、真実をここで話すのは危険な気がする。リルが居るし、もし仮に白華を殺さなければならないとなった際に逃げ道がないからだ。
「少し、な……それより、そっちは大丈夫か?」
「はい。暴行を振るわれたりもしませんでした」
「そうか。なら、よかった」
時間を作るために振った話だが、それでもみんなが無傷だという事がわかって安心した。それと同時に何事もなく万事解決とならなかった事に己の無力さを感じる。
とりあえず、白華は鞘に納めた。その際に銀色に輝く刀身に今まではなかった赤い模様が薄っすらと入っている事に気付いた。
きっと、この模様こそが“同族殺し”の証のような物なんだろう。
「一之瀬君、とりあえず止血しなきゃ……!」
「いや、今はとりあえずここから出る事を優先しよう……いつまでもこんなところに居たくはないしな」
「ならば、妾が案内しよう……外の様子も気になる事じゃしな」
佐々木が懐から治療用の道具を取り出そうとしているのを止めると、リルが案内を申し出てくれた。
リルとしても、この国の火を全て賄っていた魔刀が俺によって壊された事で色々と不安があるのだろう。
だが、そのことに関してこちらを責める事はない。何故ならば、俺の前世と交わした約束を破ったのはあちらだからだ。
「よし、行こう」
凍華達と一定の距離を取りつつも、リルについて俺達は部屋から出た。
途中、俺と戦った少女の跡地を通ったりもしたが、とりあえずは何も起こらずに俺達は城へと戻り、借りていた部屋にリル以外の全員が集まった。
今は佐々木に傷の手当をしてもらっている所だ。
「嘘……間違いなく刺さってたのにもう傷がほとんどない……」
「そうか……」
上着を脱いで傷を見ていた佐々木が驚いた声を上げる。
自分でも見てみたが、確かに傷跡は残っていて鮮血も少しは流れているものの、刺されたとは信じられないほどの深さになっていた。
「……うん。これなら止血草を塗って包帯を巻けば大丈夫だね」
佐々木はそう言って緑色のナニカを塗った後に包帯を巻いてくれた。
他にも細々な傷はあるものの、致命傷となる物はどこにもなかった。
「それで、兄さん。何があったんですか?」
「それは……そういえば、あの空間で俺の心は読めなかったのか?」
俺の疑問は凍華の隣に立っていた翠華が答えてくれた。ちなみに、寝華はいつも通り寝ていた。
「あの空間は何かの結界が張ってあったのか、こちらから読むことは出来ませんでした」
「そうか……」
なら、ここで話すしかない。
俺はあの空間で起こった事、白華が同族殺しになってしまった事を話した。
「同族殺し……ですか」
「翠華、知ってるのか?」
「昔、一度だけその話を聞いた事があります。内容はご主人様が話した事と同じですね」
「何か、対処法はわかるか?」
「残念ながら……」
申し訳なさそうな顔をする翠華。
凍華は何やら考え込んでいるようだが、何も言わないという事は初めて聞いた事なんだろう。
それから色々と検証をしたが、どうやら魔刀が近づくと反応がない白華はカタカタと震えるみたいだった。ソレに何の意味があるのかわからないが、追跡者の話からするによくない事が起こるのは間違いないので、しばらくは距離を置くことを決めてそれぞれが部屋に帰った。
俺以外の部屋はリルが手配してくれた。佐々木は一人部屋で、凍華達は同じ部屋だ。白華だけは俺の部屋にある。手放した際に何か起こったら不味いので常に近くに置いてある。
リルの方も今はまだ何か起こっているわけではないらしい。
「寝るか……」
色々と考え事をしていたら、既に辺りは暗くなっていた。
白華をベッドに立て掛けてから布団に潜り込み、そっと瞼を閉じると俺はすぐに夢の中に誘われた……はずだった。
ふと、身体に何かが乗ったと思って目を開けると、そこには成長して少女から俺と同じくらいの年齢になった白華が乗っていた。
新作【世界最強の大英雄は大木の元で微睡む】を最近投稿しました。
よければ読んでみてください!




