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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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一周年記念番外編「始まりの来訪者後編①・陽だまりの中で」



 ――考えれみれば、私は……初めから間違えていたのかもしれません。
 この世界にきて、私は自分の心が砕けていたことを認め、幻想の欠片になりました。イリスの願いを叶えて死ぬ、ただそれだけを考える存在に……。

 魔界を改革しようと思ったのも、配下を増やし続けたのも……全部、誰のためでもなく自分のため。
 本当にこの頃の私は自分のことしか考えていなかった。いや『自分のことすらちゃんと考えてはいなかった』と言うのが正しいんでしょうね。

 いまになってみれば分かります。私はイリスの願いを叶えて死ぬために恋愛をしようとしていた。『誰かを好きになって恋愛をする』のではなく、『恋愛をして死ぬ』という作業をこなそうとしていました。
 ……そんな破滅願望しかない心に、恋愛をする余裕なんてあるわけがない。当時の私は、そんな簡単なことにすら気付きませんでした。ただ、日々焦りと焦燥感ばかりが強くなっていましたね。

 そもそも、私はたぶん誰にも心を許してはいなかったんだと思います。常に心に壁を作って、誰にも奥底を覗かせようとはしなかった……酷い引きこもりもいたものです。何十万年と喪女拗らせると、いろいろ性質が悪いものですよ。

 私の目的が達成できなかった理由……それらを改めて認識すると、カイトさんとの出会いは本当に奇跡的でした。
 実を言うと最初、私にとってカイトさんは恋愛の対象ではありませんでした。私がカイトさんに接触した理由は、自分のためではなく『クロさんへの恩返し』のためでした。
 私はずっとクロさんに対して負い目を感じていました。当時は知らなかったとはいえ、私の選択がクロさんの願いを邪魔する形になってしまった。
 クロさんには拾ってもらった恩があり、私はそれに報いる機会をずっと探していました。
 だからこそ、クロさんの珍しいワガママを見逃しました。そして、クロさんにとって最善の結果になるようにサポートするため、カイトさんに接触しました。アリスという役を纏って……。

 カイトさんはこの世界で多くの人と出会って心を強くし、六王たちとの交友を持ち、友人だと思っていた相手に裏切られるという悲劇を乗り越えて……さらなる強さを得てから、クロさんの心の深奥に挑む。
 それが、私の書いたシナリオ……自分のためではなく、クロさんのために書いたシナリオでした。

 ……白状してしまうと、クロさんの深奥に挑むまでにカイトさんが知り合った人達の内、三分の一くらいは私がそうなるように仕込みました。
 アイシスさんの魔力が近付いてくることが分かっていたから……『帰り道に遭遇するよう時間調整』をしました。
 メギドさんとマグナウェルさんに関しては言わずもなが……フェイトさんの興味をくすぐるように、カイトさんのことを教えたのも私です。
 全てはクロさんに恩を返すために……。

 そう、私はこの時ばかりは自分のためではなく、クロさんのために動き、考え、カイトさんと出会いました。いまになって思えば、それが一番のキーポイントだったかもしれません。
 普段の私には早く恋愛をして死ななければという焦りがありましたが、カイトさんに対しては恋愛対象とは考えていなかったのと……クロさんの一件が解決するまではそちらに集中しようと考えていたことが、上手い具合に噛み合いました。
 ……そう、カイトさんと初めで会った時……私の心には、少しだけ余裕があったんだと思います。
 だからこそ……カイトさんがイリスに重なって見えた。

 あの時は、本当に不思議な気分でした。
 カイトさんと話していると、笑おうとして笑うのではなく自然と笑顔になっていて……あぁ、笑顔ってこうするんだったっけ? って、懐かしい気分になったりしました。
 他愛のない雑談をして、些細なことで笑い合って、くだらないことで叱られて……自分がどんどん分からなくなってきました。

