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幸せ者だと実感した



 一歩、二歩、やや急ぎ足になるのを自覚しつつ歩を進める。自分が進んでいるこの道は正しいのか、それとも間違っているのか……人は未来を予想することはできても、確定させることはできない。

 歩んできた道が正しかったかどうか、それが分かるのはいつも、辿り着いてからだ。

 そして現在、俺の前には巨大な壁が立ちはだかっていた。美しい花々が絡み合って形成されている壁は、美しいはずだが、いまの俺にとってそれは行く手を阻む無慈悲な現実でしかない。


 ゆっくりと後方を振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべたリリウッドさんの姿がある。優しいリリウッドさんの笑みも、いまはどこかからかいを含んだものであり、それに敗北感を感じつつ口を開く。


「……リリウッドさん……『ヒント』ください」

『ふふふ、分かりました……そうですね。三度曲がる前の青い花の道まで引き返すのがいいと思いますよ』

「うぐっ、そ、そんなにですか……」


 リリウッドさんの言葉を聞いて、俺はガックリと肩を落としながらいま来た道を戻り始める。

 これで3度目のUターン……う~む、なんか想像以上に難しいぞ? もっと簡単にゴールできると思ってた。


「そ、想像以上に大規模ですね」

『ええ、ここは目玉のひとつですからね』


 現在俺はアトラクションのひとつである『フラワーラビリンス』……花の迷宮に挑んでいた。

 茎が大きく成長する種類の花を中心に作られた巨大な迷路で、様々な花を眺め、その心地良い香りを楽しみつつ挑戦できる。

 だた、わりと本気で作られた迷路みたいで、かなり難しく……先程から何度も行き止まりに当たっていた。


 ちなみにリリウッドさんは答えを知っているので、口出ししたりはせず、俺が求めた時だけヒントをくれる。


「そういえば、この青い通路の花は綺麗な色ですね」

『この花はブルームーンフラワーと言って、魔界の西部に生える花です。夜にしか咲かない花ですね』

「……いま、お昼前ですけど?」

『特殊な術式でこの周辺だけ、夜と認識させているんですよ』

「ふむ、なるほど」

『こうして明るい場所で見ることができる機会は、貴重とも言えますね』


 深い青色で満月のように丸い花……こうしてハッキリ見える機会はそうそう無いらしい。そう言われると、凄く貴重な体験をしている気分になってきた。もう少ししっかり見ておこう。

 少し前の通路には、花弁が凄く細かい珍しい花もあったし、見ていて楽しい。日本に居た頃はあまり花をゆっくり見る機会はなかったけど、こういうのもいいものだ。


「……迷路は難しいですけど、こうして色々な花を見れるのは楽しいですね。もちろん、解説してくれるリリウッドさんが居てこそですが……」

『そう言っていただけると、私も嬉しいです。では、珍しい花を探すためにあと何回か迷ってみましょうか?』

「……できれば、スムーズに進む過程で眺めていたいなぁ……」

『ふふふ』


 迷路には苦戦しつつも、交わす雑談は楽しくて、のんびりした雰囲気がなんとも心地良い。

 流石に迷ったあげく全部の道を制覇とかは勘弁してほしいけど、これだけ楽しいならあと何回か行き止まりにぶつかるのも……悪くはないかもしれない。









 なんてことを考えていた『二時間』の自分をぶん殴ってやりたい。


「……や、やっと、ゴール」

『おめでとうございます。ほぼ8割方歩き切りましたね』


 いや、もちろん途中で足を止めて花を見ていたり、リリウッドさんに解説してもらったりしていたので、二時間歩きっぱなしというわけではなかったが、かなり迷った。

 そもそもがかなり巨大ということもあったが、ここまで時間がかかった原因は他にもある。迷路を作ったのが誰かは知らないけど……後半とか、もの凄く長く歩いた結果行き止まりとか結構あったし……かなり意地の悪い作りになっていたと思う。


「……まさかとは思いますけど、この迷路を作ったのって……リリウッドさんですか?」

『いえ、私はあまりそういった経験はなかったので……『シャルティア』に依頼しました』

「……そ、そうですか……」


 考えうる限り最悪の人選である。そっか、アリスか……道理でやたら難しくて、間違った時のダメージがでかい作りになってるわけだ。


『歩きまわってお疲れでしょう? 時間的にも丁度良いですし、少し先の広場で昼食を食べましょう』

「あ、はい。賛成です」

『カイトさんは食事は用意していますか? もし無いようなら、先に出店のあるエリアに……』

「ああ、大丈夫です。アイシスさんがお弁当を作ってくれたので」

『そうでしたか、では、移動しましょう』


 ありがたい提案に頷き、リリウッドさんと一緒に広場へと移動する。


 丁度お昼時ではあるが、やはり多くの参加者は出店の並ぶエリアへ移動しているようで、広場は比較的空いていた。

 その中で大きめのベンチを見つけて腰掛け、アイシスさんから貰った弁当を開けてみる。


「……おぉ」


 思わずそんな声が零れた。現れたとは、とても可愛らしいお弁当だった。ご飯好きの俺のために作ってくれたであろうおにぎりは、ハートの形になっており具も様々。好物のミニハンバーグも入っていて、タコの形に切ったウィンナーまであった。

 非常に美味しそうだが、それ以上に手間暇をかけて……愛情をたっぷり込めて作られているのが見た目からでも伝わってきて、なんだが胸の奥が温かくなった。


『料理のことはよく分かりませんが、とても綺麗ですね』

「……はい」


 リリウッドさんの言葉に、俺は感動しながら頷いた。


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんからの愛情たっぷりのお弁当……食べるのが勿体ないとすら感じるそれに、心から感動した。こんなにも優しくて素敵な人が恋人だなんて、俺は本当に――幸せ者だと実感した。





シリアス先輩「また本人が登場してないのにいちゃついてる……」


~お知らせ~

書籍版のイラストレーターであるおちゃう様が、発売記念イラストを描いてくださいました。活動報告に掲載しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイシス弁当が暖か過ぎて溶けた( ՞⌓°⎞
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