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ジークさんの両親に出会った

 意外と揺れないゴンドラの中で、すっかり懐いて俺の肩に居座ってる子竜と共に景色を眺める。


「こうして見ると、シンフォニア王国って緑豊かなんですね」


 シンフォニア王国は王都こそ発展しているものの、こうして上空から見ると非常に緑豊かで美しい。

 それは未開の地ばかりと言う様な荒れた感じではなく、自然を大切にしている様な印象を受ける風景だった。


「ええ、シンフォニア王国は人界最大規模のエルフの森もあり、自然の非常に多い国です」

「やはりその要因の一端としては、シンフォニア王国が界王様と交流が深い事が挙げられますね」


 俺の言葉を受け、リリアさんとルナマリアさんが説明の言葉を返してくれる。


「特にエルフ族は界王様を強く信仰していて、宝樹祭も界王様に豊穣の感謝を伝える為のお祭りとされています」

「……」


 ルナマリアさんの言葉にジークさんが強く肯定する様に頷く。

 どうやら本当にエルフ族にとって神に等しい存在らしい。


「確か界王は、世界樹の精霊ってクロノアさんから聞きましたが、その辺りが関係してるんですか?」

「ええ、エルフ族は……かつての魔王軍の侵攻により、住んでいた森を失いました。その事を知った界王様は、友好条約が結ばれた後、その力を以てエルフ族の為に広大な森を作り出したそうです。それ以降エルフ族にとって界王様は正しく神と呼べる存在であり、強く信仰される様になったと聞きます」

「エルフ族はかなりの規模の種族ですが、エルフ族の長は友好条約以降一度も王と名乗った事はありません。エルフ族にとって王とは界王様だけだと言う証明なのでしょう」


 どうやらエルフ族にとって界王は種族そのものの大恩人とも言える存在であり、だからこそとても強く信仰されているらしい。

 それにしても世界最大の森を作り出すとか、本当に六王と言うのはとんでもない力を持っているんだな。


「ちなみに、その際に土地を提供したのがシンフォニア王国で、それ以降界王様はシンフォニア王国に対し眷族である精霊や妖精を遣わせて下さり、シンフォニア王国は非常に作物等に恵まれ食文化が発展しています」


 成程、先程リリアさんがシンフォニア王国は界王と交流が深いと言った意味が分かった。

 そう言えばシンフォニア王国には豊穣の神はいないと聞いた覚えがあるし、この国にとって豊穣をもたらすのは界王と言う訳なんだろう。

 そのままエルフの森向かう道中、リリアさんから界王とエルフの森に付いての話を聞いた。
















 飛竜便にて移動する事3時間と少し、眼下には広大な森林とその中央にある木造りの街が見える。

 ログハウスの様な建物もあれば、木で出来た塔の様なものまであり、そして街の中央には一際巨大な……数百メートルはあろうかと言う大樹が鎮座している。

 おそらくアレがこの祭りの冠になっている宝樹なのだろう、いや本当に自然と共に生きる種族と聞いたので、いいとこ大きめの村位の大きさかと思ったが、人族のものとは趣が違うだけでこれはもう立派な大都市だ。


