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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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番外編~静空のオズマは語らない~

ごめんなさい。昨日は家に帰ってすぐ寝てしまいました。
出来れば今日の朝に更新したかったんですが、続きを執筆する時間は無いので……二日ぐらい前に衝動的に書いた番外編を掲載します。

本当は六王祭終わった後で掲載する予定だったんですが、まぁ、今日の更新までの暇つぶしにどうぞ。

オズマを書いてる時に、ついナイスミドルへの熱い思いがあふれた結果、一時間で出来あがった番外編です。


 アルクレシア帝国首都。大通りの端にひっそりと立つ小さな喫茶店。
 カウンター席と二つのテーブル席しかなく、お世辞にも広いとは言えない店内には店主と一人の客だけ。

 ボサボサの黒髪に無精ひげ、シワだらけでだらし無い灰色のトレンチコートの男性……オズマは、カウンター席に座り、のんびりとコーヒーを飲んでいた。

「……ん~やっぱりここのコーヒーはいつも美味しいねぇ~」
「ありがとうございます……ってそれはいいんですけど、おじ様? ひげぐらい剃ったらどうなんですか?」
「いや~あはは、おじさんは面倒臭がりでね」
「……もぅ」

 カウンターに立つ130㎝ほどしかない小柄な少女……ドワーフ族である店主は、父親の代からの常連であるオズマにやや呆れた口調で話しかける。
 その言葉を聞いて、バツが悪そうに髪をかきつつ、オズマはのんびりと言葉を返す。

「いや~それにしても、本当に腕が上がったね」
「まだまだお父さんには敵いませんけどね」
「う~ん。前の店主には前の店主の、お嬢ちゃんにはお嬢ちゃんの良さがあるよ」
「そんなこと言って、おじ様本当に味分かってるんですか?」
「いや、あはは……一本取られたね」

 普通の客に対してであれば無礼な口調だが、オズマと付き合いの長い少女にとってはいつも通りだ。
 オズマは苦笑を浮かべつつ、ぼんやりと自分以外に客の居ない店内を眺める。

「……経営、大変かい?」
「……まぁ、嘘でも儲かっているとは言えませんけど、赤字ってほどじゃないですよ。おじ様みたいなもの好きな常連さんも居ますしね」
「そっか……おや?」
「え?」

 早くに両親を亡くし、小さな体で店を切り盛りしている少女を心配するように告げるオズマに、少女は明るい笑顔を浮かべて答える。
 その言葉に優しげな微笑みを浮かべようとしたオズマだが、直後になにかの気配を感じ取ったのか入口の扉へと視線を向ける。
 それに釣られて少女も視線を動かすのとほぼ同時に、店のドアが荒々しく開かれ、数人の柄が悪そうな男が入店してきた。

「……また、貴方達ですか……」
「へへへ、交渉にきましたよ。ねぇ、店主さん?」
「何度来られても、この店を手放す気はありません! ここは父から受け継いだ大切な店です!」
「それはそれは、しかしねぇ……女手一つじゃ大変でしょ? 『なにが起きるか分からない』ですしねぇ」
「っ!?」

 下卑た笑みを浮かべる男性を見て、少女は少し怯えた様子で後ずさるが、それでもキッと強い目を男たちに向ける。
 一触即発……そう表現していいほどの、ピリピリとした空気……それを破ったのは、カップが地面に落ちる音だった。

「おおっとっ!?」
「おじ様!? だ、大丈夫ですか?」
「あちゃ~こぼれちゃったよ……」
「待ってください! いまタオルを……」

 コーヒーの入ったカップを落とし、大きな染みの出来たコートを見て、情けない表情を浮かべるオズマ。
 ……その姿に毒気が抜かれたのか、それとも人目のあるいまの時間帯を避けるつもりなのか……男は軽く舌打ちをしてから背を向ける。

「ちっ……また来ますよ」

 吐き捨てるような言葉と共に手下らしき者たちを連れて、男は店から出ていった。
 少女から受け取ったタオルで染みを拭きつつ、オズマはその背中をいつも通りの表情で見つめる。

「もぅ! おじ様、気を付けないと駄目じゃないですか……」
「あはは、いや~ごめんごめん。つい手が滑ってね……それにしても、ずいぶん荒々しいお客さんだったね~よく来るのかい?」
「……ええ……悪い評判ばかり聞く商会に雇われた『地上げ屋』ですよ。この土地が欲しいそうです」
「ふ~ん。どこにでもいるもんだね、そういうのは……大丈夫かい?」
「大丈夫です! この店は、お父さんが大事にしてた店ですから、誰が来たって手放す気はありませんよ」

