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精霊に親愛を抱かれた

 アニマを見送った後で宿に戻ると、先程まで俺達が居た部屋に楠さんと柚木さんが居た。

 二人はキョロキョロと周囲を見渡し、こちらに気付いた後顔を明るく染める。


「宮間さん!」

「宮間先輩!」


 二人はこちらに駆け寄り、俺の安否を確認する様に何度か質問してくる。

 心配そうに話しかけてくる二人に、特に体に異常等は無い事を伝えると、二人共ホッとした表情を浮かべる。

 そしてそのままリリアさん達を交えて雑談をと思ったが、柚木さんが何やら顔を伏せながら俺の前に立つ。


「あの……先輩……私、その……」

「柚木さん?」

「ごめんなさい……怖くて……動けなくて……」


 柚木さんの言いたい事はすぐに分かった。

 彼女は自分が逃げられなかったせいで、俺に怪我をさせてしまったと負い目を感じているみたいで、顔を伏せ肩を震わせながら謝罪の言葉を紡いでいく。


 そんな柚木さんに対し、俺は出来るだけ優しく微笑みつつ、安心させるように言葉を返す。


「怪我が無くて良かった」

「……せん……ぱい……ッ!? 先輩ッ!!」

「うぉっ!?」


 柚木さんは俺の言葉を聞いて体を震わせ、目に涙を浮かべた後、俺に飛びついて来た。

 身長差もあり俺の胸に顔を埋める様な形でしがみ付き、柚木さんはそのまま涙を流す。


「私……ぅぁ……せんぱい……」

「大丈夫。ほら、俺はこの通り無事だから……」

「はぃ……先輩……助けてくれて……ありがとうございます」

「うん……って言っても、結局俺もリリアさん達に助けられた訳だし、偉そうなことは言えないけどね」


 そう結局、俺はブラックベアーに勝てた訳でもなく、ジークさんが居なければ死んでいたと思う。

 だからあまり偉そうな事は言えないと苦笑しつつ告げると、柚木さんは俺の背中に回した手にギュッと力込める。


「そんなことないです……先輩、カッコ良かったです。凄く、凄く、カッコ良かったです」

「そっか……ありがとう」


 柚木さんの頭に手を置き、優しく撫でる。

 それ以上の言葉は必要なく、柚木さんはしばらくそのまま俺の胸に顔を埋める。

 柚木さんが落ち着くまで頭を撫で続けていると、少し間を置いてから柚木さんは抱きついていた手を解いて俺から離れる。


「……その、えっと」

「うん」

「改めて、ありがとうございました! 『快人先輩』!」


 そう言って、花が咲く様な明るい笑顔を浮かべた。

 





















 楠さんと柚木さんの調子もいつもの通りに戻り、リリアさん達と一緒にアニマの事などを説明していると、レイさんが非常に疲れた表情で戻って来た。


「レイさん、お帰りなさい。アニマは、どうしました?」

「ああ、うん。今は壁が破損した地区の警備についてくれてるよ」

「なんか、凄くお疲れみたいですが?」

「……いや、本当にあの子は強烈な性格をしているね。指示を出そうとした警備隊長に、即座に殴りかかろうとしたり……うん。幸いミヤマくんが言ってくれたおかげで、私の指示には従ってくれてたんだけどね。おかげで、私もしばらく警備隊に入る事になってしまったよ」


 どうやらアニマは、警備隊の詰所でも例によって例の如く、俺以外の命令は聞かないと食って掛かったみたいで、そのフォローに回ったレイさんはなし崩しに警備隊へ参加する事になったらしい。