 クロさんの願いを叶えるためのシナリオに登場するただの役者……アリスという名前が、私の中でどんどん大きくなっていくように感じました。
 それと同時に、少しずつ……本当に少しずつですが、壊れていた心が修復されているような……『誰かを大切だと感じる気持ち』を思い出しそうになってきていました。

 そして、忘れていたはずのものを思い出していくような戸惑いの中……決定的な出来事が起りました。








「カイトさん、恨むのはお門違いっすよ。これはあくまで仕事です。それに、私と貴方はただの友人……べつに家族でも恋人でもない。その程度の付き合いなんすから」
「……あぁ、そうだな……」

 これでいい。カイトさんを裏切ったアリスは、行方をくらませる。その後の展開はいくつかありますが、カイトさんが望むなら幻王として偽物の死体を用意してもいいかもしれません。
 そう、これは初めから決まっていたシナリオ。カイトさんはここで心に大きなショックを受けて、クロさんに優しく慰められる。
 そしてクロさんへの想いをより強くし、同時に乗り越えることで大きく成長する……そのために準備をしてきた。万が一にもカイトさんが怪我をしないように、周囲には配下も潜ませてあります。

 なにも問題ない……はずなのに……なんで、こんなに苦しいんですか……。いままでもっと外道なこともしてきたはずなのに、この不快感はなんなんですか?
 息が苦しい、カイトさんの顔をこれ以上見たくない……。

「それじゃ、私は帰りますね~」

 動揺する心を必死に抑え込み、私は出来るだけ軽い口調でカイトさんに別れを告げます。
 これで、いい……私とカイトさんは、ただの友人で……それ以上でも以下でもありません。そういう設定のはずなんすから……。

「……アリス」
「なんすか?」

 なんで、私は足を止めているんでしょう? もう『アリス』はカイトさんの前から消える。これから先、カイトさんと接するのは『幻王ノーフェイス』になるんですから、無視してしまえばいいのに……。

「……今度は、無駄遣いするなよ」
「……考えときますよ」

 ……なんで、そんなことを言うんですか? 止めてください、これ以上私を戸惑わせないで……私は貴方の信頼を、裏切ったんですよ?

 言いようのない感情に包まれながら部屋の扉を開け、それを閉める瞬間に少しだけカイトさんの顔を見ました。
 カイトさんは……困ったような、それでいてとても優しい笑顔を浮かべていました。しょうがないやつだとでも言いたげに……。

 いま閉めたばかりの扉にもたれかかりながら、私はようやく自分の気持ちを理解しました。
 ああ、そうか、ようやく分かりました……私は、『アリスになりたい』んですね。用意した途中退場予定のキャラクターだったはずのソレが、いつの間にか『新しい私』になっていたんですね。

 そして、カイトさん……貴方も、それを……望んでくれるんですね。分かってしまいました……えらく長くて遠回りだった気もしますけど、これが……貴方が……ずっと探し求めていた存在だったんですね。

 気が付いた時には、私は自分で閉めた扉を破壊し部屋の中に入っていた。

「っと言うわけで……助けに来ましたよ! カイトさん!」
「……は?」

 いいでしょう、貴方がそう望むなら、私はアリスになりましょう。シナリオなんてのは、これから適当に調整しちゃえばいいんですよ。
 シャルティアでもなく、ノーフェイスでもなく、ただのアリスとして……貴方を助けてみせましょう!

 そう、この日、この瞬間、私は『新しく生まれ変わることが出来ました』。

 異世界の英雄(アリシア)でもなく、幻想の欠片(シャルティア)でもなく、顔無き王(ノーフェイス)でもなく……新しい私(アリス)として……貴方に……恋をしました。



シリアス先輩「ごふっ……こ、心地よき甘みと言うべきか……これでいい、これでいいんだ……流石快人、登場するなりこれか……ふふ、その調子だ……止まるんじゃ……ねぇぞ」
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