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一周年記念番外編「創造神様は甘えられたい」


 神界において最も神聖な場所……世界の頂点たる創造神シャローヴァナルの住む神域。

 いつものように神域の端から世界を見詰めているシャローヴァナル元に、時空神クロノアが現れた。


「……シャローヴァナル様、お呼びでしょうか?」


 深く頭を下げてから口を開くクロノアだが、その内心は非常に複雑なものになっていた。

 なぜならクロノアは、突発的にシャローヴァナルに呼ばれるということは、ほぼ確実に無茶振りをされるのだといままでの経験から理解していた。

 とはいえ、シャローヴァナルに絶対の忠誠を誓う彼女が呼び出しを無視できるわけもなく、戦々恐々としながらシャローヴァナルの言葉を待っていた。


「快人さんが、甘えてくれません」

「……は?」

「快人さんが、甘えてくれません」

「……」


 抑揚のない声で淡々と告げるシャローヴァナルの言葉を聞き、クロノアはやや茫然としたあとでその内容について考え、そして言葉を返した。


「……なるほど、しかし、それはある程度はいた仕方ないのではないでしょうか? ミヤマの性格からして、あまり他者に甘えるタイプではないでしょう」

「ですが、クロには甘えています」

「……」

「クロだけずるいので、私にも甘えてほしいです」

「な、なるほど……」


 基本的にドライというか、感情が薄めなシャローヴァナルではあるが、彼女が感情的になる対象がふたつだけ存在する。

 ひとつは言わずもなが快人である。クロノアはおろか神族には周知だが、シャローヴァナルは快人を明確に特別視しており、快人相手には感情を表に出すことも多い。

 そしてもうひとつ、これに関してはクロノアは詳細を知らないので疑問ではあるが、冥王クロムエイナに対しても感情的……というより、一種の対抗心を持っているように見えた。


(やはり同格の実力を持つ相手故、意識しておられるのだろうか?)


 クロムエイナがシャローヴァナルの半身であるということを知らないクロノアは、単純に己のアインに対する感情と同じように、ライバルへの対抗心だと認識していた。

 だが、まぁ、この場においてそれはあまり重要ではない。重要なのはそのふたつのうちどちらかが関わる場合は、無茶振りのランクが跳ね上がるということ……。


「……その、シャローヴァナル様。それで、なぜ我は呼ばれたのでしょうか?」

「なんとかしてください」

「……はい?」

「なんとかしてください」

「……は、はぁ……その、具体的な方法などは……」

「任せます」

「……かしこまりました」


 そしてもたらされる無茶振り、快人に甘えてもらえなくて不満だからなんとかしてくれという、シャローヴァナルの言葉。残念ながら、クロノアに断るという選択肢はなく、深く頭を下げて神域から立ち去った。


(……うむ、しかし、今回はむしろ簡単な部類だ。ミヤマにシャローヴァナル様に甘えるよう頼めばいい。幸い、我もミヤマとはそれなりに親しい間柄故、問題はない。さっそくミヤマの家に向かうとするか……)








 クロノアが去って数秒後、魔力を感じたシャローヴァナルが振り返ると、転移魔法の光とともに快人が姿を現した。


「こんにちは、シロさん……って、どうしたんですか?」

「……予想以上に早くて驚きました。こんにちは、快人さん」

「……うん? あ、はい。えっと、美味しいお菓子をもらったので、シロさんさえよければお茶でもしませんか?」

「構いませんよ。では、用意します」


 快人から提案してくるのは珍しいと感じつつ、シャローヴァナルは軽く指を振ってテーブルと椅子を用意する。

 そして快人と向かい合うように座り、紅茶を出現させる。快人もマジックボックスから菓子を取り出し、テーブルの上に置いてから席に座る。


「珍しいですね。快人さんからお茶の誘いがあるとは……」

「え? あ、いや~その、たまにはシロさんとゆっくり過ごしたいなぁ~って思いまして……」

「なるほど」


 どこか様子のおかしい快人を疑問に感じ、シャローヴァナルは快人の心を読む。すると……。


(……シロさんに甘えるっていっても、どうすればいいんだ? とりあえず訪ねてはきたけど……う~ん。クロにしてもらってるみたいに、膝枕? いや、でもどうやって切り出せば……他の方法を考えてみるか……)


