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とんでもない数の精霊が居るよ

 精霊の森周辺の一角、リグフォレシアの街からほど近いその場所には、警備隊に参加しているレイジハルトとシルフィアの姿があった。

 警備隊の半数が壊滅状態という例年にない事態であり、二人も最初はかなり真剣な様子で警備を行っていたが……そんな警戒とは裏腹に、収穫祭は平穏無事に進行していて、間もなくお昼時と言っていい時間になっている。


 既に開始から2時間近くが経過しているが、二人の前には魔物はおろか動物でさえ全く現れる様子が無い。

 よくよく考えてみれば、それはある意味当然と言える。

 死王アイシスの放った死の魔力は、一度エルフの森全体を覆った。そう、余波で警備隊の半数の心を折ってしまう程、とてつもなく強大な死の魔力が……


 ならば野生の危機察知能力を持つ動物や魔物が、己の住処から外へ出ようと考える筈も無く、間違いなく数日は巣に籠って震えている事だろう。

 となると収穫祭を邪魔する様な猛獣や魔物が寄ってくる筈も無く、二人は現在暇を持て余していた。


 油断はせず、しかし力は抜いて、どこか穏やかな表情で警備を続ける二人の下に、一組の男女が近付いてくる。


「お~い。レイ、フィア!」

「おや、奇遇だね」


 エルフの男が大きく手を振りながら二人の名前を呼び、どうやら知り合いだったらしくレイジハルトは軽く片手を上げて挨拶を返す。

 エルフの男女は二人の前まで来ると立ち止まり、今度はエルフの女性が穏やかな笑顔で話しかける。


「二人共、警備隊に参加してるの?」

「ええ、状況が状況だったからね。まぁ、結局取り越し苦労だったみたいだけど」

「君達は、収穫祭に参加かい?」

「ああいや、俺は参加してない。彼女を迎えに来ただけだ」


 女性の言葉にシルフィアが返事を返し、続けてレイジハルトが二人について尋ねる。


「私も本当は警備隊に参加しようと思ってたんだけど……彼がどうしてもって言うから、収穫祭の方に参加してるわ。今は昼食を食べに戻るところよ」

「そりゃそうさ、なんたって『前回の優勝者』である君が出ないのは、盛り上がりに欠けるからな」

「はいはい……でも、フィアが参加してないのは残念ね。ライバルがいないと張り合いがないしね」


 エルフの女性はシルフィアと同じ精霊魔導師であり、互いに切磋琢磨しあう良きライバルであり親友でもある。

 実際に昨年も女性が優勝こそしたが、シルフィアとの得点差はほんの僅かなものだった。

 そんな対等の力を持つライバルが参加してない事に、女性は少し残念そうな表情を浮かべ、それを見たシルフィアは困った様な表情で、ゆっくり言葉を選ぶ様に告げる。


「……ね、ねぇ、えと、今年はその……やめておかない?」

「「え?」」

「ほら! まだ間に合うから、今からでも棄権をして……」

「ちょ、ちょっと、フィア? 一体何を言ってるの?」

「いや、フィアの言う通りだ。君の実力はよく知っている。だけど、今年は間が悪すぎる」


 シルフィアの告げた言葉に男女は驚いた様な表情を浮かべ、女性がやや戸惑いながら聞き返すと、レイジハルトもそれに続く様に棄権を勧める。


「おいおい、レイまで何冗談言ってんだ?」

「いや、冗談なんかじゃない! 今年は不味い……今年は『化け物』が参加している」

「「化け物?」」


 微かに顔を青くしながら告げるレイジハルトの言葉を聞き、男女は再び訳が分からないと言いたげな表情で首を傾げる。

 少し四人の間に沈黙が流れた後、ゆっくりとシルフィアが口を開く。


「……本当は『私も参加する予定』だったの、レイが勧めてくれたから……」

「ああ、だがフィアは昨日その参加の意思を撤回した。あの子の凄まじさを目の当たりにしてしまったから……」

「「あの子?」」

「棄権した方が良いと思う。じゃないと……精霊魔導師として培ってきた誇りもプライドも……全部粉々に打ち砕かれるわよ」

「私もフィアの意見に賛成だ。決して君を見くびっている訳ではない。あの子が化け物すぎるだけだ」

「「……」」


 危機迫ると言う言葉が当てはまる程必死に棄権を勧めるシルフィアとレイジハルトを見て、流石に男女も冗談で言っている訳ではないと言う事を理解する。

 ただ、それでもやはり……直接見ているかどうか、その一点が足りない為、ハッキリとその脅威が伝わってはいないようだ。


「……やれやれ、お前ら、まさか本気で彼女が負けるとでも思ってるのか? 彼女が去年集めた実の数、覚えてるだろう? 『186個』、歴代最高記録だぜ?」

「そ、それは……」

「確かに、平均50前後の中でその個数は凄まじいが……」


 確かに普通に考えれば、現在レイジハルトとシルフィアが思い浮かべている人物は、凄まじい才能があるとはいえ精霊魔導師ではない。

