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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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一周年記念番外編「始まりの来訪者中編③・幻王誕生」



 魔界の中央近く、特別に用意された強力な結界の中に六体の魔族が集結していた。いずれ劣らぬ魔界でも頂点に近い力を持つ魔族達が行う話し合いの中心は、ひとりの少女……シャルティアだった。

「……というわけで、大体は配った資料通りです」

 この話し合いに先立ち、シャルティアから配られた資料。マグナウェルだけは体のサイズ的に読むことはできないので、シャルティアが音読して説明した。
 そして現在、シャルティアを除いた五体は……茫然とした表情で、必死にシャルティアの語った内容を理解しようとしていた。

 魔界の大改革とすら言えるその内容……生産面などを含め多岐にわたるが、一番の大きな変革と言えるのは、爵位級という区分での力量の明確化、魔界の中心たる王の選定という二点。それを見れば、シャルティアがなぜこのメンバーを集めたかは想定できる。
 しかし、それでも……信じられなかった。普段は冷静なアインですら、驚愕の表情を隠すことが出来ない。

 だがその驚愕は、ここに書かれた内容を『実現できるかどうか』に対してでは無い。いまのシャルティアなら、間違いなく『実現できてしまうだろうと感じること』に驚愕していた。
 シャルティアが魔界の改革のために動きだし、約100年……そう、たった100年で、シャルティアはこの広大な魔界の全域に根を張れるほどの力を手に入れていた。

 シャルティアが直接誘いをかけたのは幹部のみだが、その幹部がさらに配下を増やす。そうして、いまでは彼女の配下はすでに億に近いほど存在していた。
 さらに、計画の邪魔になりうる存在はほとんどこの世を去っている。そう、言ってみればシャルティアは、たった100年で広大な魔界を掌握してしまったのだ。
 アインたちはシャルティアの特異性……悪魔的とすら言えるその手腕に、戦慄していた。

「まぁ、もう分かっているとは思いますが、私は皆さんに王になってもらいたいんです。クロさんを含めて『七王』ってところですかね? クロさんには私から交渉しますので、皆さんも前向きに検討してくれると嬉しいです」

 誰もシャルティアの言葉に反応しない。思考がまったく追いつかない。
 そんな中で、ようやく声を絞り出したのは……リリウッドだった。

『……シャルティア、貴女……いったい、どれだけの魔族を殺したのですか?』
「さぁ? 掃除したゴミの数は覚えてませんね」
『……貴女は……』

 あまりにも淡々とした、他者の命などなんとも思ってないと感じられる言葉……ソレが最も効率のいい方法であれば、大量虐殺もいとわないとすら思えるあまりにもドライな思考に、リリウッドは瞳に怯えを宿した。

「まぁ、返事は急ぎません。私は先に爵位級高位魔族って概念を浸透させてきますので……ソレが終わるぐらいをめどに、考えといてください。まぁ、1年かからないと思いますけどね」

 そう告げてシャルティアはその場から姿を消した。残された……クロムエイナを除いた五体は、長い沈黙の中で思考を巡らせていった。
 後に『自分は生涯クロムエイナの従者である』と言って断ったアイン以外は、クロムエイナも含めてシャルティアの提案を受け入れた。
 しかし、残念ながらこの時点では、シャルティアはクロムエイナの願いに気付いておらず、結果的に己の采配が大恩あるクロムエイナを傷つけたと知って、負い目を感じるようになるのは……まだ先の話だった。







 その遭遇は偶然だった。シャルティアの底知れない不気味さを目の当たりにし、言いようのない不安を感じていたリリウッドは、家の近くで珍しい存在に出会った。

『……貴女は、たしか……パンドラ、でしたね?』
「これは、リリウッド様。お疲れ様です」

 シャルティアの腹心であるパンドラはシャルティアが鍛え上げ、その後は魔界の各地でシャルティアの命を遂行していた。
 故に滅多にリリウッド達が済む家に来ることはなく、あまり会話をしたことはなかった。

 リリウッドが知っているのは、パンドラがシャルティアの最も近くに居る存在ということと、過去に片目を失っているという程度。
 でも、だからこそ、だろうか? リリウッドは導かれるように、とある行動をとった。

『……たしか貴女は、片目が無いのでしたね?』
「ええ、昔失いました……それが?」
『よろしければ、コレを……この果実を食せば、その目を治すことが出来ます』
「……」

