挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

90/523

忠告された

 精霊の森の奥地で遭遇した、魔界の頂点たる六王の一角……界王・リリウッド・ユグドラシル。
 木と一体化したその方は、驚く俺に向かって穏やかに言葉を続ける。

『驚かせてしまって申し訳ありません。ですが、ある意味幸運でした。貴方には、是非一度お会いしたいと思っていたんですよ』
「俺に、ですか?」
『ええ、貴方の事はアイシスやクロムエイナから聞き及んでいまして、宝樹祭が終わった後にでも訪ねようと考えていました』
「クロとアイシスさんから……えと、リリウッド様……」
『敬称は不要です。アイシス達と同じ様に呼んで下されば構いません』

 リリウッド様……いや、リリウッドさんに関しては、リリアさん達から非常に穏やかな六王だと聞いていたが、その噂に偽りは無い様で、リリウッドさんの声は優しく、ただの人間である俺に対しても非常に丁重な言葉遣いで話してくる。

「えと、では、リリウッドさんと呼ばせてもらいます。もうご存じと思いますが、改めて……宮間快人と言います。よろしくお願いします」
『ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。こうして貴方にお会いできた事、とても嬉しく思います』
「あの、リリウッドさんは、何で俺の所を訪ねようとしていたんですか?」

 丁寧に挨拶の言葉を返してくれたリリウッドさんに、俺も一度頭を下げる。
 そして先程言っていた「宝樹祭の後で訪ねようと思っていた」と言う発言に関して聞いてみる事にする。
 今さら疑うまでも無く、リリウッドさんは非常に地位の高い存在……魔界の頂点の一角であり、その称号に恥じないだけの存在感を持っている。

 だからこそ、疑問に感じた。
 クロやアイシスさんと出会ったのは偶然だったが、リリウッドさんはここで遭遇した事は偶然ではあるが、元々俺の事を知り、会いたいと思っていたらしく、その理由が分からなかった。
 そんな俺の言葉を聞いたリリウッドさんは、穏やかに微笑みを浮かべ優しい声色で答えてくれる。

『私が貴方に会いたかった理由は二つ……一つは単純に興味があったからです。そして二つ目は……貴方には是非、一度お会いして『お礼』を言いたいと思っていたからです』
「お礼? ですか? それは一体……」
『六王同士は皆仲が良いのですが……その中でも私は、アイシスと話す機会が一番多く、アイシスは私にとって長い付き合いの友と言える存在です』

 確かに思い返してみれば、アイシスさんが訪ねて来た時「リリウッドに聞いた」と発言していたし、お二方は親友の様な関係なのかもしれえない。
 そのままリリウッドさんは、微かに悲しそうに目を細め、言葉を続けて行く。

『彼女の抱える苦しみは、理解しているつもりでした……しかし、私にはそれをどうする事も出来なかった。私がアイシスに匹敵する力を持つ存在だからこそ、彼女の『力の無い者たちとも触れ合いたい、力が無くとも自分を受け入れてくれる存在と出会いたい』という願いを、叶えてあげる事は出来ませんでした』
「……」
『私自身アレコレと忙しかった事もあり、悲しみと孤独を募らせていくアイシスを見ると、いつも悔しい気持ちになったものです。ですが、そんな彼女の前に、貴方が現れてくれた』
「俺が、ですか?」

 アイシスさんの事をとても大切に思ってるみたいで、リリウッドさんはアイシスさんの苦しみを消してあげる事が出来ない自分を歯痒く思っていたみたいだ。

『ええ、貴方と出会ってから、アイシスは本当に楽しそうに笑う様になり、訪ねる度に貴方の事を幸せそうに話してくれました。私は、それがとても嬉しい。彼女が心から笑えるようになった事が、本当に嬉しくて仕方が無いのです』
「俺は、そこまで大層な事が出来た訳ではないですけど……」
『いいえ、貴方がアイシスと向かい合ってくれたからこそ、彼女を長年縛り続けていた冷たく硬い氷は消えました。貴方には、言葉で伝え切れない程の大恩があります。カイトさん、本当に、ありがとうございました』
「あ、いえ、そんな……」
『貴方には是非お礼がしたい。私に出来る事があれば、何でも言って下さい』

 深く俺に頭を下げながら、感謝の言葉を伝えてくるリリウッドさんを見て、俺は少々戸惑いながら頭をかく。
 さて、どうしよう? いきなりお礼をしたいとか言われても……

 俺は別に何か見返りが欲しくてアイシスさんと接している訳には無い。アイシスさんが優しく、一緒に居て楽しいと思える素敵な方だから仲良くしているのであって、別にその事で何かを得ようなんて考えてはいない。
 なので、ここは断るのが正解なんだろうが……どうしても一つだけ心に引っかかるものがあった。

