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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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界王と遭遇した

 精霊の森の一角の少し開けた場所で、大きな木の根に腰掛けてジークさんから頂いたお弁当を開いてみる。

「おぉ……」

 中にはシンプルなサンドイッチと、いくつかの軽いおかず類が入っていて、美味しそうなのは勿論だが、何と言うか女性的な可愛らしさも感じる弁当だった。
 流石ジークさんと言うべきか、パンの耳は綺麗に取ってあり、サンドイッチも丁度食べやすそうなサイズに揃えられている。
 具は……何だろう? 卵とかレタスっぽい野菜は何となく分かるのだが、食べざかりな男である事も考慮してくれたのか、いくつか肉が挟んであるサンドイッチもある。

 見た目は鳥っぽい感じだけど、これ……何の肉だろう? ちょっと、えと、タイラントワーム……要するにでかい芋虫の串焼きを知らずに食べてから、どうもこの世界の肉類と言うのは警戒してしまう。
 いや、別に仮にこれが何かでかい虫だとか、蛇の肉だったとしても、地球育ちの俺には抵抗があるが、この世界の人達にとってはごくごく一般的な食材なのかもしれない。
 うん、調理済みだし、何の肉かは考えた所で分からないし、考えない事にしよう……後何となく嫌な予感がするので、材料についても聞かないでおこう。

 変な方向に考えが傾きそうだった頭を切り替え、俺はサンドイッチを一つ手にとって口に運ぶ。

「……美味い」

 そのサンドイッチは、食べた瞬間「美味い!」と叫ぶ様な強烈な旨味が有る訳では無かったが、噛むたび丁寧に調理された肉が柔らかく解け、じんわりと優しい旨味が口の中いっぱいに広がってくる。
 高級店の料理とかではなく、やさしい家庭の味と言うべきだろうか……物凄く、俺好みの味だ。

 そして次におかず類にも手を伸ばしてみる。
 素手で食べるからか、どのおかずも一口サイズにした上で木の串に刺さっており、片手でも簡単に食べられるようになっていた。
 ジークさんらしい、何とも細やかな気遣いに心が温かくなるのを感じつつ、どのおかずから食べようかと視線を動かしていると、ある物に気がつく。

「ミニハンバーグ……」

 この世界にもハンバーグと言う料理は伝わっているらしく、一口サイズのハンバーグが刺さった串を見て、自分でもテンションが上がるのを実感する。
 いや、何と言うか、若干子供みたいで恥ずかしいのだが……俺は、ハンバーグが一番好きな料理であり、大好物と言って過言ではない。
 確か以前にジークさんに好きな食べ物を聞かれ、ハンバーグの事を話した覚えがあるのだが、どうやら覚えていて下さったみたいだ。

 そのままミニハンバーグの串に手を伸ばし、ソースも何も付いていないシンプルなそれを口に運ぶ。
 俺にとってハンバーグは、塩胡椒のシンプルな味付けの物が至高であり、デミグラスソースのかかったレストランのハンバーグ等は、あまり食べた覚えが無い。
 だからジークさんが作ってくれたハンバーグは、俺の一番好みの味と言える。

「……」

 美味しい……本当に、美味しい。
 柔らかな歯ごたえに、口の中に染み出てくる肉汁、塩胡椒のシンプルな味付けが肉の旨味を際立たせ、その味は体に沁み込んでいく様に美味しかった。
 ああ、コレだ……コレが俺が一番好きな味だ。

 ゆっくりと惜しむ様にハンバーグを味わっていると、少し目頭が熱くなり、懐かしい記憶が蘇ってくる。


――快人、どう? お母さんのハンバーグは美味しいでしょう!

――と言うか、母さんの料理。ハンバーグ以外は全然美味しくない。

――うぐっ……うぅ、私やっぱり料理苦手だなぁ。

――そう言えば、父さんがこの前『母さんは料理以外は理想の女性なんだけどなぁ……』って言ってたよ。

――ちょっと、あなた!? って、逃げた!? こら、待ちなさい!!


