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物凄い結果になりそう

 リリウッドさんに幻王についての諸注意を受けた後、しばらく他愛ない雑談を交わす。

 内容は主にアイシスさんやクロの事で、リリウッドさんは聞いていた通り穏やかで優しい方で、優しげに投げかけてくれる言葉に、自然と会話は弾んでいった。


『ふふ、カイトさんは、気持ちの良い方ですね。精霊達が貴方の事を気に入っているのも良く分かります。これだけ多くの精霊から信頼を勝ち取れるのは、本当に素晴らしい事です』

「あ、いや……俺が精霊達に気に入られてるのは、たぶんシロさ……創造神様の祝福のお陰だと思います。妖精の知り合いが、俺の魔力は心地が良いって言っていました。なので別に俺の力と言う訳では……」

『いいえ、それは違います』

「え?」


 ラズさんが話していた様に、シロさんの祝福を受けている俺は世界に愛されているらしく、自然から生まれた妖精や精霊にとって俺の魔力は非常に心地良いらしい。

 だからこそ、こうして俺が多くの精霊に手伝って貰えているのは、あくまでシロさんの力であり、俺が偉そうに自慢できる事では無いと伝えると、リリウッドさんは静かに、しかしハッキリと首を横に振る。


『確かにシャローヴァナル様の祝福によるところも大きいでしょう。ですが決してそれだけではありません。シャローヴァナル様の祝福とは、言ってみれば精霊達と接する上で、第一印象をよく見せる様なもの……それだけでは、精霊達はここまで懐かないでしょう』

「そうなんですか?」

『ええ、貴方の纏う雰囲気、そして人柄……それが清く美しいからこそ、多くの精霊が貴方について来ているのですよ』

「な、成程……」


 第一印象が好意的に見えるのはシロさんの祝福のお陰だが、精霊達に好かれているのはあくまで俺の成果だと告げる言葉。

 何と言うか、そうストレートに褒められると少し恐縮してしまう。

 それになんだかんだで、第一印象がよく見えると言うのはかなり有利な訳だし、やはりシロさんの祝福の力の影響は大きいとは思うが、折角の言葉なのでここは素直に受け取っておく事にする。


『カイトさんなら、今日の収穫祭でも素晴らしい成績を……あっ』

「どうしました?」

『申し訳ありません、私とした事が……つい長く話しこんでしまっていました。お時間は大丈夫でしょうか?』

「あっ、え~と……今から戻れば何とか」


 少し慌てた様子で話してくるリリウッドさんの言葉を聞き、俺もすっかり忘れていた収穫祭の事を思い出した。

 時計を見ると既に昼の2時は回っており、そろそろリグフォレシアに戻らなければ間に合わなくなってしまう。


『そうですか……では、私も一緒に行きましょう』

「え? え、えぇぇぇ!?」


 そう呟くと共にリリウッドさんの体、と言うか気に異変が現れ始めた。

 一体化している木が波打つ様に揺れ、埋まっていた手と下半身が外に出てくる。

 木はそのまま一本の大きな杖に代わり、右手でそれを持ったリリウッドさんが、ゆっくり地面に両足で立つ。


 びっくりした……完全に人型になる事も出来るんだ……

 人間と同じ姿になったリリウッドさん、俺の方を向いて微笑みを浮かべる。


『では、行きましょう』

「あ、はい」


 歩きだすリリウッドさんと並び、俺もリグフォレシアに向かって歩を進める。

 リリウッドさんは歩きながら視線を動かし、そうすると、周囲の木々から一斉に枝が伸びて来て、そこに膨大な数の果実が実る。


『収穫用の袋を、そこに直接入れましょう』

「え?」

『私と話していたせいで、貴方の成績を落とす訳には行きません。リグフォレシアまでの道中にある木々に協力してもらって、可能な限り実を集めます』

「えぇぇぇ!?」


 リリウッドさんの言葉に従って、収穫用の袋を取り出すと……そこにとてつもない勢い、と言うかもう殆どマシンガンみたいな速度で実が叩き込まれていく。

 まるで周囲の木々が俺の手に持つ袋に向かって玉入れしているかのような光景で、袋を持って歩いているだけで次々に実が収穫されていく。

 