「……リリウッドさん。アイシスさんの件に関しては……俺にとってアイシスさんが大切な友達で、一緒に居て楽しいから話をしたりしています。だからそれに関して報酬を得る事は、正直したくは無いんです……」
『……』
「なのでこれは、その事とは全く関係ないお願いだと思って下さい。駄目であれば断って下さって構いませんし、失礼なお願いだと重々承知しています。でも、もし、可能なら……『世界樹の果実』を一つ、頂く訳にはいかないでしょうか?」

 そう、俺の心に引っかかっていたのは、ジークさんの事だ。
 ジークさんはその傷を治す気はない、喋れなくても問題無いと言っていたけど、もしかしたらいつかその考えが変わる事が有るかもしれない。声を必要とする時が来るかもしれない。
 だから、いざその時が来た際、声を取り戻す手段があるのなら……いつもお世話になっているジークさんに、それを差し上げたかった。

 なので最初にアイシスさんの件に対する対価として要求する訳ではないと前置きをしてから、リリウッドさんに深く頭を下げながらお願いしてみる。
 俺の言葉を聞いたリリウッドさんは、少しの間沈黙した後で穏やかに言葉を返してくる。

『勿論構いませんよ。いくらでも差し上げましょう』
「え? い、良いんですか? 物凄く貴重なものなんじゃ?」
『いえ、私にとってはさほど貴重ではありません。そもそも、私が流通を制限しているのは……どんな傷でも治ると言うのが、決して良い結果ばかりを招かないという懸念からです』

 無茶苦茶をも言える俺のお願いに対し、リリウッドさんは特に気にした様子も無く快諾してくれる。
 世間にとっては凄まじく希少で高価な世界樹の果実も、リリウッドさんにとってはさして珍しい物では無いらしい。

『どんな傷でも治す果実、それが簡単に手に入るようになれば、治療を専門とする者は職を失うでしょう。しかもそれだけでは無く、多くの者から危機感と言う感情を奪ってしまいます。世界樹の果実は、傷は直せても死を覆す事は出来ません……傷が治るから怪我をしても大丈夫等と言う考えが広まれば、世界に大きな混乱を招く結果となるでしょう。故に、出回る世界樹の果実に関しては、私が制限をかけています』

 リリウッドさんの言葉は尤もだ。
 どんな傷でも治る事が当り前になってしまえば、危機感を失い無茶をする者も増えるだろうし、使い方次第でいくらでも悪用出来てしまう。
 だからこそリリウッドさんは世界樹の果実の流通を制限しているらしい。

 リリウッドさんの言葉に俺が頷くと、リリウッドさんが一体化している木から一本の枝が伸びてくる。
 その枝は俺の前まで伸びると、そこに透き通った水晶の様な実を付ける。

『どうぞ、それが世界樹の果実です』
「ありがとうございます」

 神々しいとすら感じるその実を受け取り、リリウッドさんにしっかりお礼の言葉を伝えてからマジックボックスにしまう。
 するとリリウッドさんは、どこか困った様な表情で苦笑する。

『しかし、これではお礼になりませんね』
「え? いえ、随分我儘なお願いをしてしまったんですが……」
『……目を見れば分かります。貴方はそれを自分の為に欲した訳ではありませんね。誰かの為、でしょう? ならばやはりお礼にはなりませんね』
「いえ、えっと……」
『なので、こうしましょう。今後、私の力が必要な時はいつでも声をかけてください。貴方の力になることを約束しましょう』

 そう言ってリリウッドさんは真剣な瞳を俺に向けてくる。
 なんだろうこれは? 六王であるリリウッドさんに力を貸してもらわなければならない事態と言うのも、中々想像は出来ないのだが……リリウッドさんの目は、何かを見据えている様にも見えた。
 そんな俺の考えを察したのか、リリウッドさんは真剣な目のまま静かに言葉を発する。

『……幻王・ノーフェイスには注意してください』
「え?」
『ノーフェイスは恐らく既に特異な存在である貴方に目を付けている。そして現在は、貴方の価値を測っているのでしょう。貴方がこの世界にとって害となるか否かを……』
「……」
『そしてもし、害となると判断した場合は、ノーフェイスは容赦なく貴方を始末する。だからもし、何か周囲に異常を感じたら、私に声をかけてください。アイシスの為にも、貴方を失う訳にはいきません』

 静かに語られたその言葉に、何の返答もする事が出来ない。
 未だ謎に包まれた六王である幻王ノーフェイス。確かクロノアさんも、その幻王がなにを考えているかはよく分からないと言っていた覚えがある。

 拝啓、母さん、父さん――リリウッドさんと出会い、世界樹を果実を貰ったよ。そして幻王に気を付ける様にと――忠告された。














+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