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修羅が居た

本日は二話更新です。これは二話目なのでご注意を

 リグフォレシアの街に戻ってくると、まぁある程度は予想していたけど……とんでもない騒ぎだった。

 それもその筈、現在俺の隣には六王の一角であるリリウッドさんが居て、リリウッドさんを神の様に崇めるエルフ族にとっては衝撃的な状態だろう。

 何やらかなり緊張した様子で、進行役の男性が近付いてくる。


「そ、それでは、集めた実の入った袋を……」

「あ、はい」


 男性に袋を渡すと、その直後……何かリリアさんの叫び声が聞こえた気がするが、正直怖いので……聞かなかった事にしよう。

 そんな事を考えていると、リリウッドさんが進行役の男性に何やら話しかけていた。

 

『ふむ、最高得点が210ですが……これは、私が手伝う必要もありませんでしたね』

「「「ッ!?」」」

「か、界王様、それは一体……」

『この方、カイトさんは私と出会った時点で、既に400近い個数を集めていましたからね』

「な、なんと……」


 男性は驚愕しながら俺から袋を受け取り、他の進行役の方々も、何やら化け物でも見る様な目でこちらを見てくる。

 最高得点210? あれ? おかしいな……ゼロが一個足りないんじゃないだろうか? だって本当にそれが最高得点なら、ちょっとこの後を考えたくなくなっちゃいそうな……

 その居心地の悪い視線を感じながらも、集計の様子を眺めようと視線を動かすと、丁度進行役の一人が俺の袋から実を取り出しているところだった。


「……次の籠を……」


 どうやら一つの籠では足りなかったらしく、進行役の男性は引きつった表情を浮かべながら、そのまま籠に実を移し続け……結局籠の数が15個になった辺りで、袋の中身が空になったみたいだ。

 男性は果実が山の如く積まれた籠を見て、少しの間沈黙した後……それを数える事も無く視線を動かして大きな声を出す。


「優勝、ミヤマカイト!!」

「へ?」


 瞬間、周囲から割れんばかりの歓声が巻き起こる。

 優勝? 俺が? え、いや、まだ数えても居ないんだけど……やっぱり、210個とかその辺りが普通の数って事で、そう考えると俺は……あれ? これ、やばくね?


「すげえ、すげえよアイツ!」

「何て数なの、1000……いえ、2000はある」

「それに見ろよあの精霊の数! 他の精霊魔導師なんて目じゃないレベルだ!」

「おぉ……正に、界王様の使わして下さった使徒……ありがたや、ありがたや」


 うん、これは何と言うか……やり過ぎた。

 ど、どうしようこれ!? 何か、物凄い騒ぎになっているって言うか、なんか俺の事をリリウッドさんの……神の使徒だとか崇め出してる人もいるんだけど!? コレ収拾つかないんじゃ……あ、やばい、今にも人の波が押し寄せて来そうな感じが……


『静まりなさい!』

「「「「ッ!?」」」」


 興奮と共に俺に向かって殺到しそうだった人達を、リリウッドさんが一喝すると、流石と言うべきかアレだけ騒がしかった周囲から一斉に音が消える。

 そのままリリウッドさんは俺の少し前に立ち、静かに周囲を見渡しながら声を発する。


『まず先に、表彰を行うべきでしょう。カイトさんと話がしたい者は、その後の祭りにて行いなさい。その際にも節度を守り、迷惑をかけぬ程度に留めておく事……これは厳命とします。皆、それで構いませんね?』


 響く様な威厳のある声を聞き、多くのエルフ族が両膝と手を地面について平伏する。


『もはやカイトさんの優勝は確定と言って良いでしょうし、場の雰囲気もあります……表彰は私が行っても構いませんか? 私なら獲得した実の個数も、把握しています』

「も、もも、勿論です!」

『では、カイトさん……こちらへ』


 進行役の了承を得た後、リリウッドさんは手に持っていた木の杖で地面を軽く叩く。

 すると少し離れた場所から木が生え、それが蠢きながら大きな祭壇の様な形へと変わる。

 そしてリリウッドさんはその木の祭壇の中央へ移動し、俺に声をかけてきたんだけど……え? あそこに行けって? この物凄い注目の中で?


 何と言うか、もはや公開処刑と言って良いレベルの注目に晒されつつ、俺は木で出来た祭壇を登りリリウッドさんの前に立つ。

 どうすればいいか分からなかったが、相手は六王の一角であるリリウッドさんであり、公衆の面前と言う事もあって、片膝をついて礼の形をとる事にする。


『異世界人、ミヤマカイト』

「は、はい!」

『貴方は収穫祭に置いて、多くの精霊と心を通わせ、強く深い信頼を勝ち取りました。その素晴らしい功績を称えます』

「あ、ありがとうございます」


 何か流れで表彰式が始まってしまい、俺は非常に緊張しながらリリウッドさんの言葉に返事を行う。


『貴方が集めた実の数は、『2321個』……これは歴代でも類を見ない素晴らしい成績であり、貴方が真に精霊達から愛されていることの証明でもあります』

「……」


 その個数の大半は、リリウッドさんが集めた訳で、俺の力と言う訳ではないんだけど……残念ながらそんな事を言える雰囲気では無い。

 そのままリリウッドさんは威厳のある声で、俺を称えていき、周囲からは拍手と歓声が巻き起こる。


『本来の優勝賞品は勿論のことですが……貴方の功績はそれだけで評価できるものではない。よって、私からも何か褒美を与えたいと思います。貴方の望みを言ってみてください』