 母さん、料理下手くそだったなぁ……おっちょこちょいだからすぐ焦がすし、包丁の使い方も危なっかしくて、子供心にハラハラしてた覚えがある。
 手の込んだものなんて全然作れなかったし、味付けも分量しょっちゅう間違えてたし……
 でも、いつもニコニコ笑顔で、小さな胸を張りながら出してくる料理は……暖かかったなぁ……

 昔を思い出して、少ししんみりとした気持ちになっていると……いつの間にか、俺の前には精霊が居て、興味深そうに弁当を見つめていた。

「……食べたいの?」
「……!」

 その様子から弁当を食べたがっているのだと思って尋ねると、精霊は……いや精霊達は勢いよく首を縦に振る。
 う、う~ん。どうしよう? 流石に一体一体は小さくても、これだけとんでもない数が居ると、とても全員には行き渡らない。
 かと言って一部の子達にだけあげるのも、他の子が可哀想だし……う~ん。

「……あっ、そうだ。クッキーならいっぱいあるけど、こっちじゃ駄目かな?」
「!!」

 マジックボックスから、以前大量に買い込んだジャムクッキーを取り出して見せてみると、精霊達は興味深そうにそれを見つめ、一斉に期待する様な眼差しを向けてくる。

「じゃあ、皆で食べよう。順番に配るから、ちゃんと並んで」
「!」

 どうやらジャムクッキーでも良いみたいで、精霊達は俺の言葉に従い綺麗に一列に並ぶ。
 俺にとっては一口サイズだが、精霊達にとってこのジャムクッキーは顔と同じ位の大きさ、丸々一つでは食べづらそうだったので、半分に割って一体ずつ渡してあげる。

 流石に100以上も居ると、渡し終えるのに少々時間がかかったが、無事全員に生き渡り、精霊達は俺が弁当を食べるのに合わせて、少しずつクッキーを食べ嬉しそうに顔を振る。
 小さいものは可愛いとはよく言ったもので、ジャムクッキーを食べる精霊達は大変可愛らしく、本当に癒される光景だ。

 先程までの少ししんみりしていた気持ちも、精霊達のお陰で晴れ、俺はそのまま沢山の精霊達と一緒に昼食を食べる。
 木々の隙間から差し込む光が、何とも幻想的に周囲を照らし、まるでおとぎ話の中に迷い込んだみたいな感覚を味わう事が出来た。



















 昼食を食べ終え、さあ収穫を再開しようと思った矢先、突然精霊達の様子が変わる。
 何やら落ち着かない様子で周囲を飛び回り始める。
 初めはさっきあげたジャムクッキーのせいで、何か体に異常でも起きたのかと心配したが、感応魔法からは苦しみ等ではなく、喜びと驚きの混ざった様な感情が伝わってくる。

「一体、どうしたんだ?」
「!?!?」
「え? ついて来いって?」
「!!」
「わ、分かったよ」

 状況はよく分からなかったが、精霊達は俺の手を引いたり手招きしたりと、何やら俺をどこかに案内しようとしているみたいで、急変した様子に戸惑いながらもそれに応じで付いていく。
 実が沢山ある場所へ案内してくれた時とは違い、何やら焦っている様にも見える……そう、強いて言うのなら、何かに『間に合わなくなる』って感じだ。

 精霊達の後に付いていくと……どうやら森の奥へ奥へと進んでいるみたいで、先程までの広く歩きやすかった道から、どんどん荒れた獣道の様になってくる。
 ただ俺が歩く道は、精霊達が先行して雑草等をどかしてくれており、進めないと言う程でもない。
 ただ何と言うか、秘境にでも導かれている様な感じで、どこへ連れて行こうとしているのか、少し不安にはなってくる。
 まぁ、これだけの精霊が居るならある程度は安全だろうけど……本当に、一体どこに行くんだ?


















