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いきなりの強襲

お久しぶりです。

色々と私用に追われる日々を過ごしておりましたら、思っていたよりも時間が経ってしまいました。


更新を楽しみに待っている方、大変申し訳ございません。

 風を切って走る事一時間。

 俺達は遠くに門が見える位置で休憩していた。『遠くに』と言っても、俺の特殊な目だからこそ見えるのであって、佐々木には見えていない。


「一ノ瀬君は、もっと色々と考えた方がいいと思う。特に、女性の運び方とかっ!」

「はい……」


 で、俺は現在佐々木の前に正座して説教を受けていた。

 最初は所謂お姫様抱っこで運んでいたのだが、途中から米俵を担ぐようにした方が速く走れるという事に気づいたのが最後、俺はここまでずっと佐々木を担いで走ってきた。

 個人的には結構効率的な運び方だと思っているんだが、どうやら佐々木はソレが不満だったらしい。

 凍華達も佐々木に同意見らしく、休憩に入ってから何も言わない。


「聞いてる!?」

「聞いてますッ!!」


 考え事をしていたのがバレたのか、佐々木が声を上げる。

 こうしていると、昔美咲に怒られた時の事を思い出して自然と声が出てしまう。


(あの頃は、何をするにしても一緒だったしな……アイツの両親、共働きで帰るのが遅かったからよくウチで夕飯食ってたし……)


 懐かしい気持ちでそう考えて、ソレでも俺と美咲の関係は思い出せない。

 喪失感が俺を包む中、何かを察したのか佐々木がいつの間にかしゃがみこんで俺の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫……? 傷、痛む?」

「いや、大丈夫」


 心配そうな顔をしている佐々木の頭に左手を置きながら、そう言う。

 そういえば、昔はよくこうやって美咲の頭に手を置く事があった。最初のうちは撫でていたのだが、中学生になった辺りから「髪型がぁ!」と言うようになったために置くだけになったはずだ。

 もちろん、学校など人目がある場所ではやらないようにしていたが、犬っぽさがあった美咲は何かとつけて俺に撫でてもらおうとしてきたため、周りの視線が怖かった。


「腹減ったな。飯にしようぜ」

「あ、うん。そうだね」

「では、お手伝いしますね」


 佐々木の頭から手をどかしながら立ち上がり、すっかり固まってしまった身体を解す。

 関節がバキバキと音を立てるのを聞きながら、いつの間にか人の形になった凍華が鍋などを取り出すのを横目に、薪でも拾うか……と近くの森へと歩みを進めた。


(美咲……絶対に取り返すからな)


 その決意を胸に秘めて。



 薪を拾う時に現れたイノシシもどきを仕留めて、ソレを入れて作られたスープを平らげた俺達は食休みをしていた。

 街道から離れた場所で食事をしていた事もあって、誰かに目撃されたりはしていない。まぁ、凍華達が居る関係でわざと遠くに居るんだが。


「ユウ、片づけ終わったよ」

「ああ、ありがとな」


 片づけを手伝っていた白華しろかが隣に来て報告してくれたのに対して、礼を言いつつ頭を撫でる。

 嬉しそうに目を細める白華にほっこりしながらも街道に目を向けると、そこそこ大勢の人達が歩いているのが見える。


「見える?」

「ん? あぁ、盛んな国みたいだな。結構人がいる」


 白華も刀になれば色々な能力があるとはいえ、人型ではそこら辺の人と何ら変わりはないためこの距離を見る事は出来ない。


「美味しい物ある?」

「どうだろな? 行った事ないからわからないが、着いたら色々と散策するか」

「んっ!」


 魔刀は通常食事を必要としないんだが、白華は食べる事が大好きだ。

 なにせ、契約の代償として俺の味覚を選んだくらいだしな。


「……」


 だが、今までの白華が置かれていた境遇を考えれば、ソレも仕方がない事だとも思う。今まで、貧しい思いをして生きて来たのだから、自由に何かを食べられるという事は幸せだろう。

 まぁ、何が言いたいかというと、白華の主である俺は腹一杯食べさせてあげる事が責任だというわけだ。


「ん……?」


 そんな事を考えていると、正面――所謂、街道側の方から誰かが近づいてくるのが見えた。

 どんどん俺達の方へと向かって来る人影。だが、ソレにはいくつかおかしな点が多い。まず、その速度が尋常じゃないくらいに速い。そして、両腰と背中に合計で四本の剣を帯剣している。見つけた時よりも近づいた事で分かったが、身長は低くまだ子供の可能性だってある大きさだ。

