一周年記念番外編「死の魔力への挑戦後編②・叶う夢、紡ぐ愛」
魔界北部……死の大地の一角にある大きな教会。ここは今日の日のために用意された場所だった。
氷に閉ざされていた死の大地の一部を、リリウッドさんとライフさんが協力して改造……一面に美しい花が咲き誇り、遠くに見える氷山とのコントラストが美しい場所へと変貌していた。
本当に凄いものだと思う。これなら、観光地としても人気が出そうな気がする。
なんのためにリリウッドさんたちがこの場所を用意してくれたかと言うと……そう、俺とアイシスさんの結婚式のためだ。
アイシスさんの居城にほど近いこの場所には、いままでであれば生物はまったく存在していなかった。しかし、今日は違う……なにせ、城並に大きいこの教会に入り切れないほどの人達が集まっている。
やっぱり六王の結婚というのはとてつもないイベントみたいで、俺もかなり緊張している。
……クロとの結婚式も凄かったなぁ……いや、アレはちょっと『世界の法則がひとつかふたつ変わる』ぐらい凄まじかったから、それと比べると今日はまだまともだと思う。
俺もそこまで詳しく知るわけではないが、やはりこの世界の結婚式にも、地球のものとの差はある。
一番大きな違いは、やはり指輪交換が無いことだろう。この世界は一夫多妻制であり、多い人は20人以上の妻を持っていたりするので、指に入りきらなくなる。
そしてそもそも種族が多種多様なので、人間のような指の形をしていない者もいるため、指輪交換は一般的ではない。
ただ、おそろいのアクセサリーを付けたりと似たような形式の結婚式を挙げる人もいるみたいなので、一概に無いとも言えない。
昔居た世界との違いを考えていると、部屋のドアがノックされ結婚式の準備が整ったこと告げられた。
係りの人……もとい、ハートさんに案内されてひとつの扉の前に立つ。
普通の結婚式であれば、恋愛を司るハートさんは引っ張りだこで、それはもう凄まじい待遇で迎えられるだろうが……今回は裏方である。
なにせ、魔界の六王、人界の三王、神界の三最高神に創造神、さらには異世界の神まで式に参列しているので、下級神であるハートさんとしては会場には入りたくないらしい。
ともあれ、いよいよ式のスタートだ。地球であれば、新郎が先に入っていて新婦が父親と共にヴァージンロードを歩くというのが定番だが、この世界にはそれも無い。
この世界では新郎と新婦は、教会の左右に設置された扉から同時に入場する。そして中央で合流し一緒に祭壇へと向かい誓いを立てる。
これは『いままで別々の道を歩いてきた二人が、これから先は同じ道を歩いていく』という意味があるらしい。
ハートさんが合図をして扉を開いてくれると、丁度対面に位置する扉が開かれウェディングドレスに身を包んだアイシスさんの姿が見えた。
白色を基本とし、所々に薄い青が入りフリルが多く付いたドレスは、アイシスさんにとてもよく似合っていて、事前に一度見ていても見とれてしまった。
アイシスさんの頭には、本人の強い希望により花冠が乗せられていて、それがまたアイシスさんの可愛らしさをより一層引き立てていた。
あまりに美しいアイシスさんに見惚れながらも足を進め、教会の中央でアイシスさんと合流する。そして新郎である俺が手を差し出し、新婦であるアイシスさんが俺の手に自分の手を重ねる。
そのままの状態で祭壇へと歩幅を合わせて歩いていく。
この後は少し、地球の形式と似ているところがある。俺とアイシスさんは祭壇で永遠の愛を誓い、誓いのキスを交わす。そして、祭壇の奥に設置されている巨大なベルを一緒に鳴らす。
これは、この世界の神であるシロさんにふたりの誓いが届くようにと、大きく響くベルを鳴らすというふたりの初めての共同作業だ。
まぁ、ただ、今回にいたっては……。
「よくぞきました。宮間快人、アイシス・レムナント……どうぞ、祭壇の前へ」
鐘の音が聞こえるもなにも、シロさんが祭壇に居るんだけどね!? というか神父役を買って出てくれたからねこの人!? 神が神父役とは、これいかに……。
俺とアイシスさんが祭壇の前に辿り着くと、シロさんは一度頷いてから定例文を……。
「今日のよき日、宮間快人、アイシス・レムナントのふたりは夫婦となります」
大胆にも殆どカットした!? いや、まぁ、確かに前半は『世界を造った創造神への感謝』だから、創造神であるシロさんが読みあげるのはアレだけど……。
「……宮間快人」
「あ、はい!」
「貴方はアイシス・レムナントを妻に迎え、この先にいかなる困難が待ち受けようとも、彼女を守り、愛し、ともに幸せへと至ることを誓いますか?」
「……誓います」
大幅にカットはしたものの、流石はシロさんと言うべきか纏う雰囲気は神聖なものだ。抑揚のない声も、この場では荘厳に感じる。
俺がアイシスさんへの愛を誓うと、シロさんは一度頷きアイシスさんの方へと向く。
「……アイシス・レムナント」
「……はい」
「貴女は宮間快人を生涯唯一の夫とし、進む道が苦難を伴うとしても、彼を支え、愛し、未来へと歩き続けることを誓いますか?」
「……誓います」
アイシスさんも俺への愛を、しっかりとした声で誓う。
「いま、愛の誓いは成りました。宮間快人、アイシス・レムナント……ここに並ぶ者たちを証人とし、両者の愛が朽ちることなく続く証を立てなさい」
「「はい」」
その言葉を聞き、アイシスさんと向かい合うように立つ。この世界の結婚式でヴェールは着用しないため、そのままアイシスさんの肩に手を置く。
「……アイシスさ……いえ、アイシス。貴女を愛している。どうか、これからも俺の傍に居て欲しい」
