アリスだし大丈夫だろう
ノインさんの日記で一騒動あったあと、俺たちはモンスターレースの会場へとたどり着いた。
モンスターレース場はとてつもない熱気に包まれており、かなり広い会場でも空いている席を探すのは大変そうだと、そう思っていたが……。
「ミヤマ様ですね。ようこそいらっしゃいました。VIP席へご案内いたします」
「あ、はい……よろしくお願いします」
ここでもまさかの顔パス……VIP席が用意されているのは飲食店だけではなかったらしい。本当に、この六王祭で俺の評価がどんどん妙な方向に突きぬけている気がする。
ある程度の権力者しか参加して無いとは言え、今後を不安に感じる。
まぁ、俺の評価がおかしいことになっているのは置いておいて、案内されたVIP席はいい感じだった。ベルも余裕で入れるぐらいの広さなので、一緒に見ることができる。
なんだかんだでクロたちの気遣いのお陰で助かってるし、六王祭が終わったらまたお礼でもしようかな。
そしてどうやらVIP席に案内されているのは俺たちだけでは無かったみたいで、大きなガラス張りの窓の近くに三つの人影が見え……。
「行け! そこ――ふぎゃっ!?」
「こい! 2番こ――みぎゃっ!?」
「この勝負もら――ひぎゃっ!?」
『白黒茶の馬の着ぐるみ』が居たので、順番にぶん殴っておいた。
「フィーア先生、ノインさん、ここよく見えますよ」
「「「私の扱いっ!?」」」
「黙れ、馬鹿」
本当になにやってるんだコイツ……というか、六王祭のマスコットか何かかと思うほど、毎日どこかしらで遭遇してる。
俺は大きく溜息を吐きながら、三匹の馬の着ぐるみをどかし、何事も無かったかのようにフィーア先生たちと観戦を始めた。
「……あの、ミヤマくん?」
「なんですか?」
「その、シャルティア様……分体だけど、正座してるんだけど……すごく落ち着かないんだけど……」
「アレは鬱陶しい置きものだと思ってください」
部屋の端で正座する馬鹿三連星をチラチラを見ながら話しかけてきたフィーア先生に対し、俺は簡潔に返答する。
「……あの、フィーア? い、いいんでしょうか……幻王様をあんな扱いで……」
「いい、ノイン? よく覚えておいて……あんなことが許されるのはミヤマくんだけだからね。私達が同じようなことをすれば、次の瞬間に首を刎ね飛ばされるからね」
「……で、ですよね」
忘れがちになってしまうが、アリスは一応幻王であり、フィーア先生たちにとっては完全に格上の存在。しかも、わりと恐れられてる部類である。
いや、もしかしたら……俺にはあんな風に気安く接してきてるけど、普段はもっと威厳のある感じなのかもしれない。なんたって六王なわけだし……。
「……カイトさん、カイトさん! 次の出場リストを見てください……で、適当にどれか指差してください」
「……」
「コレっすね! よし! 『ギャンブル用分体』アリスちゃん23号、24号、26号! この番号にオールインで――ぎゃんっ!?」
「お前少しは自重しろ……」
前言撤回。本当に六王かコイツ……というか、こんな馬鹿が六王でいいのか? あと、25号どこいった!?
「……あの、フィーア? ノーフェイス様のこんな姿を見て、私達……あとで殺されませんか?」
「だ、大丈夫じゃないかな? だってシャルティア様って、私達の命に毛ほども興味無いから……」
「……あっ、ちなみにここで見たことを、余所で話して回ったら……ぶっ殺しますよ?」
「「ひぃっ!?」」
コソコソと会話していたフィーア先生とノインさんだったが、いつの間にかアリスはふたりの前に移動しており、冷たさを感じる口調で告げた。
そして、分かりやすいほどに怯えるふたり……これは、うん。アレだ……教育的指導だな。
「……え? ちょっ、カイトさん? あっ、い、いやだなぁ~じょ、冗談すよ? アリスちゃんジョークですよ!? あ、あはは、ドッキリ大成功……とか、駄目っすか?」
「……駄目」
「……おっと! アリスちゃんは明日の六王祭の準備で忙しいんでした!! これはいけませんね! すぐに行かなくては――ぐぇっ!?」
「……ちょっと、向こうで……話しようか?」
「も、もちろん私はカイトさん優先ですし、いくらでも会話したいぐらいですが……き、気のせいですかね? いま『ふざけ過ぎだテメェ、ちょっと性根叩き直してやる』って感じの、物騒極まりない副音声が聞こえた気がするんですけど?」
「……」
「わ~……笑顔、超怖い……」
大量の汗を流しながら告げるアリスに笑顔を返し、首根っこを捕まえて部屋の隅へ引きずっていく。
しかし、う~ん、どうしたものか? 説教は確定としても、それだけじゃ懲りないよな……あっ、そうだ。
あることを思いついた俺は、胸元にある黒いネックレスに向かって話しかける。
「クロ、アリスの説教手伝ってくれ」
「ちょっと!? なんてとこに声かけてんすかぁぁぁぁ!? 鬼! 悪魔!」
「もちろん、いいよ」
「ぎゃぁぁぁぁ!? クロさん!?」
……まぁ、ネックレスに声をかけて当り前のようにクロに聞こえているのは、この際気にしないことにする。けど、あれ? なんか、クロ……怒ってない? 体から黒い煙が出てるんだけど……。
「……ところで、シャルティア? さっき、『ボクの家族をぶっ殺す』とか聞こえたんだけど?」
「い、いや、冗談ですから……本当に、マジで! 神に誓って! やめて、やめて……グーパンは駄目です。クロさんのグーパンとか、マジで命の危機なので……って!? 後ろになんか黒い渦がセッティングされてる!?」
「……」
「……あっ、く、クロさん! 今日はいつもより綺麗ですね! ほ、ほら、クロさんに怒ってる顔とか似合わないですよ? 笑顔のクロさんが好きだな~」
「……」
「……その……えっと……ごめんなさい」
「ふんっ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
拝啓、母さん、父さん――まぁ、クロもアリスの発言が冗談だということは分かっているのだろう。なんだかんだで、パンチも手加減してる……よね? 手加減……してるはずだよね? 手加減……してるといいな。まぁ――アリスだし大丈夫だろう。
シリアス先輩zero「……てかアリス六王祭皆勤賞じゃ……出てくるだけでギャグになるとか、マジ天敵……うん?」
【シリアス先輩とワイバーン先輩の友好度が上がりました】
【ジョ○レス進化が可能になりました】
シリアス先輩zero「ふぁっ!?」