 ついでに顔も確認しようと思ったが、真っ黒なフードを深く被っていて見えない。


「やっぱり、追われてるな」


 距離が縮むにつれて、俺達の方に向かって来る人物を追っている奴らの姿も見えてくる。

 人数は全部で五人。その全てが見た目が統一されたフルプレートの鎧を身に纏い、その手にそれぞれ槍や剣を持っている。

 まぁ、わかりやすく言ってしまえばどこかの国――ここは火の国だから、火の国の騎士達だろう。


「面倒事の予感しかしないな……」


 そう呟いているうちに、俺達の距離はグッと近くなる。

 既に、俺以外にもその人影が見えているだろう。そして、ソレは向こうも同じだ。


「――ッ!」


 それは一瞬の出来事だった。

 瞬きをしたその一瞬で追われている人物の姿が消えたのだ。

 咄嗟に身構えて白華の柄に手を掛け、いつでも迎撃を――


「一ノ瀬君、片づけ終わったよ」


 ――しようとした瞬間、背後から佐々木が姿を現す。

 なんとタイミングが悪い事だろうか。相手の力量がわからない以上、誰かを守りながら戦うのは無理だ。

 そして、その考えが隙を生んだ。


「ヤァッ!!」


 目の前には大きく飛び上がりながら、いつの間に抜いたのか両手で剣を振りかぶった状態の少女が居た。

 この子がさっきまで追われていた子である事は間違いないだろう。逃走路に俺達が居て邪魔だったから排除しようとして剣を抜いたのかもしれない


「チッ――!」


 思わず舌打ちが出た。

 もう、この状態からではどうやってもこの一撃を捌く事は出来ないとわかったからだ。避けようとしても、背後に佐々木を控えている状態では大きく動く事は不可能だ。佐々木とはそこそこ距離があるとは言え、俺が避けた瞬間に標的が変わってしまうかもしれない。


 ならば……。


「ここは受けるしかねぇ!!」


 風を切って迫る刃を睨みつける。

 それと同時に、桜花を帯刀していないのにも関わらず俺の片目はその役目を果たすために起動する。刀身に映る俺の顔――その片目が紅く光った。

 そして、世界はゆっくりと進む。


(アレは……)


 その目が、少女が今振りかざしている剣の刀身に何やら薄く光る物を教えてくれる。よく見てみればその光は緑色だという事がわかる。

 だが、本質としてその光が“何であるか”を見抜く事は出来ない。それは、俺がソレを知らないという事だ。この目は様々な事を見せてはくれるが、ソレを理解するのは結局は俺自身なのだから当たり前だ。


 次に目が教えてくれたのは剣が進むルートだった。

 少女が握る剣は俺の右肩から侵入し、心臓を切り裂いて左脇へと抜けていく。そして、俺が今からどれだけズラそうとしても、相手が深く踏み込んでいるために致命傷は避けられない。


(死んだ……いや、諦められねぇ!!)


 一瞬浮かんだ死への実感を美咲の顔を思い浮かべる事で殴り飛ばし、生への渇望を行動へと移す。刃をギリギリまで引きつけた上で身体を後ろへと大きく倒し、右足を振り上げる。


「片足くらい……くれてやるッ!!」

「――ッ!!」


 刃と足が触れる――そう思った瞬間、少女の剣は何かに横っ腹をぶん殴られたように真横へと弾かれる。


「なっ……!?」

「くっ!!」


 頭では何が起こったのか理解出来ていなかったが、それでも身体は動いた。振り上げていた右足を強引に地面へと急降下させ、地面を踏みしめる。

 クレーターを発生させた右足を踏み込みとし、素早く身体を前へと押し倒し、弾かれた剣を放棄して新たな剣を抜こうとする少女へと詰め寄った。


「ぅっ……!」


 少女が一瞬怯んだ事で生まれた隙へ右腕を伸ばし、今まさに抜かれんとしていた剣の柄頭つかがしらへと手のひらを当て、抑え込む。更にそれと同時に相手が後ろへと下がれないように半身を潜り込ませ、右足を相手の膝裏へと通す。


 コレは、龍剣りゅうけんがあの山頂で俺に教えてくれた体術の一つである“古龍式格闘術”の動きだった。

 古龍式格闘術は、相手を捌く事に重点を置いた体術であり、こうやって相手の動きを制限したりする術もごく僅かだが存在している。


「ハァッ!!」


 だが、少女も素人ではないようで、剣は抜けないと察すると柄から手を離してノーモーションで突きを放って来る。


「ふっ!!」


 当たる直前で放たれた腕――その手首を掴み、踊るようにクルリと少女の背後へと回って左ひざで背中を押して組み倒す。


 コレはカウンターに重点を置いた体術である“アルテナ式格闘術”の技だ。


「何とかなったか……。それよりも、さっきのは……」


 もがく少女を押さえつけ、近づいてくる足音を聞きながら剣が弾かれた事を考える。

 ふと、視線を感じて剣が弾かれた方とは逆方向へと目を向けると、そこには城門がそびえ立っており、その城門からでも見える時計台の上に誰かが居る事がわかった。


「……」

「……」


 多分、目が合ったと思う。

 だが、常人では確実に見えない距離だし、もしかしたら俺の気のせいかもしれない。


「……」


 時計台の上に居た人物は、その姿をそっと消した。

 流石に、顔まではわからなかったが、多分……小さな女の子だった気がする。 

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