「……カイト……貴方は私の希望……最愛の人……これからも……ずっと……貴方の傍で……笑顔を浮かべていたい」
互いに一言ずつ愛の言葉を告げ、俺達は誓いの口付けを交わした。
キスはいままでにも何度もしたはずだったが、やはり今日という日は特別で……この口付けは、強く、心に刻み込まれた。
「……では、両名とも、この世界の神である創造神様への報告として、共に愛の鐘を鳴らして下さい」
「……」
いや、アンタが創造神なんですが……。い、いや、まぁ、仕方ない。そういう流れなんだから……。
若干釈然としないものを感じつつも、俺とアイシスさんは祭壇の奥にある大きなベルへ近付き、二人でその紐を握る。
そして顔を見合わせ、頷き合ってから、強くベルを鳴らす。
「……素晴らしい鐘の音でした。きっと、創造神様へ音色が届いた……というか、しっかり聞こえました。若干うるさいですね」
「……変なアドリブ入れないで貰えます?」
ここにきて天然を炸裂させるシロさんに呆れつつ、俺はアイシスさんの手を取り再び祭壇の前へ移動する。
このまま中央の通路を二人で歩き、外へ待つ人たちに顔見せをすれば結婚式は一応の終了となる。
「……アイシスさん、失礼します」
「……え? ……わっ……」
ここで俺は、こっそり考えておいたサプライズ……アイシスさんをお姫様抱っこで運ぶことにする。
アイシスさんの体重はとても軽く、身体強化魔法を使わなくてもなんとか抱きかかえることができる。
「……カイト……嬉しいけど……大丈夫? ……重たくない?」
「アイシスさんは羽根みたいに軽いですよ。それに、俺だって男ですから……偶にはカッコつけさせてください」
「……カイトは……いつでも……カッコいいよ……離さないで……ね?」
「勿論」
一瞬心配そうな表情を浮かべたアイシスさんだったが、すぐに幸せそうな笑顔に変わって俺の首に手を回し、ギュッと抱きついてきた。
その幸せな温もりを感じつつ、俺は参列した皆の拍手に包まれながら道を歩いていく。
少しして入口の扉に辿り着き、係りの下級神がその扉を開けてくれると……割れんばかりの大歓声が響いてきた。
外に出て見ると、見渡す限りの人……とてつもなく大勢の人が、俺達の結婚式に駆け付けてくれていた。
「……アイシスさん、聞こえますか? この歓声」
「……うん……聞こえる……夢みたい……」
「夢なんかじゃありません。夢は……叶って、現実になりました。この光景は、アイシスさんが……いや、俺達が掴み取ったものですよ」
「……うん!」
大勢の人達が、アイシスさんのことを怖がらず、笑顔で祝福の声をあげてくれている。
アイシスさんにとってそれは、あまりにも長い時間切望し続けたもの……。
「……約束するよ、アイシス。この幸せを色あせさせたりしない。俺は、貴女をこれから先ももっと、幸せにして見せる」
「……私も……カイトに……私と結婚したことを後悔させない……幸せにする……ううん……一緒に幸せになろう?」
「うん」
「……カイト……愛してる……これからも……ずっと……ずっと」
「俺も、貴女を愛しています」
『結婚しよう』……その言葉を初めて耳にしたのは、アイシスさんと出会った日だった。
あの時はまさか、それが現実になるなんて思っていなかった。だけど、うん、いまはこう思っている。
あの時のアイシスさんの言葉を現実にすることができて……本当に良かったと……。
集まった人々に向けて手を振るアイシスさんの顔に浮かんでいる表情は……確かに、俺が描いた夢……ずっとずっと見たかった。みんなに祝福される幸せな花嫁のものだった……。
だけど、これが終わりじゃない。確かに夢は叶った……でも、それはあくまで始まり。
これから先も俺とアイシスさんは沢山の夢を見て、それを叶えるためにふたりで前に進んでいくのだから……。
~トリニィア通信~
今回紹介するのは、魔界北部に位置する街『クリスタルシティ』。この街は遠い昔に死の大地と呼ばれた地のすぐ傍にあり、死王アイシス・レムナント様が治める街です。
この街には年中あちこちにブルークリスタルフラワーが咲いていて、観光地としても非常に有名です。
死王様と言えば、大人気恋愛小説『青い花の奇跡』のモデルであることも有名で、『恋愛を象徴する六王』として高い人気があります。
愛しい相手へ告白する際、死王様にあやかりブルークリスタルフラワーを贈る人も多いでしょう。
死王様の夫であるミヤマカイト様……こちらも、もはや説明するまでも無く有名な方です。死王様はミヤマカイト様と共に、時折クリスタルシティを訪れるそうで、この二人が並んで歩いているのを見ると幸せな恋愛ができるというジンクスはあまりにも有名ですね。
六王様ということで委縮する方も多いでしょうが、ご安心を……死王様は六王様の中でも、冥王様、界王様と並びとてもお優しい方で、余程の無礼を行わない限り、挨拶とうにも笑顔で応えてくれます。
そんな優しい死王様の治めるクリスタルシティ、とても素敵な場所なので、是非一度足を運んでみてください。
次のページより、クリスタルシティの観光名所を紹介していきます。
結婚式後に長い年月をかけて死の魔力を完全に制御したアイシスは、夫である快人と仲睦まじさ、二人をモデルにした恋愛小説の影響などがあり、恋愛を象徴する六王と呼ばれるようになりました。
リリウッドのように街を治め、一部では信仰の対象ともなったそうです。
なお、夫であり創造神の祝福で不老となっている快人とは、世界最高のカップルと言われるほど仲良しです。
シリアス先輩Act3「……(返事がない、ただの砂糖の山のようだ)」