 リリウッドがパンドラに手渡したのは、本人が治したくないと思っている傷以外、あらゆる傷を癒す世界樹の果実。
 なぜ突然、そんな行動をとったのか、リリウッド自身にはハッキリとは分かっていない。
 単純に知り合いの痛ましい傷を癒したいと思ったのか、恩を売ってシャルティアの情報を得ようとしたのか、それとも……シャルティアを不気味に感じつつあるからこそ、彼女が手塩にかけて育てたパンドラが正常な人物であることを確認して、間接的にでも言いようのない不安を薄めたいのか……。

 パンドラは手渡された世界樹の果実をしばらく見つめたあと、特に迷うことなくソレを口にした。

「……気遣い、心より感謝します。リリウッド様」
『いえ、気にしないでください。話した機会は少なくとも、貴女もまた私にとっては家族のような――え?』

 パンドラが厚意を素直に受け入れてくれたことに安堵し、穏やかな微笑みで告げよう取りたリリウッドだが……抱いた安堵は、直後に粉々に砕かれることとなった。
 なぜなら、失っていた右目が治ったパンドラが、一切の躊躇なく……『自分の手で右目をえぐりとった』から……。

『な、なにを……なにをしているのですか!?』
「……ああ、これで、やっと、私は完璧になれた……」
『……え?』

 驚愕して叫ぶリリウッドだったが、パンドラが直後に浮かべた深い笑みを見て硬直する。

「あの屑に付けられた傷は消え……『リリウッド様に与えられた右目も潰した』。これで、私の体は全て『シャルティア様に与えられたもののみで構成』されている! あぁ、なんて素晴らしい! いま、私の体は、魂は、全てシャルティア様のものになった! あぁ……なんて幸福感でしょう……絶頂してしまいそうなほど……幸せです」
『……なっ……』
「ありがとうございます。リリウッド様……これで私は『真にシャルティア様の僕』として完成することが出来ました。心より感謝します」
『……』

 リリウッドには、目の前の存在が何を言っているのかまったく理解できなかった。えぐりとった右目を踏み潰し、顔から血を流しながら狂気に染まった笑みを浮かべるパンドラの思考が理解できない。
 深く頭を下げて去っていくパンドラの背中を見ながら、リリウッドは青ざめた表情で呟いた。

『……僕? シャルティア……貴女は、パンドラにどんな風に……アレが、貴女にとっての……理想の兵、なのですか?』

 微かに震えながら、か細い声で呟く言葉は誰にも聞こえていなかった。この時、リリウッドは明確にシャルティアを恐ろしいと感じた。
 狂気とすら感じられる忠誠心を持った配下を育て上げた。己のために喜んで死ぬ存在を望む、あまりにも合理的な冷徹さに……心からの恐怖を抱いた。

 なお……完全に誤解である。シャルティアの配下の中で、ここまでぶっ飛んだ忠誠心を持っているのはパンドラだけ。むしろシャルティアも、なんでこうなったと頭を抱えているレベルである。
 しかし、それを知らないリリウッドにとっては、まるでシャルティアが意図的に狂人を育て上げたと感じられていた。
 この誤解が解けるまでには、本当に長い時間がかかることになった。





 こうして、いくつかの誤算と誤解を孕みながらも、おおむねシャルティアの想定通りにことは進み……それから5年後、魔界に『六王』という頂点が誕生した。
 悪魔的手腕で魔界を掌握し……名も無き王、幻王ノーフェイスと名乗るようになったシャルティアは、いよいよ己の本当の目的に向けて動き始めることになった。
 しかし、彼女の思い通りに進んだのはここまでであり……シャルティアの本当の目的が進展したのは、それから呆れるほどに長い年月を経たのち……異世界人・宮間快人が現れてからだった。



シャルティア:パンドラの教育間違えた、マジワラエナイ
パンドラ:あぁ、ようやくシャルティア様に己の全てささげて忠誠を誓える。リリウッド様に本当に感謝。
リリウッド:あんな狂気に染まった子を育て上げるなんて……シャルティア、貴女はいったいこの世界をどうするつもりなんですか……。


シリアス先輩「きた! 快人きた! もう作者は限界だ、早く! 早く砂糖を……って、あれ? うん? 私……シリアスの化身だよね? ……あれ?」
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