愛情を込めて作ることにしよう
狂信者が保護者に無事回収された後、俺とアイシスさんは再びオークションが行われているステージに目を向ける。
六王だけではなく、各国の貴族などからも商品が提供されているらしく、非常に盛り上がってる感じだ。
『さあ、次の商品は……『幻王様』提供の品です。商品はこちら……貴族の方はもちろん、冒険者や騎士の方々にとっても見逃せない品。そう、『伝説の鍛冶師クラフティー』製作の武器です!!』
「……うん?」
司会者の言葉と共に、壇上にはいくつもの武器が並べられる。剣に槍、斧に短剣、珍しいところだとモーニングスターなんかもある。
遠目で素人の俺が見ても、どの武器も超一級品であることは理解できたが……それより俺は、あることが気になった。
「……カイト? ……あれ……欲しいの?」
「あ、いえ、そうじゃなくて……少し気になることが……」
アイシスさんの質問に曖昧に答えながら、俺はマジックボックスを取り出す。確か、宝樹祭に参加する前に買っておいた双眼鏡が……あった!
正直この距離ではハッキリと見ることが出来ないので、疑問を確かめるためには遠くを見れるアイテムが必須だ。
『まず、こちらの剣は宝剣アロダント、こちらの斧はムーンアックス……どれも武器を手に戦うものなら一度はあこがれる伝説の品々です! それがなんと十点!! いまや伝説にのみ名を残すクラフティーの作品を、これだけ揃えるとは……流石幻王様と言ったところでしょう』
司会者が順に武器を紹介しているが、俺はその言葉を聞き流しつつ双眼鏡を覗き込む。
双眼鏡のお陰でよりハッキリ見えた武器は、どれも伝説の一品という言葉に恥じず、一種のオーラのようなものを放っているように感じた。
……まぁ、それは置いておくとして……うん。よく見て確信した。やっぱりあの武器って……。
「……アリス、居るか?」
「はいはい、なんでしょう?」
「……思い違いじゃ無ければ、俺あの武器見たことあるんだけど……具体的には、どこかの『雑貨屋』で……ということはつまり、伝説の鍛冶師クラフティーって……」
「ああ、はい。アリスちゃんですよ~!」
やっぱり、お前か!? というか仰々しく紹介されてるけど、要するに六王祭にかこつけて、在庫処分しようとしてるだけなんじゃ……。
「いやいや、アリスちゃんの作った武器は、超人気なんですよ! 魔剣とか聖剣とか呼ばれてるのいっぱいですよ!」
「……お前が無駄にハイスペックなのはよく知ってるけど……魔剣とかって呼び名、自分で付けたわけじゃないの?」
「……ええ、ぶっちゃけ私は暇つぶしに武器作って、適当に安値で売ってお小遣い稼ぎしてただけですからね……なんかいつの間にか、伝説の武器だとか呼ばれてましたよ。ちなみに宝剣アロダントとか呼ばれてるやつ、私が付けた名前は『適当命名四十八号ちゃん』ですからね」
酷いネーミングである。だが、実際アリスは本当に暇つぶしで適当に作っただけなんだろう。それでも、コイツの技術が凄まじすぎるのと、とんでもない素材を用意できる力があるから、あんな感じになってるわけだ。
改めてアリスのハイスペックさと、ネーミングの酷さを感じていると、オークションはいつの間にか進行していた。
『宝剣アロダント、白金貨9枚にて88番の落札です!』
「……なあ、アリス?」
「なんすか?」
「……あの剣、お前の雑貨屋で買うといくら?」
「『銀貨6枚』ですね」
「……」
普段6万円で売られている品が9000万円で落札……う、う~ん。アリスの雑貨屋って、実際伝説級の宝庫だよな……店主がまともでさえあれば、ものすごい人気店になっていたんじゃなかろうか?
というか、それだけの品々を揃えながら、客を寄せ付けないアリスの馬鹿さ具合が凄まじい。
「……シャルティアは……いろいろ……出来るね」
「ええ、まぁ、出来ることの多さはちょっとした自慢ですよ……まぁ、最近は鍛冶に関してはほぼやってないですけどね」
「……どうして?」
「カイトさん武器買ってくれねぇっすし……」
……だから、俺をピンポイントでターゲットにするのは止めろ。というかもはや隠す気すらないのか……完全にあの雑貨屋が、俺専用みたいな品揃えになってるし……。
いや、本当に、アリスは何故か俺に対してだけはもの凄く商売上手なんだよな……。
「カイトさん、最近『高級ペットフード』を新商品として追加しようかと思ってるんすけど?」
「……『百袋』ぐらい用意しといて」
「イエッサー!!」
悔しい、でも、買っちゃう。というか、新商品のチョイスが的確すぎる。丁度、ベルとリンに食べさせる餌をランクアップさせようと考えてたところだ。可愛い二匹にはいいものを食べさせてあげたいし、アリスが作るペットフードならきっとすごいはずだ。
「……シャルティア……裁縫も……上手?」
「へ? ええ、結構得意ですよ?」
「……じゃあ……こんど……教えてほしい」
「……構いませんけど、なに作るんすか?」
「……カイトに……マフラー……編んであげたい」
そしてこの大天使である。アイシスさんは本当に、なんて素敵な女性なんだ。手編みのマフラーとか、嬉しいに決まってる。
光の月が終わると、季節は秋に差し掛かってくるので、タイミング的にも完璧といえる。
アイシスさんの愛情に感動しながら、話を終えて姿を消そうとしているアリスに、小声で話しかけた。
「……アリス……俺にも教えて」
「……可愛い恋人、アリスちゃんの分は?」
「もちろん、編む」
「……おっけ~です。例によってアイシスさんにはサプライズですね」
アリスは、俺がアイシスさんにサプライズでお返しを用意したいと考えているのをすぐに察し、微笑みながら頷き、姿を消した。
拝啓、母さん、父さん――手編みのマフラーを彼女からプレゼントされるとは、なんとも憧れるシチュエーション。正直、いまからすごく楽しみだ。けど、もちろん貰ってばかりでは申し訳ないし、俺の方もアイシスさんに負けないぐらい――愛情を込めて作ることにしよう。
シリアス先輩「メーカー品の方が高性能だからね!! 市販のやつでいいじゃん……どうせ、どうせ『心まで温かい」とかやって、私を殺しに来るんでしょ!? バレンタインみたいに! バレンタインみたいに!!」




