シロさんは相変わらずだった
早々に慌ただしい事になってはいたが、改めて時の女神との対談が行われる。
俺達の前には水晶で出来た様な透明感のある豪華なテーブルが用意され、時の女神に促されそこに座ると即座に俺達の前に紅茶が用意される。
「どうぞ、カイト様、リリア様」
「ありがとうございます」
「え? あれ? あ、ありがとうございます」
相変わらずの早業、以前見ている俺はともかくリリアさんやはりというか戸惑っていて、その姿がどこか微笑ましい。多分バーベキューの際の俺の姿を見て、アハト達も同じ感想を抱いたのだろう。
「……おい、貴様……何だこれは……」
そんな事を考えていると、時の女神が怒りを押し殺す様な声を上げ、そちらを見てみると……時の女神の前には、ジョッキ? いや、もはやピッチャーと呼べるサイズの容器が置かれており、そこには白い液体が並々と注がれていた。
見た感じ牛乳の様に見えるんだけど、あのサイズはとんでもない。というかもはや完璧嫌がらせである。
「なんですか? 折角飲み物を用意して差し上げたと言うのに……まぁ、貴女の絶壁に対して効果があるかは甚だ疑問ではありますが」
「……叩き潰すぞ貴様」
「出来るのでしたら、ご自由に……」
また喧嘩始めようとしてるよこの二方!? どんだけ仲悪いんだ!!
「……」
「……」
「あの、お二方とも……話が進まないんでその辺にしてください」
「……凄いですカイトさん。何でその空気に切り込めるんですか……」
再びドンパチ始められては溜まらないので牽制の言葉を発すると、分かってくれたのか二方とも睨みあう視線を外して席につく。
リリアさんが何やら感動した様な目をこちらに向けてる。これでまたハードルが変な方向に上がったりしないだろうかと不安になるが、ともかく今は話を進めなければ……
「そうであったな、すまん。では改めて、此度は我の急な招待に応じさせ、手間をかけたな。リリア・アルベルト、ミヤマ・カイト」
「い、いえ、今回はこうして時の女神様とお話しできる機会を設けて頂き、光栄の至りに存じます」
「そう固くならずともよい。呼びだしたのは此方、貴様等は言ってみれば客人に当たる。楽にして構わん」
「は、はぃ!?」
尊大な物言いながら、時の女神の声にとげとげしさは無く、どこか穏やかにも聞こえる。ただしアインさんに話しかけてる時を除く……
それに対するリリアさんは、もう分かりやすい位にガッチガッチに固くなっており、背筋は伸び切って肩は小刻みに震えている。クロと初めて会った時と似た様な感じだ。
「まぁとは言っても、此度貴様等に尋ねたかった事の大半は、既に解決したのだがな」
「「え?」」
「以前貴様等に声をかけた理由は、ミヤマ……貴様から只ならぬ圧を感じたが故だったのだ」
「圧……ですか?」
「うむ。ともすれば、我をも上回るかもしれぬ気配。その正体に関しては、『ソレ』が来た時点で分かった。成程、冥王の魔力の欠片か……なれば、あの圧にも納得できよう」
どうやら時の女神が俺に対して興味を持っていたのは、以前遭遇した際に俺からクロの魔力を感じたかららしい。
だけど、クロの魔力の欠片ってのはどういうことだろう? パッと思い浮かんだのは、以前クロから貰った魔水晶の付いたネックレスだが……そのネックレスは一度リリアさんに預けており、返却されたのはクロがリリアさんの屋敷を訪ねた後。少なくともあの時点では所持していなかった。
「しかし、奴は変わらんな……相変わらず、世界のあちこちをフラフラしていると見える」
「まぁ、それがクロム様らしさですからね」
「……ふ、違い無い」
自由奔放という言葉が本当によく似合うクロの事を思い浮かべたのだろう、俺やリリアさんは勿論、アインさんと時の女神も軽く苦笑を浮かべ、場の空気が少し穏やかになる。
そのまま時の女神は今回の勇者召喚に関して、いくつかの事をリリアさんに尋ねつつ、今回のイレギュラーが発生した経緯を話し合っていった。
「やはり原因は1000年使用してきた魔法陣に、大量の残留魔力が溜まっていたが故の暴走か……うむ、問題無かろうな。当初の読み通り我等の方で調整を行い、送還も問題無く行えるだろう」
「そうですか、それは、安心しました」
中盤から俺は全く話についていけなくなっていたが、どうやらリリアさんと時の女神の話は上手く纏まったらしく、両者ともどこか安堵した様な表情を浮かべていた。
そしてリリアさんと時の女神はそのまま、今後について細かな打ち合わせとでも言うのだろうか、何やら専門用語的なものが飛び合う会話を始め、アインさんが時折それに突っ込みを入れる。
そして俺は完全に会話から外れたと言うか、もう何を話してるんだかよく分からない状態で、完全に置いてけぼりになっている。
この空気はアレだ、学校とかのグループ学習で他のメンバーが盛り上がってるのを一人寂しく見てる状態。孤独感が半端じゃないよ。
しかし会話に参加しようにも、残念ながら俺の知識では不可能と言っていい。今話してる魔法陣の魔力効率が云々ってのもさっぱり分からない。
お願いだから、誰か教えてくれないかな?
(召喚魔法陣は空気中の魔力を時間経過と共に取りこみますが、今回は複数人の送還となる為、外部から別手段で魔力を補充する必要があるのでその効率についてですね)
ああ、成程――って、待て待て……なんだ今の? 何で俺が心の中で考えた疑問に、声が返ってくるんだ?
まさか、あまりの孤独感により新たな力に目覚めてしまったのか!?
いやでも、何か今の声は非常に聞き覚えがあった気がする。
(異世界の人間は孤独感で能力に目覚めるのですか?)
もしそうなら世のぼっちは皆超能力者だよ。
てかやっぱり聞き覚えがある。というか、この抑揚が一切ない独特の喋り方は……もしかしなくても、シロさん?
(その通りです)
うん、やっぱりそうだった。というか何、当り前の様に脳内に直接語りかけてきてるんだこの方!? てか、そんな事出来るの!?
(出来ます)
ホント何でも出来るんですね貴女……まぁ、それはともかく、久しぶりって程でもないけど、こんにちはシロさん。以前はとても高価な紅茶をありがとうございました。
(快人さんもお元気そうでなによりです。哀愁漂う背中を見て以前教えて頂いたぼっちという言葉を思い出しました)
何で余計な感想付け足した!? というか何でこのタイミングで話しかけて来たの!?
(いえ、何やら当初は主題として呼ばれていた筈なのに、いつの間にか話についていけなくなり、時折相槌を打ちながら紅茶を飲むだけになってしまっているのが見えたので、暇を持て余している様ならお話しでもと思いまして)
再会するなり滅茶苦茶心をザクザクえぐってくるんだけどこの女神!? そんな客観的な情報聞きたくなかったよ……
ま、まぁともかく、シロさんが解説してくれるのなら……この訳の分からない会話にも、少しはついていけ――
(祭りに参加するとの事でしたね。やはりこの時期ですとエルフ族の祭りですかね)
うん。分かってた……シロさんがクロとは別の意味で自由な方だと言うのは、もう以前の語らいで嫌というほど分かってた。
マッハで話が脱線したのを感じ、俺はもう内心諦めながらシロさんとの会話? を続けていく。
拝啓、母さん、父さん――話についていけなくなくなって困ってたのは確かだけど、やっぱり――シロさんは相変わらずだった。