 快人は、シャローヴァナルに甘えようと考えてこの場を訪れているらしい。それはシャローヴァナルにとって願ってもない展開だが……どうやら尻込みしているらしい。


「……うん? あの、シロさん? あの、テーブルと紅茶とお菓子が消えたんですが……気のせいか、座ってる椅子が伸びてる気がするんですが……」

「いえ、快人さんは私になにかをして欲しいのではないかと思いまして」

「……あの、他の方法を考えるって言うのは……」

「駄目です」

「……シロさんはもう分かっているので、わざわざ口に出す必要は……」

「言っていただかなければ、快人さんがなにをして欲しいのかサッパリ分かりません」

「……」


 淡々と告げるシャローヴァナルに、快人は文句を言いたげな表情を浮かべていたが、シャローヴァナルが譲らないのは分かっているのか、深く溜息をついて口を開いた。


「……えっと、その、さ、最近疲れてまして……し、シロさんといると心が落ち着くので、その、ひ、膝枕とか……していただけたら、う、嬉しいかなと……失礼なお願いなのは、重々承知なんですが……」

「仕方ありませんね。私はいま非常に機嫌がいいので、快人さんが『どうしても』と言うのであれば、考えないこともありません」

「……ど、どうしても、シロさんに膝枕してもらいたいんです」

「いいでしょう」


 恥ずかしそうに告げる快人に対し、シャローヴァナルはほとんど変化しない表情を微かに笑みに変えて自分の腿を叩く。

 いつの間にか、椅子はベンチほどの長さに変わっており、快人は諦めたような表情で移動してゆっくりと横になる。


「……なに、この敗北感……」

「おや? 不思議なことを言いますね。快人さんの要望が見事通ったのですよ? むしろ勝者なのではありませんか?」

「ぐっ……最近のシロさんは、そういうからかいをするんで性質が悪いです」

「こんな私は、嫌いですか?」

「……いえ、まぁ、恥ずかしかったりはしますけど……前のシロさんより、いろいろな感情を見せてくれる今のシロさんのほうが……好きですよ」

「そうですか」


 快人の返答を聞いたシャローヴァナルは、満足気に腿に乗った快人の頭を撫で、そして美しい笑みを浮かべた。

 それ以上言葉を交わさなくても、不思議と互いの心は繋がっているような……そんな心地良さを味わいながら……。







「……ご主人様ですか? 30分ほど前に出かけましたが?」

「そ、そうか……行先は分かるか?」

「いえ、申し訳ない」

「いや、こちらこそ急に訪ねてすまなかった。失礼する」


 快人の家で従士長であるアニマから告げられたのは、快人が不在であるという言葉。クロノアはやや出鼻をくじかれた気持ちを感じつつ、次の場所へ向かうことにした。


(むぅ、ミヤマは出かけているのか……さて、どこだ? リリアの屋敷、死王の城、冥王の城あたりが有力候補か……)


 快人の行動範囲はそれなりに広く、転移魔法を使うので候補は多いが、時間を操れるクロノアにとっては移動に時間はかからない。とりあえず、心当たりを順に当ってみようと考え、クロノアはその場から姿を消した。





 しかし、すぐに見つかるだろうと思った快人捜索は、難航を極めた。リリアの屋敷にも、アイシスの城にも、クロムエイナの城にも、快人の姿はなかった。

 それ以外にもあちこちの心当たりを回ってみたが、快人は見つからなかった。


(……見つからん。あとは幻王の店……いや、待て、そもそも幻王の店はどこにある? シンフォニア王国にあるということは分かっているが……)


