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少しカッコつけても良いかな?

 アイシスさんは本当に沢山の本を読んでいるらしく、本についての話題は非常に盛り上がっていた。

 主に俺がアレコレ質問してアイシスさんが答えてくれると言う形だが、アイシスさんは本当に楽しそうで、一つ一つ丁寧に答えてくれる。

 この世界には歴史書や冒険譚は勿論の事、魔道書等地球には存在しない種類の本もあるらしいが……何より興味を引いたのは、ファンタジー小説の様な本が存在しているという点だった。

 この世界には勇者召喚が存在している為、異世界というのが割と身近な存在でもある。その事もあってこの世界の作家達には、異世界……つまり俺達の世界や、それ以外の世界を空想し小説を書く者も多いらしい。

 異世界転移した世界で、異世界転移物の小説に巡り合うと言うのも中々……


「聞けば聞く程、この世界の本は面白そうですね。俺ももっと色々な本を読んでみたいです」

「……じゃ、じゃあ……今度……色々な本……持ってくる」

「本当ですか、それは凄く楽しみです」


 アイシスさんが本を貸してくれると発言し、先程までの話でこの世界の本にますます興味を持った俺は、若干喰い気味に言葉を返す。


 そのまましばらく本に付いて雑談を続け、話題が一段落した所で少し冷めた紅茶をのんびりと飲んでいて――それに気付いた。

 俺の方を見つめるアイシスさんの目に、微かに光る物――涙が現れ、それが一粒頬を伝ってテーブルに落ちた。


「あ、アイシスさん!? どうかしましたか?」

「……あっ……ごめんなさい……こんなに楽しいの……凄く……久しぶりで」

「……」


 何かあったのかと心配して声をかけると、アイシスさんは小さな声で呟く様に言葉を返してくる。

 返してきたその一言には、簡単に言葉では言い表せない程の想いが宿っている様で、安直に返答する事すら躊躇ってしまう。

 そのまま少しの間沈黙が流れ……アイシスさんはぽつぽつと、自分の事を話し始めた。


 アイシスさんは生まれた時から、強大な死の魔力を体に宿していたそうで……今までずっと多くの生物に忌み嫌われてきていたらしい。

 初めの頃はその死の魔力を上手く扱う事が出来ず、アイシスさんが負の感情を抱くだけでその死の魔力は、周囲の命を狩り取ったらしい。

 生物も植物も、この世界に存在する大半の命有るものはアイシスさんの死の魔力に抗う事など出来ず、その頃のアイシスさんは死を撒き散らしながら歩く、正しく天災の様なものだったそうだ。


 日常生活において負の感情を全く抱かない者など存在しないだろう。些細な会話に苛立ったり、上手くいかなくてやきもきしたり、一人ぼっちで寂しいと感じたり……

 アイシスさんがどれだけ他者と関わりたいと願っても、彼女が近付けば生物は怯え、そして死んでいった。


 長くそんな日々を過ごし、少しずつアイシスさんは死の魔力を制御出来る様になったが……結局それを完全に消す事は出来なかったらしい。

 ただそんな日々の中で、現在の六王等……アイシスさんに匹敵、或いは上回る程の力を持った存在達。彼女と言葉を交わせる者も現れ、その時は本当に嬉しかったらしい。

 

 だけどそんな六王達の存在……彼女と同じ強大な力を持った同格の存在こそが、皮肉にもよりアイシスさんを追い込む要因となってしまった。

 彼女が同格……自分と似た様な存在だと感じていた六王達は、月日が進むたび次々眷族や配下を増やし、次第に魔界の中心的な存在へとなっていき、更には三つの世界で友好条約が結ばれた事で、六王達の周りには魔族だけでなく人族や神族も集まり始め……そして、アイシスさんだけ取り残された。


