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デートに誘われた

 ほんの数時間の出来事だった筈なのに、まるで何日もかかったかのような疲労感を感じつつ、リリアさんの屋敷に戻ってきた。

 アインさんはもう少し時の女神と話……もとい拳による語り合いを行うとか何とかで、神殿で別れて来た……う~ん。やっぱりあの二方、何だかんだで仲がいいのかもしれない。

 馬車から降りるとルナマリアさんが出迎えに来てくれており、どこか心配した様な様子でこちらに近付いてきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様、ミヤマ様」

「出迎えありがとうございます。ルナ」

「お嬢様? 随分お疲れの様子ですね……時の女神様との対談ですし、無理もないかと思いますが」

「いえ、時の女神様だけなら良かったんですが……まさか、創造神様とお会いすることになるとは……」


 ルナマリアさんの声かけに、リリアさんは心底疲れたと言いたげにガックリと肩を落としながら呟く。

 その言葉を聞いたルナマリアさんは、一瞬キョトンとした後不思議そうに首を傾げる。


「何を仰っているのですかお嬢様? 創造神様が勇者祭以外で人界に訪れる訳がないじゃないですか」

「えぇ、本当に……私もそう思っていましたよ」

「え? えと、お嬢様?」


 リリアさんは顔を俯かせながら呟いた後で、一気に俺の方を振り返り、両手で俺の胸元を掴む。

 向けられた顔は半泣きであり、それはもう必死の形相だった。


「本当に……どういう事ですか、カイトさん!! もう他にとんでもない交流関係は無いって言ったじゃないですかあぁぁぁぁ!!」

「い、いや、えっと、俺も知らなかったというか……」


 そのまま俺の胸倉を掴み前後に揺らしながら訴えて来るんだけど、リリアさんやっぱり力強っ!? 首がしまる!

 それはもう極度の緊張状態からようやく解放されたリリアさんは、完全にテンパるスイッチが入ってしまったらしく、まったく気付かない様子でどんどん力を強くしていく。


「一番とんでもない交流が残ってたじゃないですか!! 何でよりにもよって創造神様!? しかも祝福受けたってなんですか!! カイトさんは一体私をどうしたいんですか!!」

「ちょ、リリアさん……首……しま……」

「あの、お嬢様……」


 ルナマリアさんもオロオロとしながら、リリアさんを落ち着かせようとしているみたいだが、完全に聞こえて無い御様子……あ、これ、マジで命が危ない。


「私生きた心地がしませんでしたよ!! というか、創造神様のお声なんて初めて聞きましたよ!? もう他は無いですよね!? 本当にこれが最後なんですよね!! 実は界王様と知り合ってましたとか、そんなのがあるなら今の内に言って下さい!! 私の心臓が持ちませんからあぁぁぁぁ!」

「……いや……その前に手を……お、落ち……」

「お嬢様、お嬢様!」


 あ、ヤバい意識が遠くなってきた。何か身体も物理的に浮いてる気がするし、リリアさん本当に滅茶苦茶力が強い、全然離脱できない。

 そう言えば魔力で身体強化が出来るってクロが言ってた気がするなぁ……それ覚えたら、ちょっとは耐えられるようになるのかなぁ……


「お嬢様!!」

「なんですか、ルナ。今大事な話を……」

「お気持ちはよく分かります。さぞ、ご苦労されたんでしょうが……いい加減離さないと、弁明するより先にミヤマ様の魂が別の所に旅立ってしまいます」

「……え? あっ!? か、カイトさん!? ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!!」


 そこでようやくルナマリアさんの声が届き、リリアさんは顔を青く染め、慌てて俺の胸倉を掴んでいた手を離す。

 ようやく解放された俺はそのまま崩れ落ちる様に着地……本当に体浮いてたよ。


「……なんか……死んだ母さんと父さんが見える……」

「カイトさん!? しっかりして下さい!」


 リリアさんの声が少しずつ遠くなる様な感覚と共に、俺は意識を手放した。























 気絶から目を覚まし、リリアさんから土下座による謝罪……それはもう、むしろこっちの方が申し訳無く感じる程の謝罪を受けた。

 まぁそもそもの原因は俺にある訳だし、リリアさんが今日受けた心労を考えれば文句など言える筈もない。

 「お詫びに何でもします」と危ない発言を始めたリリアさんに、俺も悪かったので気にしないで下さいと伝えてから部屋に戻る。

 

 リリアさんには及ばないものの、俺も今日はかなり疲れた事もあり、部屋に戻って椅子に深く体を預け……当り前の様に差し出されたコーヒーを飲みながら今日の出来事を思い返す。


「あはは、何かシロらしいと言うか……大変だったねぇ」

「……本当に疲れた」


 帰った時点から当然の如く居るクロには突っ込まず、コーヒーを飲みつつベビーカステラを摘みながら、彼女に今日の出来事を報告する。


「そう言えば、結局アインさんて時の女神と仲が良いの? 何か物凄い喧嘩腰だったんだけど……」

「う~ん。確かによく戦ってるけど、何だかんだでクロノアちゃんの実力を一番認めてるのはアインだろうし、クロノアちゃんもアインの事は認めてるよ。多分今もいつも通り引き分けになって、一緒にお酒でも飲んでるんじゃないかな?」


 ふむ、そう聞いてみると確かに仲が良いと言えるのかもしれない。

 時の女神とアインさんは言ってみれば喧嘩友達の様なもので、互いに遠慮せず本音をぶつけ合えるって事は、それだけ仲が良いとも言えるだろう……まぁ、しかしそれならそうと事前に説明が欲しかったけど……


「カイトくんも色々気苦労が多いねぇ~」

「大半はクロのせいの様な気もするんだけど……」

「あはは、そうかもしれない」


 苦笑するクロの姿を見て、俺も自然と笑みを溢す。

 やっぱなんだかんだで、クロと話すのは安心できると言うか、何だかんだ言ってもこの世界に来て一番多く言葉を交わしてる相手だし、気を使う必要がない分すごく楽に感じられる。

 いや、まぁ、本来は冥王って言うとんでもなく高位の存在なんだけど……普段は全然威厳とかないし……


「あれ? 何かそこはかとなく馬鹿にされた気が?」

「……気のせいだ」


 コロコロと表情を変えるクロに和みながら、今日の疲れを癒す様にのんびりと雑談を続けていく。

 しばらくそのまま話を続けていると、クロがふと思いついた様に手を叩く。


「あ、そうだ。カイトくん、明日暇?」

「うん? 明日と言うか……帰るまでの間は大抵暇だけど?」


 いつもの事ではあるが、何かまた突拍子もない事を思い付いたんだろうか? 出来ればあんまり疲れない類のものにしてほしい所だけど……


「ほら、前に今度二人っきりで遊びに行こって言ったじゃん」

「あ、うん。確かに言ってた」


 それは以前クロがリリアさんの屋敷を訪問した際、去り際に耳打ちしてきた言葉。

 それを思い出して頷く俺を見て、クロは満面の笑顔を浮かべながら言葉を続ける。


「だからさ、明日。ボクと『デート』しよう!」

「……は?」


 拝啓、母さん、父さん――クロが突拍子もないのはいつもの事だけど、今日はまた一段ととんでもない事を言い出した。えとつまり、何と言うか、俺にとって人生初ではあるのだけど――デートに誘われた。











次回、数話出番の無かったメインヒロインによる怒りのメイン回。

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