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あまりの不味さに意識を手放した


 宝樹祭二日目の朝。再びクロ達による三点フォーメーションを仕掛けられるかと思ったが、俺が全然眠れていないことに気付いたクロの提案により、添い寝は一日置きとなった。無くなるわけではないのか……。

 ともあれお陰でぐっすり寝ることができた。これで二日目もしっかり頑張れそうだ。


 そういえば、クロ達はどこだろう? 朝食の準備でもしてるのかな?


 そんなことを考えつつ、非常にでかい廊下を歩いて食堂に辿り着くと、扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「く、クロさん、流石にそれは止めたほうが……もうそれ、ベビーカステラじゃなくて『形だけベビーカステラの暗黒物質』ですから!!」

「ボクはね……常に新しい味を探し求める。そんな、探究者でありたいんだ」

「なに悟ったような表情になってるんすか!? そんなの食べたら『カイトさんが』探究者どころか、別の世界に旅立っちゃいますよ!?」


 ……なんか恐ろしい会話が聞こえるんだけど!? 新作? クロ、新作作ってるの?

 ヤバい、俺のシックスセンスが凄まじい警報を鳴らしている。ここは気付かれないようにそっとこの場を……。


「……カイト……おはよう」

「……お、おはよう……ございます」


 しかし、現実は非情である。まるで逃げ出そうとする俺を阻止するかのようなタイミングで、目の前の扉が開き、エプロンを付けた可愛らしいアイシスさんが姿を現した。

 そして、そうなると当然中に居る二人も気付くわけで……。


「あっ、カイトくん! 見て見て、新しいベビーカステラ作ったんだよ!」

「カイトさん! 逃げて! 殺されますよ!!」


 俺を見つけて満面の笑顔を浮かべるクロの前にあるのは……『黄金色に輝き、赤い斑模様の付いた得体のしれないナニカ』……。

 駄目だよアレ、人間が口にしていい色してないよ。アリスが必死の形相で俺を逃がそうとしてるし……。


「……く、クロ。流石にそれは危険な色してるんじゃ……」

「そ、そんなこと無いよ! 美味しいよ……『味見してないけど』たぶん」


 最後になんか不吉なやつ付け足したぁぁぁぁ!? 絶対駄目だ。その台詞は絶対美味しくないやつだ!?


「い、いや、そもそもなんで味見をしないんだ……」

「だって、カイトくんに一番に食べてほしかったから……」


 頬を少し染めながら告げるエプロン姿のクロは、それはもう可愛らしかった。

 い、いや、でもほら……食材を使っているのは確かだろうし、最悪でも不味いだけで済むんじゃ? せ、せっかくクロが俺のために作ってくれたんだし……。


「……その、ひ、一口だけなら……」

「やった~!」

「カイトさんは、クロさんに対して甘すぎやしませんか!?」


 アリスの言いたいことは分かるし、自覚もある。ただ、ここで俺が食べるのを拒否すれば、クロは悲しい顔を浮かべるだろう。それだけは、絶対に嫌なんだ。

 クロの笑顔を守るためなら、俺は例え『死地』だろうと挑んでみせる!


「いや、全部口に出てますからね!? 死地とか言っちゃってますからね!?」

「ささ、できたてを召し上がれ~」

「こっちはこっちでスルー!?」


 アリスの突っ込みが冴えわたる中、俺はその恐ろしい色をしたベビーカステラを手に取る。うわぁ、こんな色してるのに柔らかい。

 ふ、ふふふ、道への挑戦とは心躍る……この体中の震えは武者震いだろう。背中を大量に汗が流れているのも、なんか戦意が高揚してるとかそんな感じだろう。


「い、いただきます……うぐっ!? あがっ……」


 ニコニコと笑顔でこちらを見つめるクロの前で、震える手を動かしてベビーカステラを口に放り込む。

 ぐにゅりと柔らかい食感と共に、表現しようのない不味さが口の中に広がっていく。

 あ、でもこれ、意外と美味しいかも……舌がビリビリと差すように痺れるし、総毛立つけど、珍味と言えなくはないかもしれない。


「……ああ、母さんと父さんじゃないか……なに手を振っての? ははは、なに言ってるか聞こえないよ……いまそっちに行くから……」

「カイトさん!? しっかり! そっち行っちゃ駄目です!!」


 ぼんやりとした思考の中でアリスの声が聞こえ、俺はゆっくりと意識を手放した。


 拝啓、母さん、父さん――人の体というのは不思議なもので、時折本人の意思とは関係なく防衛本能が働いたりする。こんかいなんか、まさにそれ……クロの造り上げた暗黒物質ベビーカステラ。俺は――あまりの不味さに意識を手放した。







 ベビーカステラを食べて気を失った快人を見て、バツの悪そうな表情を浮かべるクロムエイナ。そんな彼女にアリスが猛然と喰ってかかる。


「ちょっとクロさん!? カイトさんどっか行っちゃいましたよ!? なに入れたんすか!!」

「え、えっと……まずは『ゴールデンフロッグの肉』と……」

「どんな顔してベビーカステラにカエルの肉ぶっこんだんすか!? 悪魔ですか貴女!!」


 今回ばかりは完全にアリスの言葉が正論であり、クロムエイナはしゅんと小さくなって正座をする。

 その姿を見て大きなため息を吐いた後、アリスは快人をソファーに運ぶ。


 そんな騒動の中、ただ一人……アイシスだけは、我関せずといった感じでキッチンに向かい、可愛らしい弁当を作っていた。

 丸い形の容器に、色鮮やかで美味しい料理を並べ、中央には可愛らしいハートのマークを作る。


「……カイト……喜んでくれるといいな」


 クロムエイナが新作ベビーカステラを思いついたことで発生した朝の騒動。ゲテモノベビーカステラを作るクロムエイナと、それを阻止しようと奮闘するアリス。

 その結果は……二人を気にすることなく、快人の弁当を作っていたアイシスの一人勝ちとなった。





朝の料理対決


クロ……ベビーカステラの『悪魔』

アリス……料理に関しては常識人ポジ

アイシス……大天使

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― 新着の感想 ―
[良い点] カイトの彼女さんたちほとんどの人が何らかの点でネジぶっ飛んでるからなぁ
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