 ならば精霊の事を熟知し、確かな経験を摘んだ女性に勝てる筈がない……筈だが……それでも、二人の心から不安が消える事は無かった。


「……ふふふ、面白いじゃない」

「「え?」」

「貴方達二人がそこまで言う存在……相手にとって不足は無いわ。私も本気で行く事にしましょう」

「おお! 良いぞ、いっちょ記録更新といこうじゃないか!」

「ええ、今年はとても調子が良いわ『精霊達の機嫌もいつになく良い』……今年は200の大台を超えて見せる」


 レイジハルトとシルフィアは女性の為を想って忠告したのだが、それはシルフィアと言うライバルを欠いた今大会に、意欲があまり沸いていなかった女性の心に火を付ける結果となってしまった。

 前人未到の200個と言う数字を宣言する女性に、レイジハルトとシルフィアは思わず言葉を失ってしまう。


「ははは、その意気だ! おっ? あまり時間をかけると、昼食が取れなくなるぞ」

「いえ、私は昼食は食べずに森に戻るわ。シルフィア以上の強敵と言うなら……油断なんて出来ないしね」

「そうか、じゃあ俺は一足先にリグフォレシアで待っているぞ」

「ええ、期待しておいて……それじゃ、二人共。良い情報をありがとう。行ってくるわ」


 固まっている二人の前で男女は会話を行い、女性は来た道を引き返して精霊の森へ、男性もリグフォレシアの街の方へ向かって進んで行ってしまう。

 威風堂々……そんな言葉が良く似合う女性の背中を見送りながら、レイジハルトは静かに呟いた。


「……フィア、彼女は凄い精霊魔導師だよね?」

「……ええ、『筆頭精霊魔導師』……エルフ族でも随一よ」

「……200個って、とんでもない数だよね?」

「……ええ、正に歴史に残る偉業と言っても良いわ」

「……」

「……」


 静かに言葉を交わし、もう姿は見えなくなった女性。彼女が進んでいった方向を見ながら、二人は静かに顔を見合わせる。


「……でも、何でだろう? 私は、それでも彼女がミヤマくんに勝てる未来が想像できないんだけど……」

「……奇遇ね。私もよ……」


























「よっと……ありがとう」


 実を一緒に取り、俺の前に差し出してくれた精霊にお礼を言ってからそれを受け取り、袋の中へと入れる。

 結構開始してから時間が経ったみたいで、時計を見るともうお昼時と言って良い時間帯だった。

 そろそろ一休みして、昼食を食べる事にしようかな?


「今、何個だろう? 確か『300個位』だったかな?」


 マジックボックスと同じ仕組みで重量を感じない袋を見ながら考える。

 ここまではほぼ休みなく実を取り続けてきたし、恐らく中には300よりちょっと多い位の実が入っている筈だ。

 しかし今回が初参加の俺は、この数が多いのか少ないのかよく分からない……レイさん達に聞いておけば良かったなぁ……


 いや、そもそも、何の因果か分からないがリリアさん達に優勝候補みたいに扱われ、お金まで掛けられてしまった。

 正直ルナマリアさんだけなら、全部すらせても自業自得で済ませたんだが……リリアさんやジークさん、楠さんに柚木さんまでとなると、流石に少しプレッシャーを感じてしまう。

 まぁ、アレコレ考えても仕方がないし、午後も出来る範囲で頑張る事にしよう。


「……それにしても」


 考えを纏めた俺は、ふっと視線を動かす。

 すると視線の先には、視界を埋め尽くすほど大勢の色取り取りの精霊達が見える。

 俺の視線に気付いて手を振ってくる精霊、俺の体の周りをぐるぐる楽しそうに飛ぶ精霊、ペタペタと興味深々と言った感じで体に触れてくる精霊……


「流石精霊の森、もの凄い数の精霊が居るもんだなぁ……」


 精霊達はレイさん達が言っていた程臆病では無く、それどころかさっきから俺を実が多く木にっている場所へどんどん案内してくれるし、我先にと収穫を手伝おうとしてくれる。

 う~ん。やっぱりこう言うお祭りに場所を提供するだけあって、精霊族は人族に対してとても友好的なのかもしれない。


 拝啓、母さん、父さん――収穫祭はそこそこ順調に進めていると思うけど、やっぱり精霊の森って名前が付くだけの事はあって……この森には――とんでもない数の精霊が居るよ。

















中間獲得個数


前回優勝者……現在96個、付いて来てる精霊30体。

楠葵……現在30個、付いて来てる精霊3体。

柚木陽菜……現在28個、付いて来てる精霊4体。


宮間快人……現在345個(歴代最高記録更新中)、付いて来てる精霊……152体。

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― 新着の感想 ―
[一言] 快人についてる精霊152体…………初代ポケモン(バグ技込み)かな?
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