「は? へ?」


 何とリリウッドさんは優勝賞品以外にも何かをあげようと言ってくれてるみたいで、その言葉を聞いて俺は完全に固まってしまう。

 いきなり褒美とか言われても、正直、その……困る。

 既に世界樹の果実は頂いている訳だし、これ以上欲しい物と言ってもすぐには思いつかないし、かと言って折角の申し出を断ってしまっても無礼に当るかもしれない。


 でも別に富や名声が欲しい訳でもないし、物にしても特になにも思いつかない。

 何かないだろうか? 当たり障りなく、この場を乗り切れる返答が……考えろ、考えるんだ俺……

 少しの間沈黙しながら考え、俺はある事を思い付いて顔を上げてリリウッドさんの方を見る。


「で、では、失礼かと思いますが、一つお願いが……」

『ええ、どうぞ』

「リグフォレシアは昨日あったブラックベアーの襲撃で、かなり混乱してるみたいで、出来ればそれを何とかしていただければと……」

『……』


 そう俺が思い付いたのはリグフォレシアの街に関しての事だ。

 昨日のブラックベアーの襲撃で、街の防壁とも言える壁は壊され、警備隊もかなりガタガタになってしまっている。

 現在この街がかなり大変なのは、昨日や今日のレイさん達の様子を見ればよく分かるし、そこをなんとかしてもらえたらありがたいと考えた。

 これなら俺だけが界王であるリリウッドさんに何か良い物を貰ったと言う嫉妬とかも無いだろうし、この街の安全性が高まれば、今後遊びに来る機会があれば俺にとっても有益と言える。

 

 そんな俺の発言を聞いて、リリウッドさんはどこか感心した様な表情を浮かべた後、優しげに微笑みを浮かべる。


『分かりました。貴方の願いを聞き、リグフォレシアの街には私が直接結界魔法を施しましょう。そして警備隊には、後に私の眷族を派遣し再編成を手伝う事とします』

「ありがとうございます」


 再び周囲から大きな歓声が巻き起こり、あちこちから俺を称える様な声が聞こえて来て、何と言うか非常に気恥ずかしくなる。


『では、改めて優勝の証である勲章を授与し、表彰を終えさせていただきます』


 その言葉と共にリリウッドさんは、美しい花を模した勲章を俺に手渡して来て、俺がそれを受け取る事で表彰が終わりとなった。

 そのままリリウッドさんは優しげな表情で俺を見つめた後、続けて言葉を発する。


『では、貴方も疲れているでしょう。夜にある本祭まで、ゆっくりと体を休めてください』

「はい」

『皆も本祭までは、カイトさんに迷惑をかけぬ様つとめてください』


 ああ、成程……どうして急にリリウッドさんが表彰を行うとか言い出したのか、今の発言で納得がいった。

 リリウッドさんは、あのままでは俺が多くの人達に質問攻めにあう事を理解したが、仮にも優勝者である俺が表彰を受けずにこの場を離れる訳にはいかない。

 だから、早急に自分が表彰を行う事で、俺がこの場から離れて良い様にしてくれたみたいだ。


 リリウッドさんの心遣いに感謝し、また夜に行われる本祭……皆で行う宴会の様な祭りで会おうと言葉を交わした後、俺はその場を後にしてリリアさん達の元へ向かう。

 去り際に後方から「何て謙虚なんだ! 彼は素晴らしい人間だ」とか「正に英雄と呼ぶに相応しい高潔な人物だ」とか、明らかに身の丈に合わない賞賛の言葉が聞こえたが、聞かなかった事にする。

 と言うかコレ、夜の本祭がすっごい不安なんだけど!? とんでもない事になったりしない……と、いいなぁ……


 早足に広場から離れ、リリアさん達を見つけてそちらに駆け寄る。

 するとリリアさんがとても綺麗な笑顔……正直どこか背筋が冷たくなる様な笑顔で俺を出迎えてくれた。


「カイトさん、お帰りなさい。リグフォレシアの事を考えた素晴らしい発言でした」

「あ、ありがとうございます」


 あれ? 普通に賞賛の言葉? さっき背後に修羅が見えた気がしたのは、気のせいだったのかな?


「私まで誇らしい気分です……が、一先ずそれは置いておいて……」

「……え?」

「ちょっと、大事な話が有ります。ええ、凄く大事な話です。なので、少し二人っきりで話をしましょうか……」

「あ、いや、その……ちょっと、用事が……」

「い い で す ね ?」

「……ひゃい」


 リリアさんはずっと笑顔である。

 だがその笑顔には有無を言わせぬ迫力が有り、白魚の様に美しい手には血管が浮かび上がっている。

 やばい、これ死ぬ……殺される!?


「では、『逝き』ましょう」

「ちょ、ちょっとリリアさん!? もう少しゆっくり……力強っ!? 後、手が痛い!? 折れる! 折れるうぅぅぅ!?」


 拝啓、母さん、父さん――収穫祭で優勝したよ。そして戻って来ると、そこには――修羅が居た。

















 


修羅と化したリリア公爵。

しかしここで忘れてはいけない。

まだイベントは二つ(世界樹の果実と界王との直接対峙)が残っているという事を……


リリア公爵の次回作にご期待ください。

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