 アイシスさんが自分と同格ないし格上としか交流を持てないのに、他の六王達は力の弱い人族とも友好的な関係を築いていた。

 アイシスさんはそれが羨ましくて仕方なかった。人族と交流する他の六王を見るのが辛くて仕方がなかった。

 今まで楽しかった筈の他の六王達との会話でも、人界での話を聞くたびに、彼女の心にはどうしようもない程の孤独な感情が沸き上がってきて、何度も一人で涙をこぼしていたらしい。

 そんなアイシスさんにとって、俺は初めてできた人間の友達であり、それがどうしようもなく嬉しかったそうだ。

 

 アイシスさんの話を聞き終え、俺はソファーから立ち上がり、アイシスさんの傍に移動する。

 そして微かに震えているその小さな手に、出来るだけ優しく、包み込む様に触れた。


「……カイト?」

「正直言って、俺にはアイシスさんが何千年もずっと感じて来た辛い気持ち……その全てを理解する事は出来ません。アイシスさんの気持ちが分かるなんて、とても口にする事は出来ません」

「……」

「ましてや、その孤独な気持ちを俺が何とかしてやるなんて、カッコいい事も……残念ながら言えませんし、実際に出来ないと思います」


 ある意味で残念な事でもあり、そしてある意味で幸運な事でもあるが、俺はハッキリ言って凡人だと思う。

 身の丈を越えた事は成し遂げられないなら、俺が震えるアイシスさんにしてあげられる事は……俺は俺らしく、ただ真っ直ぐ心から彼女と向かい合う事だけだと思う。


「俺がアイシスさんと普通に話せてるのは、感応魔法ってちょっと変わった力を持ってるから……偶々偶然とも言えます。だけど、これもきっと一つの縁……寂しいときはいつでも遊びに来て下さい。俺に出来る事は少ないですけど、話相手にぐらい、いつでもなります」

「……っ」

「安心して下さい。俺はこの先決して貴女を怖がって拒絶したりはしない。それだけは、約束できます」

「……ッ!?!?」


 上手く伝えられたか分からないが、何とか自分の想いを伝える事は出来たんじゃないかと思う。

 俺がアイシスさんの死の魔力を克服できたのは感応魔法という、ある意味偶然得る事が出来た力によるものではあるが、この力も一応俺自身という事。

 もし感応魔法を持っていなかったら何て事を考えるのはナンセンスなので、精々アイシスさんの為にも有効活用させてもらう事にしよう。


 アイシスさんは俺の言葉を受け、顔を伏せて微かに体を震わせ、少しして弾かれた様に俺に飛びついて来た。


「あ、アイシスさん!?」


 ひんやりとした低めの体温と、柔らかい体が触れ、髪からは花の様な香りが漂ってくる。


「……カイト……好き……好き……大好き」

「……」


 突然抱きつかれて驚いたが、俺の胸に顔を埋め、肩を声を震わせるアイシスさんを見て、それ以上は何も言えなくなる。

 アイシスさんは人知を超えた強大な力を持つ六王であり、この世界でも最強の一角……だけど、決して傷つかない無敵の存在ではない。

 その証拠に、涙を流しながら縋る様に俺に抱きつくアイシスさん。その震える肩は酷く小さく見え、触れるだけで崩れてしまいそうな程儚かった。


 何千年も積もり積もった悲しみを溢す様に泣き続けるアイシスさんの体を、俺は繊細な雪細工に触れる様に優しく、そっと抱きしめた。


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんの事を可哀想だとか、そんな簡単な言葉で片付ける気も無いし、俺がアイシスさんの為にしてあげられる事なんて、ほんの少ししかないと思う。だけど、今くらいは――少しカッコつけても良いかな?










……いちゃいちゃしてる。

もう、この子がヒロインで良いんじゃないかな?

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― 新着の感想 ―
カイト、見事な愛の告白だよ
[良い点] 漢見せたな… チート能力で異世界ヒャッホーする中2病なんかじゃない。 自らの責任から逃げず、弱き者に寄り添う君こそ真の勇者だ。
[一言] 見事な 神タラシwww
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