「それは、その……何か、すみません」

「いや、確かに性格は強烈だけど、能力は流石の一言だよ。壁の修復に使う大量の資材も、片手で担いで持って行ってしまったからね」


 性格にやや難はあるものの、爵位級高位魔族に匹敵する力を持ったアニマは、警備隊にとって非常に有益な人材らしい。

 性格とプラスマイナスしても、ややプラスに傾く程だとか……うん。ちょっと、次アニマにあったら、ちゃんと警備隊の業務指示に従う様に言い聞かせておこう。


 それからレイさんも雑談に加わり、話題は明日の宝樹祭……収穫祭についての話へと移行していく。


「じゃあ、明日は予定通り収穫祭が行われるんですね」

「ああ、元々収穫祭は子供でも参加できるようにと、安全には細心の注意を払っているし……皮肉なものだが、死王様がブラックベアーを根こそぎ殺してしまったので、例年よりむしろ安全と言えるからね」

「成程」


 エルフの森の中で最も危険なブラックベアーが絶滅した事で、収穫祭の方の安全性は高くなっていると言う事らしい。


「そう言えば、結局収穫祭ってどこで行うんですか?」

「リグフォレシアより東にある『精霊の森』だね」

「精霊の森、ですか?」

「ああ、祭りの冠にもなっている宝樹とは、精霊の宿る木『精霊樹』の事でね。精霊樹はこの時期にだけ実を付けるんだが、それがリグフォレシアの名産でもある」


 柚木さんの疑問に、レイさんが答える。

 精霊の森とは、その名の通り精霊族が住む森らしく、そこに生える精霊樹こそが宝樹らしい。


「つまりその実を参加者が収穫するって事ですか?」

「そうよ~エルフ族にとっては、精霊と友好を深める事が出来る絶好の機会でもあるわ」

「精霊樹の実は、精霊と一緒に収穫しないと味が劣化してしまう不思議な実なんだが……精霊はとても人見知りでね。多く収穫するコツは、いかに精霊と友好的に接する事が出来るかだね」


 続けた俺の疑問に、フィアさんとレイさんが順に説明をしてくれる。

 どうも精霊は非常に人見知りで、その為参加者はそれぞれ個別で森に入り、精霊と交流しながら実を集めるらしい。


「一応、誰が実を多く集めたかを競って順位が出るけど、これはおまけみたいなものだね」

「ええ、こればっかりはどうしても『精霊魔導師』が圧倒的に有利だからね~」

「「「精霊魔導師?」」」


 収穫祭の方も狩猟大会と同じく順位は決めるらしいが、それはおまけみたいなものであり、賞品もエルフの森で採れた果実の詰め合わせとかで、狩猟大会と比べればささやかなものらしい。

 そしてフィアさんが口にした精霊魔導師と言う聞き慣れない単語に、俺と楠さんと柚木さんが首を傾げる。


「精霊魔導師と言うのは、精霊に愛され、精霊の力を借りる事が出来る魔導師の事さ。エルフ族にとって精霊魔導師は、とても栄誉のある職と言えるね。ちなみに、フィアはその精霊魔導師だよ」

「おぉ、じゃあ、フィアさんは精霊を呼べたりするんですか?」

「ええ、折角だし、呼んでみましょうか……」


 やはり女性は精霊とかに興味が強いのか、柚木さんが少し食い気味で尋ね、フィアさんは穏やかな笑みを浮かべて手に小さな魔法陣を浮かべる。

 緑色の魔法陣が何度か煌き、そこから30cmに満たない小さな半透明の妖精が姿を現す。


 全身緑色で半透明の女の子と言った感じの精霊は、正しくイメージ通りと言え、柚木さんは更にテンションを上げる。


「うわぁ、可愛いですね……ちょっと触って――あっ!?」

「ふふふ、言ったでしょ。精霊はとても人見知りなの……体に触れる事が出来るのは、精霊魔導師位よ」


 柚木さんが手を伸ばすと、精霊は素早くフィアさんの後ろに隠れる。

 

