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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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ノインさんは勇者らしい

 アイシスさんに屋敷の中を簡単に案内したが、やはりアイシスさんの纏う死の魔力のせいで皆怯えていて、食堂等ではゆっくり話をするのは難しそうだった。
 リリアさんもまだ気絶しているので、そちらはルナマリアさんとクロノアさんに任せ、紅茶を持って来てもらう様にだけお願いして、アイシスさんを俺の部屋に案内する。
 正直その方が他の視線も無い分、アイシスさんも気が楽だろうと考えた結果の選択だ。

 女性を単独で男の部屋にと言うのも字面だけ見れば問題がありそうだが……仮に男は狼という言葉にならって俺が狼だとすれば、アイシスさんは恐竜かドラゴンなので全く問題は無い。
 ちなみに俺の部屋……リリアさんが貸し与えてくれている一室は、正直一人では過剰な程広い部屋で、恐らくだが重要な客人用の部屋なんじゃないかと思う。
 室内はホテルのスイートルームかと思う程広く、目算ではあるが十五畳以上。大きなベットに高級そうな家具類、果ては応客用のソファーとテーブルまである。

 部屋に入って興味深そうにキョロキョロしているアイシスさんに、応客用のソファーを勧めると、早々とルナマリアさんが紅茶とクッキーを運んで来てくれた。
 流石のルナマリアさんも、アイシスさんの至近距離に近付けば手の震えで紅茶を落としてしまう様で、入口で俺が受け取りテーブルに置く。

「どうぞ、アイシスさん」
「……ありがとう……いただきます」

 アイシスさんは微笑みを浮かべて紅茶を受け取り、俺と向かい合って座りながらそれを飲んで、茶請けのクッキーを口に運ぶ。
 俺にとっては一口サイズのクッキーだが、アイシスさんはクッキーを二つに割って、一欠片ずつ小さな口で食べている。
 儚げな美少女と言った容姿のアイシスさんが、小さな口でクッキーを食べて微笑む姿は、小動物の様に愛らしく自然と笑みが浮かぶ。

「……美味しい」
「お口に合って良かったです。と言っても、俺が用意した訳ではないんですが……」
「……ううん……カイトが一緒に居てくれるから……いつもより……美味しい」
「あ、えと、ありがとうございます」

 何と言うか、アイシスさんは今まで俺の周りにいなかったタイプの人だと思う。
 物凄く強い力を持っている方だけど、お淑やかでどこか儚げな……例えるのなら雪の結晶の様に、繊細な可愛らしさを持ったとびっきりに美少女で、何と言うか女性らしさを凄く感じる方だ。
 そんなアイシスさんが、こちらに対して包み隠さず好意的な感情を向けてくれるので、妙に照れくさく感じてしまう。
 そんな俺の様子を、アイシスさんは本当に幸せそうな笑顔で見つめた後、物珍しいのか部屋の中に視線を動かし始める。

「……カイトの部屋……綺麗」
「殆ど借りた時のままですけどね。自分で買い足したのは本ぐらいです」
「……カイト……本好きなの?」
「ええ、前の世界に居た時もよく小説とか読んでましたよ」

 まぁ、殆どライトノベルではあったが……本好きと言っても過言ではないと思う。
 アイシスさんは俺の言葉を聞いて、何やら先程までより嬉しそうな表情を浮かべる。

「……私も……本……よく読む」
「そうなんですか? 気が合いますね」
「……うん……カイトと一緒……嬉しい」
「あはは、それじゃあ、アイシスさんの家には沢山本があったりするんですか?」
「……たしか……1000万冊……くらい」

 予想より大分多かった!? それもう殆ど……いや、完璧に図書館なんじゃなかろうか……
 ともあれアイシスさんは本が好きみたいで、俺と共通の趣味を見つけた事が嬉しいのか、先程より声に熱が籠っている。

「それは凄い……アイシスさんは凄く本が好きなんですね」
「……カイトの方が……もっと好き」
「あ、えと、ありがとうございます。そ、そうだ! 俺、この世界の本はよく知らないので、面白い本とか教えてもらえたら嬉しいです」

 物凄くストレートで純粋な好意。何と言うか嬉しい様な気恥ずかしい様な……変にドキドキしてしまう。

「……うん……カイトは……どんな本が好き?」
「う~ん。物語があるものが好きですね。冒険譚とかでしょうか? 最近読んだ本だと、こんなのがあります」

 アイシスさんの質問に答えつつ、数日前に購入して昨日読み終わったばかりの本……初代勇者の冒険について書かれた本を取りだす。
 クロに勧められて買った本だが、これが中々面白かった。
 史実に基づいた物語という事だが、やはり魔法のある世界という事もあって、さながらファンタジー小説みたいで熱中して早く読み終えてしまった。

「……その本……私も読んだ事ある……面白かった」
「ええ、正しく冒険譚って感じのワクワクする本でした。史実に基づいてって事は、実際にあった事なんですよね?」
「……うん……その本は……かなり歴史に忠実……でも……違う所もある」
「そうなんですか?」

 この本は初代勇者による魔王討伐の物語で、本来ならもっと長い冒険の話を一冊の本に纏めた物だ。
 ただ魔王討伐まではかなり詳しく書かれていたが、それ以降の三つの世界の友好条約が結ばれた経緯はダイジェスト形式だった。
 これは人界で書かれた本だからなのか、情報隠蔽の魔法の影響とかがあるのか、六王等に関してはあまり詳しく載ってはいない。
 アイシスさんは当時を知る六王の一角という事もあって、この本に書かれた内容の中でも物語的に脚色された部分も知っているんだろう。
 何か裏話を聞いてるみたいで、少しワクワクしてきた。

「……その本だと……元の世界に帰ったって書かれてる……けど……本当は帰ってない……クロムエイナの所に……残った」
「そ、そういえば、なんかクロも似た様な事を言ってました。もう俺も会ってるとか何とか……」
「……今は……『ノイン』って……名乗ってる」
「……」

 何か今、さらりとこの世界的に物凄い重大情報が暴露された気がする。
 てか、え? つまりそういう事なの? ノインさんが……初代勇者?
 成程。言われてみれば確かに……クロのもう既に俺は会っているという言葉から推測すると、俺がこの世界に来てから会った元異世界人と言えばノインさんしかいない訳だ。

「あの、それ、結構重大な情報なんじゃ……」
「……ヒカリは……言わないでって……言ってた」
「えと、俺に教えてしまって良かったんですか?」
「……うん……私は……ヒカリより……カイトの方が好き……だから……大丈夫」

 何が大丈夫なのかさっぱり分からないけど、アイシスさん的には初代勇者の正体を俺に伝えても問題無いらしい。
 まぁ、クロだってよくよく考えれば答えに辿り着けそうな発言をしてた訳だし、俺が周囲に言って回ったりしなければ大丈夫なのかな?
 ああ、もしかしたらノインさんにも情報隠蔽の魔法がかかってるのかもしれない。
 六王やノインさんから直接聞いたりすれば分かるけど、俺が周囲に話しても聞き取れない位の事はしてるのだろう。

 何と言うかとんでもない秘密を知ってしまった気がするが、まぁ、アイシスさんが凄く楽しそうだからいいかな?

 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんは本が好きみたい。後、新事実だけど――ノインさんは勇者らしい。









今まで登場した女性の半数以上を置き去りにしそうなほど、死王のヒロイン力が高い気がする。
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