 快人が訪れる可能性の高いアリスの雑貨屋だが、クロノアは一度もそこへ足を運んだことはなく、正確な場所が分からなかった。

 ゆえにいったん候補から外してはいたが、その場所以外はあらかた回ってしまっており、他に心当たりがない。


(……いっそ、生命神と運命神に頼むか? 説得に時間がかかるだろうが……いや、待てよ。流石に生命神と運命神もシャローヴァナル様の要望とあれば、協力は惜しまないだろう)


 あまりに快人が見つからないので、ライフとフェイトを頼ることにしたクロノアだが……。


「……み、見つかりません」

「なにっ!?」


 しかし、ライフの能力を使っても快人を発見することはできなかった。


「う~ん、生命神の力は目となる生物が居ない場所には効果ないけど……カイちゃんが、そういう場所にいるってことなのかな?」

「う、ううむ……まいったな、これ以上シャローヴァナル様をお待たせするわけには……」


 既に快人を捜索し始めて既に2時間近くが経過しており、クロノアの表情にも焦りが強く出ていた。


「……というより、思ったんですが……」

「なんだ、生命神?」

「……ミヤマ様……神域に居るのでは?」

「……なに?」

「神域であれば、当然私の力も運命神の力も及びませんし……」


 ポツリと呟いたライフの言葉を聞き、クロノアは顎に手を当てて少し考える。たしかに他に生物が存在しない場所に居ると考えるより、ライフの力が及ばない神域に居るというほうが納得ができる。

 灯台もと暗しではあるが、現状それが一番可能性が高いと考えたクロノアは、一度頷いてから神域に向かうことにした。


「……たしかに可能性は高いな。確認のために神域に向かうことにする。手間をかけたな」

「いえ、もし見つからなければまた捜索してみます」

「カイちゃんがいたら、帰りに私の神殿にも寄るように伝えてね~」


 ライフとフェイトの言葉を背に受けながら、クロノアは急ぎ神域に向かった。







 神域に辿り着いたクロノアの目に映ったのは、シャローヴァナルのみであり、快人の姿はなかった。


(ここにもいないのか……失態だ)


 シャローヴァナルの要望をいまだ叶えられてないことに歯噛みし、叱られるのは覚悟で経過の報告をしようと近付く。

 しかし、そんなクロノアにとって、予想外の言葉が聞こえてきた。


「……クロノア」

「はっ……え? いま、シャローヴァナル様が、我の名を……」

「よくやってくれました。貴女を誇りに思います」

「……は?」


 告げられた言葉は、いまだかつてないほど最上級の褒め言葉であった。当然先程まで快人がここに居て、シャローヴァナルの望んでいた行動をとっていたなどと知る由もないクロノアは、首を傾げる。

 シャローヴァナルがクロノアの心を読めば一発で誤解は解けるのだが……幸か不幸か、現在のシャローヴァナルは凄まじく機嫌がよく、ついでに快人のことで頭がいっぱいであり、クロノアの困惑を完全に無視していた。


 茫然と立ち続けるクロノアが状況を正しく理解したのは、それからしばらく経ってからだった。








「……というわけで、クロのアドバイス通り、シロさんに甘えてきたよ。滅茶苦茶恥ずかしかったけどね」

「あはは、シロ喜んだでしょ? 最近そればっかり言ってたからね」

「……う、うん。まぁ、いいか……」

「あっ、そういえば、クロノアちゃんがカイトくんのこと探してたよ」

「クロノアさんが? なにか用事かな? ハミングバードでも送ってくれればよかったのに……」

「う~ん、神域にハミングバードは届かないからね。なにか急ぎの用事だったんじゃない?」

「……ふむ、じゃあちょっとクロノアさんのところに行ってみるよ」

「うん! いってらっしゃい~」





???「おっと、失態でした。前回のショッピングで連絡先を明記しておりませんでした。これはシリアス先輩のケジメ案件なのでは?」

シリアス先輩「なんで!? お前の失態じゃん! お前がケジメしろ!」

???「……ギャグキャラの分際でうるさいですよ」

シリアス先輩「なんでここでそれ言うの!? 折角前のは無かったことにしようと思って、触れてなかったのにぃぃぃ!!」

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