「快人先輩なら、どうですか?」

「え? 俺?」


 柚木さんに話を振られた俺は再びフィアさんの前に出て来た精霊の方を見る、精霊も俺に気付きこちらに視線を向け……少しして、もじもじと体を動かし始めた。

 なんか奇妙な反応だとは感じつつ、怖がらせない様にゆっくりと手を伸ばしてみたが……精霊は俺が手を伸ばすのを見ると、ハッとした様子で消えてしまう。


「流石のミヤマ様でも、精霊相手では無理ですか」

「いや、そもそもが誤解のような気がしますけど……って、フィアさん?」

「消えた? 私が送還してないのに、逃げるんじゃなく消えた?」


 突っ込みを入れてくるルナマリアさんに苦笑しながら言葉を返し、フィアさんの方を向くと……何故かフィアさんは神妙な表情を浮かべており、小さく何かを呟いていた。

 その様子に首を傾げていると、再びフィアさんの手元の魔法陣が光を放ち、精霊が戻ってくる。


 そして精霊は俺の方にゆっくりと近づき、もじもじと体を動かしつつ後手に持っていた物を……小さな木の実を差し出してくる。


「「「ッ!?」」」

「えっと……くれるの?」


 その光景を見て、レイさん、フィアさん、ジークさんのエルフ族三人が驚いた様な表情を浮かべる。

 三人の様子も気になったが、先に目の前にいる精霊に話しかけると、精霊は小さく頷く。


「ありがとう」


 お礼を言って木の実を受け取ると、精霊はどこか嬉しそうに俺の周囲をくるくる回り、その後で俺の体のあちこちにぺたぺたと触れてくる。

 あれ? 精霊に触れられるのは精霊魔導師位じゃなかったっけ?


「あの……これは?」

「……み、ミヤマくん!? い、一体何をしたんだい!?」

「え? いや、別に何も……」

「精霊が収穫祭の様に一緒に収穫するのではなく、自分が採って来た物を贈るのは『親愛の証』なんだよ。つまりその精霊は、君と友達になりたいと言ってきた様なものだ」

「そ、そうなんですか……」


 理由は全く分からないが、どうやらこの精霊は俺の事を気に入ってくれたらしい。

 その証拠に俺の近くによってきた精霊に手を伸ばしてみても、精霊は逃げることなく触る事が出来た。

 そしてその様子を口を大きく開けて茫然と見ていたフィアさんは、少ししてガックリと肩を落とす。


「……だ、大丈夫か? フィア」

「……レイ……私……精霊魔導師になるまで……二十年かかったんだけど……一瞬? 一瞬で……あんな……」

「フィア様、お気を確かに……この方が異常なだけですから」

「そうですよ、フィアさん! カイトさんがおかしいだけです! この人は本当に、色々と化け物なので……」


 ルナマリアさんとリリアさんによる、フォローと言う名の熱い非難が俺を襲う。

 リリアさんに至ってはもう、ナチュラルに俺を化け物扱いしてるし……別に今回は子竜の時みたいに感応魔法を使った訳でもないんだけど……どうしてこうなった?


 拝啓、母さん、父さん――収穫祭についての話と、精霊についてを聞いたよ。そして何故か――精霊に親愛を抱かれた。

















 



快人には創造神の祝福があり、その影響で世界に愛されています。

その為、自然から生まれた妖精や精霊にとっては、快人の発する魔力は非常に心地よく、快人自身も魅力的に見えます。


つまるところ、精霊視点だと、快人は超絶なイケメンに見える。

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― 新着の感想 ―
思わぬ好感度アップイベント発生!
まだ84話までしか読んで無いですがこの小説を書いてくれてありがとう! 良い小説に出会えた!
[良い点] ゜+。:.゜おぉ(*゜O゜ *)ぉぉ゜.:。+゜♬︎♬︎♬︎♬︎♬︎ 精霊さん♬︎すらも骨抜き♡にしてしまうww 斜め上にww精霊たらしなカイトくん♡ 期待♬︎♬︎♬︎♬︎♬︎
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