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これ以上に酷かったらしい



 久しぶりに会った友人が縮んでいたという、言葉にしてもなに言ってるか分からない内容を体感したノインさんは、茫然と硬直していた。

 しかしそこは安定のフォルスさん。短い付き合いでだが、この人がそんな空気を読まないことぐらい分かっている。


「ほら、ノイン落ち着くべきだ。なに、驚きなどという感情は一過性のもの、人とは慣れを持つ生き物だ。すぐに私の姿には違和感が無くなるだろう」

「……いや、まぁ、相変わらずですね」

「知っているかい? 異世界には三つ子の魂百までということわざがあるらしい。幼い内に形成された性格は、歳を取っても変わらないという意味だね。私は100歳どころか1000歳を越えているが、私が私である限り性格というのはそうそう変わるものでは無いさ」

「はぁ、まぁ、もうそれはいいです。諦めました。それより、貴女が出歩くなんて珍しいですね? 快人さんとは……たぶん道に迷っていたところを助けられたとか、そんな感じだと思いますけど……」


 長い付き合いだけあってフォルスさんの性格は理解しているのか、ノインさんはすぐに諦めた様子で話題を切り替えた。

 そして、ノインさんの発言を聞く限り、フォルスさんってもしかして結構方向音痴なのかもしれない。


「当たらずとも遠からずといったところだね。助けられたのは確かだし、道に迷っていたのも事実だが、きっかけは少々違う。まぁ、この質問においてそこは重要な部分ではないだろうね。私がここに居る理由は、ラグナと待ち合わせをしているからだよ」

「ラグナと、ですか?」

「朝の9時に待ち合わせをしているよ。しかし、困ったことに『遅刻』してしまった。ラグナの反応を考えると、いまから頭が痛いよ」


 フォルスさんのその言葉に、ノインさんだけではなく俺とフィーア先生も首を傾げる。何故なら現在の時刻は8時50分であり、まだ9時にはなっていない。

 それなのに、フォルスさんは待ち合わせに遅刻したと言った。遅刻する、では無く遅刻したと……どういうことだろう?


 その疑問を尋ねようと口を開きかけたタイミングで、遠方からもの凄い勢いでこちらに走ってくるラグナさんの姿が見えた。


「フォ~ル~ス~!」

「おお、ラグナ! よかった、無事に合流することが……」


 ラグナさんの姿を見て、フォルスさんは明るい笑顔で片手をあげる。しかし、ラグナさんはその動きに応えることはなく、フォルスさんの手前で少しジャンプし、凄まじい勢いでゲンコツを振り下ろした。


「なにやっとんじゃ、貴様はぁぁぁぁ!?」

「がっ!?」


 とてつもない力で殴られたであろうフォルスさんは、顔面から地面に叩きつけられた。え? なにこれ? なにが起ってるの?

 ラグナさんの突然の行動に唖然としていると、フォルスさんが両手で頭を押さえながらゆっくりと顔を上げる。


「……いたた……いきなりなにをするんだ、ラグナ。どう考えても後衛タイプの私に、バリバリの前衛特化の君が物理攻撃など勘弁してもらいたいものだね。殺意すら感じる一撃だったよ?」

「殺意を込めるに決まっておろうが!」

「おいおい……まぁ、状況を考えるに確かに私が悪い。待ち合わせは朝の9時で間違いなかったかな?」

「『六王祭初日』のな!? 開催式があるから、来いと言ったじゃろうが!!」


 ……六王祭初日の朝9時!? それって、丸3日前じゃ……遅刻ってレベルじゃないんだけど!?

 な、なるほど、そりゃ怒って当然だ。というか、ようやくフォルスさんが『この場合において時刻は重要ではない』と言っていた意味が分かった。時刻どころか日付単位で遅刻してたわけだこの人は……。


「はぁ、もしやと思って毎日朝9時近くにここに来ておったが……ふざけておるのか、貴様……」

「なるほど、ラグナの怒りは尤もだ。事実遅刻したのは私なわけだし、ここは素直に謝罪しておくとしよう。いや、申し訳ない。しかし、言い訳じみた主張になるのは承知で言わせてもらうが、今回の件に限っては私の方にも言い分がある」