 更にそれだけではなく、1000を超える精霊達も協力してくれる様で、次々に実を運んでくる。

 なんだろう、これ……なんか、えと、とんでもない事になるんじゃないかな? 実の数が……

 だって勢いが凄まじいもん。さっきまで俺が数時間かけて集めた実の量を、既に超えてるみたいに見えるし……


 拝啓、母さん、父さん――リリウッドさんと少し仲良くなって、リグフォレシアに戻る道中の実集めを手伝ってもらう事になったんだけど……コレなんか――物凄い結果になりそう。






















 リグフォレシアの街の入り口にある広場では、間もなく終了を迎える収穫祭の集計が行われている所だった。

 葵と陽菜も一足先に戻り、警備を正規の警備隊に引き継いで戻って来たリリア達と合流し、集計も無事に終えていた。


「アオイちゃんもヒナちゃんも、凄いわ! 初参加で60個を超えるなんて、とても素晴らしい成績よ」

「ありがとうございます」

「えへへ、収穫楽しかったです」


 葵が集めた実は62個、陽菜が集めた実は61個と、平均が50個前後である収穫祭において、なかなかの好成績と言って良い個数であり、シルフィアが惜しみない勝算の言葉を贈る。

 レイジハルトやリリア達も二人の健闘を称えつつ、広場の中央に視線を動かす。


 現在は前回優勝者である精霊魔導師の集計が行われていて、周囲に集まった人々の視線も集中している。

 そして少しの後に張り出された成績に、一斉に歓声が上がる。


「に、210個……」

「凄いな、歴代最高記録を24個も更新か……」


 驚愕するシルフィアに、レイジハルトも同様の感想を漏らす。

 200個越えと言う、正しく歴史に名を残す偉業に、周囲からも割れんばかりの称賛の言葉が投げかけられる。


 だが、しかし、それは全て前座に過ぎなかった。


 歴代最高得点が出た興奮も冷めやらぬ中、突然叫び声の様な声が上がる。


「な、なんだあれは!?」

「せ、精霊? な、何て数なの……災厄の前触れなんじゃ……」


 その声を聞いてリリア達も視線を動かすと、遠方からリグフォレシアの街に向かって、1000を超える精霊が近付いて来ていた。

 その光景にシルフィアはあんぐりと口を大きく開き、リリアはそれを引き連れているのが誰か察した様で頭を抱える。

 しかし、衝撃はそれだけでは終わらなかった。


「か、か、界王様だ!?」

「界王様!? 宝樹祭にいらっしゃっていたのか!?」

「だ、誰か人間と一緒に歩いてくるぞ!」


 リリウッドの姿が見え、周囲に大きなざわつきが起こり、並んで歩いてくる快人にも奇異の視線が注がれる。

 そんな光景を眺めながら、リリアは青を通り越して真っ白な顔で、隣にいるルナマリアに声をかける。


「……ルナ、あれ、カイトさんですよね?」

「え、ええ、間違いなく」

「……なんで、界王様と一緒に帰ってくるんですか?」

「さ、さぁ……」


 顔面蒼白と言う言葉がピッタリ当てはまる、今にも気絶しそうなリリアに、ルナマリアも引きつった表情で言葉を返す。

 そんなリリアの視線の先で、大会の進行役である男性が、慌てた様子でリリウッドに近付き片膝をつく。


「か、界王様! な、なぜこのような場所に……」

『なぜ、ですか? 私も一応は精霊ですし、参加者である彼に協力する事は、規定上問題が有る行為ではないかと思いますが?』

「は、はぃ!? そそ、それは勿論……」


 リリウッドの言葉を聞き、男性は可哀想に見える程恐縮しながら何度も頷く。

 その光景に周囲が固まっている中で、リリアは再び口を開いた。


「……ルナ、どう思います?」

「どう、と言われましても……」

「……これ、アレですよね。また仲良くなったとか、そう言う流れですよね?」

「え、ええ……」

「……アレですよね? この後カイトさんと一緒に界王様もここに来ますよね」

「お、恐らく……」


 まるで仮面の様に感情の消えた表情で呟くリリアに、ルナマリアも冷や汗を流しながら答えると、リリアはゆっくりと自分の頭を両手で抱える。


「……なんで、カイトさんは……ちょっと目を離すと……」

「お、お嬢様。お気を確かに」

「……も、もう……」

「もう?」

「もうやだあぁぁぁ!? カイトさんの馬鹿あぁぁぁぁぁぁ!!」


 リグフォレシアの街に、悲しき苦労人の叫び声が木霊した。















 



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