 10分程だろうか、精霊達に続いて獣道をひたすら歩くと、目に映る光景が大きく変わる。
 いや、森である事は変わっていないのだが……俺が進む先には、とてつもない数の精霊の姿が見える。
 先程まで俺に付いて来ていた数とは比べるのも馬鹿らしく感じる程で、明らかに1000を超える精霊が集まっている。
 その奇妙な光景に首を傾げながらも、更に足を勧めると……そこには一本の木があった。

『……どうやら、貴女達にはあまり影響は出ていない様ですね。安心しました』

 響く様な声が聞こえてくるが……人の姿は見えない。
 と言うか、俺の耳がおかしくなってないのなら……今、目の前の木が喋った様に聞こえたんだけど?

『おや?』

 そんな俺の疑問に答える様に、再び木から声が聞こえ……その幹がこちらに向けて回転――え?

「なっ!?」

 木がまるで振り返る様に動き、目に映った光景に思わず声が零れる。
 木の幹……丁度中央辺りに、どこかの民族衣装を連想させる服を着た女性が『埋まっていた』……い、いや、違う。埋まっていると言うよりは……手と下半身が木と融合しているみたいに見える。

 ちなみにその木と融合している存在が女性だと分かったのは、ゆったりとした民族衣装風の服の上からでもハッキリと分かる程豊満な膨らみがあったからだ。
 いや、こんな状況でなに考えてるんだと自分でも思うけど、男であるならあの凶悪な膨らみにはつい目が言ってしまうのは許して欲しい。

 ともあれその女性は、何と言うか……とてつもなく神秘的な雰囲気を感じる存在だった。
 瞳は宝石の如く美しいエメラルドグリーンで、陽光に輝く新緑色の長い髪も……え? いや、アレよく見ると、髪じゃない。葉っぱだ!? 小さな葉っぱが幾重にも連なって、長い髪の様な形になっている。
 木と一体化した体、葉の髪。昔プレイしたRPGに出て来た『ドリアード』と言う魔物によく似ている。
 ……少なくとも人間と言う訳ではなさそうだ。

『……』

 その女性は宝石の様な瞳で、静かに俺を見つめてくる。
 何と言うか、木と融合しているからか、女性の顔はかなり高い位置にあり、見おろされている様な構図になってどうにも落ち着かない。

 この女性は誰だろう? 精霊の森に居るって事は精霊? いや、でも、今まで見た精霊とは明らかに何かが、そう、格の様なものが違う。
 言葉にするなら、それは、存在感だろうか? まるで天を突く程の大樹が目の前に存在している様な、とてつもない雰囲気に言葉を失ってしまう。

 女性はそのまま、しばらく俺を見つめ続けた後で、穏やかな声で話しかけて来た。

『……貴方は、もしや、ミヤマカイトさんでは?』
「え?」

 その声も何と言うか不思議なもので、女性の口は動いておらず、口からではなく全身から音を響かせている様に聞こえてくる。
 だが、それ以上に衝撃的だったのは、初対面の筈の俺の名前を口にした事……本当に誰なんだ?

「……えと、確かに俺は宮間快人ですが……貴女は?」
『失礼しました。私とした事が、名乗りもせず、とんだ御無礼を』

 口から零れた疑問を聞き、女性は一度軽く頭を下げてから、穏やかに微笑みを浮かべる。

『私の名はリリウッド……『リリウッド・ユグドラシル』と申します。魔界においては『界王』と呼ばれている者です』
「……は?」

 穏やかに告げられた言葉を聞き、今度こそ俺の思考は完全に停止した。

 拝啓、母さん、父さん――精霊の森の奥地、精霊達に連れられて辿り着いた場所で――界王と遭遇した。













何気に、ちゃんと六王だって名乗ったのは、リリウッドが初。
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