「す、凄いですね……全て木で?」

「流石に全てと言う訳ではありませんが、可能な限り自然と共にと言う感じです」


 街の入り口らしき場所に白竜は着地。空から見ても凄かったが、こうして目の前に立つと圧倒される光景だ。

 楠さんも同じ感想を抱いたみたいで、感動した様に呟いていた。


 異世界らしさを改めて実感しながら、俺達はエルフ族の街へ足を踏み入れ――られたら良かったのだが、その前に問題が発生した。


「キュ~~~!!」

「えっと……」


 俺に懐いた子竜が離れてくれない。

 感応魔法がある俺にはダイレクトに気持ちが伝わり、また同時に俺の感情も理解出来る。

 子竜はそれが非常に気に入ったのか、移動の最中もずっと俺の肩の上に鎮座していたし、今も俺の服にしがみ付いて離れてくれない。


「宮間先輩、思いっきり懐かれちゃいましたね」


 柚木さんの言葉通り、御者の女性が何とか引き離そうとしているのだが、子竜は全く言う事を聞いていない。

 懐かれて嬉しい様な、困った様な……とにかくこの子竜を先に説得しなければエルフの街に入れない。

 いや、別には入れる事は入れるのだが……この子竜は俺のペットでも何でもなく、飛竜便の子竜な訳だし勝手に連れて行く訳にはいかない。


「大丈夫。帰る時にもまた会えるし、王都に戻ってからも会いに行くから」

「キュゥ~」

「うん、だから御者の人の言う事をちゃんと聞いてあげて」

「……キュイ」


 子竜はとても寂しそうな顔をしたが、何とか俺の言葉に納得してくれたみたいで小さく頷く。

 そして俺の服を掴む力を弱めて……


「キュ!」

「ッ!?」


 いきなり俺の首に噛みついてきた。

 一瞬ビックリしたが、歯を立てたりはしておらず、二度程そのまま甘噛みしてから離れる。

 今のはなんだったんだろうか? よくは分からないが、御者の女性が驚いていると言う事は親愛を示す行動か何かなのかもしれない。


 ともかくそれで子竜は俺から離れてくれ、手を振る俺に名残惜しそうな鳴き声を上げつつも見送ってくれた。

 本当に可愛らしい子だった。この飛竜便は王都に店を構えているとの事なので、またちょくちょく遊びに行く事にしよう。

























 改めてエルフ族の街へ足を踏み入れる。

 この世界には魔法と言う物があり、大きな街には結界魔法が張ってあるとの事で、仰々しい城壁みたいなものは無くあっさりと入る事が出来た。


「皆様、ここで案内をして下さる方々と合流の予定です」

「案内の方ですか?」


 ルナマリアさんはハーフエルフを父に持つものの、エルフ族の街には来た事が無いと言っていたが……エルフ族の知り合いはいるのだろうか? それともそう言うガイドみたいな業者なのだろうか?

 疑問を感じルナマリアさんに尋ねてみようと口を開きかけると、そのタイミングでどこからともなく、よく響く大きな声が聞こえてきた。


「シンフォニア王国!」

「アルベルト公爵家御一行様!」

「「「ッ!?」」」

「……!?!?」


 突然聞こえてきた声に俺と楠さんと柚木さんが驚き、何故かジークさんも驚愕した様な表情を浮かべる。

 そして声の方に視線を動かすと、遠方からこちらに向かって駆けてくる二つの影が見えた。


 短い金髪の男性エルフと赤い長髪の女性エルフ……その二人はそれぞれ左右の斜め前から一直線に走ってきて、俺達の少し前で交差する。


「はっ!」

「とぅっ!」


 空中で交差しながら一回転して着地。背中合わせに立ちながら、二人のエルフはポーズを決める。


「「エルフの街『リグフォレシア』へようこそ~!!」」

「「「……」」」


 これは、一体どうリアクションすればいいんだ。なんか違う。明らかにテンションが俺達と大分違う。

 そしてジークさんが頭を抱えてるけど、もしかしてこの人達って……


「……あ、あれ? あなた、なんだか引かれてる気がするわ」

「むむ、ちょっとこのポーズはハイセンスすぎたかな?」

「「「……」」」


 さすがエルフと言うべきか、金髪の男性も赤髪の女性も物凄い美男美女だが、何と言うかテンションが酷く場違いである。

 茫然とする俺達の前で、頭を抱えていたジークさんがゆらりと立ち上がり、細身の剣を二本抜く。


「……」

「あ、あれ? ジークちゃん? どうしたの、そんな怖い顔して」

「ははは、きっと照れているのだろう!」

「でも~なんか、今にも切りかかってきそうなんだけど……」

「は、ははは……ま、待つんだジーク。落ち着いて話を……」

「……ッ!!」

「「ぎゃあぁぁぁぁ!?」」


 修羅と化したジークさんが二人のエルフに襲いかかり、悲惨な叫び声が響き渡る。


「……あの、リリアさん。あの方々って、もしかして……」

「ええ、その、ジークの『両親』です」

「「「……」」」


 何と言うか、その……言葉が無い。

 知り合いと一緒に故郷の祭りに参加しようとしたら、両親がとんでもなくハイテンションで登場したと言うのは、娘からすれば羞恥プレイ以外の何物でもないだろう。

 ジークさんの悲しい心情は、感応魔法等使わなくても、顔を真っ赤にして怒っている様子から十分伝わって来た。


 拝啓、母さん、父さん――エルフの街、リグフォレシアに到着したよ。そして――ジークさんの両親に出会った。











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― 新着の感想 ―
[一言] 真実知ってからだとただの妹の尻拭いしてくれただけだな。 本人的にはほぼ手間も掛からず作るだけならできるし。 こまめに様子見に来るのは性格でてるが
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