「……なんじゃ?」

「そもそも、だ。長いエルフ族の歴史において『稀代の方向音痴』と称されている私を単独で来させるというのが、そもそもの間違いではないのかい? 確かに君が国王としていろいろ忙しく、私の迎えにまで手が回らなかったのは同情すべき要因だ。会場へ直通の飛竜便が出ているのは魔界のゲートから、すなわちゲートまでは自力で辿り着かなければならない……ちなみに、リグフォレシア付近のゲートまで『二日迷った』よ」

「……」


 自分が悪いと謝罪してから告げるフォルスさんの言葉を聞きつつ、俺はすぐ近くに居たノインさんに小声で話しかける。


「……ノインさん。フォルスさんってそんなに方向音痴なんですか?」

「……はい。正直、ワザと迷ってるんじゃないかと思うぐらい酷いです。いまの話を聞いて、私はむしろ『よくゲートまでたどり着けたなぁ』と思ったぐらいです」


 どうやらフォルスさんは、ちょっとヤバいレベルで方向音痴らしい。

 ノインさんからその話を聞いて視線を戻すと、ラグナさんは膝から崩れ落ちるようにして地面に両手をついた。


「……ワシが、悪かった」

「分かってくれればいいんだ。しかし、根本的には私が悪いことには変わりないよ。迷ったとはいえ、いま考えてみれば連絡手段はあった。駄目だね。どうも研究者の気質なのか、集中してしまうと思考が狭くなってしまう。反省しよう……ところで、実はリグフォレシアの森で面白い植物を見つけてね! ついつい熱を入れて採取してしまったのだが……」

「貴様ぁ!? それが原因で遅れておったじゃろう!!」

「い、いや、確かにこれもひとつの要因ではあるが……落ち着きたまえ、我々は対話できる生命体だ。その振り上げた拳を降ろしてくれ。これ以上殴られたら記憶が飛ぶ……」


 フォルスさんの言葉を聞いて、ラグナさんは疲れ切った表情で肩を落とす。そのやり取りを眺めながら、俺はいつの間にか隣に移動していたノインさんに再び声をかけた。


「……なんか、凄い人ですね。フォルスさんって……」

「ええ、ただ。まぁ、以前の私のパーティーメンバーには『もっと酷い人』が居たので……」

「え? アレ以上に酷いって……」

「……居たんですよ。ハプティというもの凄い人が……魔族が占拠してる街に辿り着くなり平然と火事場泥棒をしたり、私達に隠れて逃げ延びた住人と報酬の交渉をしてたり、財宝のある遺跡を魔族の拠点だと偽って私達を誘導したり、魔王城に着くなり宝物庫に直行しようとしたり……と、金の亡者みたいなトラブルメイカーでして……」

「……」

「実力は確かだったんですが、私達のパーティーが経験した修羅場の半分くらいはハプティが原因です」

「……」


 ノインさんが呆れた様子で話す内容を聞き終えた俺は、そっとノインさんの傍から離れて自分の後方に向かって声をかける。


「……出てこい、金の亡者」

「な、なんのことでしょう? わ、私はただの超絶美少女雑貨屋店主なので、超絶美少女義賊ハプティちゃんなんて知りません――みぎゃっ!?」


 ハプティの正体がアリスであるということは、一応隠しているみたいだからノインさんには告げないことにする。しかし、それはそれとして、ノインさんたちに代わってコイツには罰を与えておく必要がありそうだ。

 そんなことを考えながら、俺はゆっくりと青ざめるアリスに向けて拳を振り上げた。


 拝啓、母さん、父さん――フォルスさんもなかなか凄まじい人ではある。キャラの濃さも相当だが、ノインさん曰く、アリス……いや、ハプティは――これ以上に酷かったらしい。





陸戦型シリアス先輩「……う~ん。シリアスでもなく、かといってイチャラブでもないと、私はかなり暇になるよね……あっ、醤油とって」

???「ほいっ……まぁ、謎の超絶美少女義賊ハプティちゃんが何者なのかは非常に気になるところですが……一先ずシリアス先輩は、そろそろ始まるであろう甘い展開に備えておいてください」

陸戦型シリアス先輩「……備えたくない……焼き魚美味しい……」

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