教師タイプって印象だ
過去最大級の危機はあったものの、そのあとは特に問題無く進み広い牧場を一周してノインさんの居る場所に戻った。
俺たちが辿り着くと、リンを抱えたノインさんが……青ざめた顔で近付いてきた。
「……お、おかえりなさい。あ、あの……先程マグナウェル様の声がここまで聞こえたのですが……つ、ツヴァイ様がいらっしゃるんですか?」
「こ、来ないよ! というか、来たら私逃げるからね!?」
ノインさんの手からこちらに飛んできたリンを受け止めながら、ふたりの会話に聞き耳を立てる。どうやら、ノインさんもツヴァイさんという方を恐れている? マジで、どういう方なんだろう?
「あの……そのツヴァイさんという方は、怖い方なんですか?」
「……う、う~ん。怖いというか……」
「ツヴァイ様は、なんというか自分にも他人にも厳しい方で……そ、その、特にクロム様の品位を貶めるような行動を取ると、厳しく長い説教が……」
ツヴァイさんがどんな方なのか気になって尋ねてみると、フィーア先生とノインさんはやや困った表情で告げる。なんとなく言葉を濁している辺り、相当怖いんだろうな……。
「ツヴァイ姉さんは、六王様とアイン姉さんを除くと一番の古株でね。間違いなく、私達の家族で一番忙しく働いてる人だよ」
「忙しく? なにかをやってるんですか?」
「うん。クロム様も六王だからね。魔界の五分の一ほどはクロム様の土地だって認識されてる。でも、ほら、ミヤマくんも知ってると思うけどさ、クロム様って統治だとかそういうの嫌がるでしょ?」
「ですね」
クロは強大な力を持つ存在ではあるが、自分のことを誰かより格上だとは考えていない。六王として行動すべき部分では威厳を見せることもあるが、基本的に誰かの上に立つというのを好んでは居ない。
フィーア先生やノインさんに関しても、あくまで『家族』……対等の存在として接している。領地なんてのは、クロには一番似合わない言葉だろう。
「で、そんなクロム様に代わって、クロム様の所有する土地を統治してるのがツヴァイ姉さんだよ。この広大な魔界の五分の一だからね……そりゃものすごく忙しい立場だよ」
「なるほど……ちなみに、他の六王に関しては、土地はどうしてるんですか?」
「リリウッド様とマグナウェル様はそれぞれしっかり土地を管理してるね。メギド様は、まったく管理してないけど配下が優秀だから、なんとかなってるみたい。アイシス様は……そもそも土地に生物がすみついてないから管理もなにもないね。シャルティア様は……まぁ、土地以前に、どこに居るかさえ分からない方だからね」
「……」
……いま、俺の後ろに隠れてるけどね。
しかし、なるほど、ツヴァイさんは言ってみれば領主みたいな役割の方で、フィーア先生とノインさんの反応を見る限り、かなり厳格な人っぽい。
そう考えていると、ノインさんが微かに笑みを浮かべながら補足してくれる。
「アイン様が表立ってクロム様をサポートしているとすれば、ツヴァイ様は裏方でのサポートと言った感じですね。とても頼りになる方ですよ」
「う~ん、なんか聞いただけだと真面目で働き者って感じの印象しかないんですが……ふたりは、ツヴァイさんのことが怖いんですか?」
「……怖い」
「……怖いです」
いったいなにがそんなに恐ろしいんだろうか? そんな疑問を抱きつつ、ふたりの言葉を待つ。
「……ツヴァイ様は、とにかく厳しい方なんです。特に身だしなみ……」
「あと、説教が長い……滅茶苦茶長い。ツヴァイ姉さんなりの家族優先なのか、他の予定をキャンセルして『何時間も説教』されるからね」
「は、はぁ……」
「初めてお会いした時、私は緊張していたからか全身甲冑の状態で挨拶したんです。そうしたら……」
「そうしたら?」
「甲冑を素手で粉々にされた上に、正座させられて説教3時間コースでした。ものすごく怖かったです」
「……」
「あ~私も、この前1000年ぶりに家に帰った時に捕まってさ……ボコボコにされた上で、5時間説教されたよ……感動とは別の意味で泣かされたよ」
……こ、怖っ!? よく分かった、なるほど……ツヴァイさんは鬼教師みたいなタイプってことかな? 正直かなり苦手なタイプだ。俺結構だらしないから、会ったら滅茶苦茶説教されそう。
「まぁ、ツヴァイ姉さんなりに私達のことを心配して怒ってくれてるのは分かるんだよ」
「ええ、それだけ大切に思われているということですから、ありがたく感じています」
「「でも……あの、説教の長さは……ちょっと……」」
確かに正座して数時間の説教とか、考えただけでも恐ろしい。今後会う機会もあるんだろうか? お、怒られないといいな……。
拝啓、母さん、父さん――ツヴァイさんはどうやら、とても真面目な働き者で、なおかつ非常に厳格な方らしい。そして、家族のことを大切に想い厳しく指導している……やっぱり――教師タイプって印象だ。
機能性を重視した執務室の中で、ひとりの女性が机に座り山のような書類を処理していた。
ペンを持つ女性の手は淀みなく動き、尋常では無い量の書類を瞬く間に消化していく。
数十分で机に積まれた書類の山を全て片付けた女性は、ペンを置いて独り言を呟いた。
「……順調、ですね。権力者の多くが六王祭に参加しているお陰で、スケジュールには余裕がありまね」
そこまで口にしたところで、女性は机の引き出しを開け、高級感漂う黒塗りのカードを取り出した。そして、それを大切そうに両手で持ち、口元に小さく笑みを作りながらそれを見詰める。
「六王祭……間違いなく、『あの方』も参加しているはず。叶うのなら、一目見たい……足を運んでみますか……」
小さな声でそう溢したあと、女性は手に持っていたカードを引き出しに戻してから、書類の山を軽々と抱えて執務室をあとにした。
普段は感情を表に出さない女性が、英雄に憧れる少女のように眺めていたそのカードに……『ミヤマカイト愛好会・会員№8』という金文字が記されていたことを、当の本人はまだ知らない。
シリアス先輩zero「……なになに、説明書によると……原点回帰?」
【シリアス力が0になった】
【シリアス力が10倍になった】
【シリアス力が100倍になった】
【シリアス力が1000倍になった】
シリアス先輩zero「いやいや、0を何倍しても0のままだからね!? い、いや、しかしこれは……マイナスじゃなくなったのを喜ぶべきか、それでも0なのを嘆くべきか……う、う~ん」