 小さな体で気丈に振る舞う少女だが、その肩は小さく震えていた。
 しかし、オズマはそれに気付かない振りをしつつ、ポケットから硬貨を取り出してカウンターに置く。

「そっか、いろいろ大変だとは思うけど、頑張ってね。困ったら大人を頼るんだよ?」
「こ、子供扱いしないでください! 大丈夫です!」
「ははは、そうかい? それは余計なお世話だったね」
「……ありがと――って、おじ様!? 待ってください! これ、金貨じゃないですか!? おつりを……」
「ああ、割っちゃったカップ代だよ。気にせず受け取っときな……」
「いやいや、それにしても多すぎますって!?」
「じゃあ、また来るね~」
「あっ、ちょっ!?」

 少女の抗議は無視して、緩く手を振りながらオズマは店を後にした。







 すっかり日が落ち、月明かりに照らされた裏路地。例の喫茶店からほど近いその場所には、今朝がた喫茶店を訪れた地上げ屋の男とその手下が集まっていた。

「……へへへ、本当にやっちまうんですか?」
「ああ、あんな小さな店に長い時間なんてかけてられるかよ」
「それで、体に交渉するってわけですかい……楽しみですね」
「なんだ? てめぇ、あんなガキみてぇな体の女がいいのか? まぁ、好きにしろ。あの女はこれから『行方不明』になるんだから、持ち帰りたきゃ持ち帰れ……ただし、捨てる時はちゃんと処理しろよ?」
「へへへ、分かってますよ」

 いやらしい笑みで話しかけてくる手下に答えながら、男もニヤリと笑みを浮かべる。
 そう、彼等は力づくであの喫茶店を奪うことに決めた。店主はドワーフ族の少女一人、彼等にしてみればどうにでも出来る相手……。
 その考え自体は間違いではない。確かにあの少女には男たちの暴力に抗う術はない……そう、あの少女には……。

「う~ん。おじさんは、そういうのあまり好きじゃないかな?」
「なっ!?」

 裏路地に静かに響く声。男たちが慌てたように視線を上げると、その先には小さな……煙草の火が見え、オズマがゆっくりと姿を現した。

「おじさんさ、頑張ってる子が結局暴力にやられちゃうような……そんな、バッドエンドは嫌いなんだよね。やっぱり、幸せなハッピーエンドがいいよね~」
「だ、誰だテメェは!?」
「う、う~ん。おじさん、結構有名なつもりなんだけど……いや、あのお嬢ちゃんもそうだけど、なんで誰も気づいてくれないのかな? 覇気かな? やっぱり覇気が足りないのかな?」
「……ちっ、おいテメェら! その邪魔なオヤジをさっさと始末しろ! 騒ぎになったら、面倒だ」

 飄々とした様子で話すオズマに、男は苛立ちながら舌打ちをして、手下に指示を飛ばす。
 もちろん、男はオズマを見逃す気など無かった。見られてしまった以上、始末する……それは、本当に……愚かな選択だった。

「死ね!」
「こらこら、そんな気軽に死ねなんて言うもんじゃないでしょ……っと」
「なぁっ!? がはっ!?」

 一人の手下がオズマに向けて湾曲刀を振り下ろすが、オズマはゆっくりとした動きで体を逸らして、その一撃を軽々と回避する。
 しかも、それだけではない。オズマは男の手下が振り下ろした……剣を握る手に自分の手を添え、クルッと捻るように回転させる。
 たったそれだけで、手下の体は縦に回転し、背中から地面に叩きつけられた。

 異世界の日本では合気と呼ばれる技術。相手の力を利用したその流れるような一撃は、美しさすら感じるものだった。
 オズマは背中を強く打ち付けて悶える男の手下を一瞥し、口から煙草の煙を吐く。

「……やめといた方がいいんじゃないかな? おじさん、結構強い……」
「くそっ! なにしてやがる! さっさと始末ねぇか!」
「お~い、年長者の話はちゃんと聞こうね……」

 男の怒声と共に、複数の手下が一斉にオズマに向かう。右と左から同時に振られる湾曲刀、オズマはその刀を指で摘み、軽く引き寄せる。
 そして体勢が崩れて前のめりになった二人の男の首筋に、軽く手刀を落として意識を奪い、続けて迫る刃の腹を掌で弾いて受け流す。

 次々に迫る男の手下をのんびりと眺めつつ、オズマは口元に小さく笑みを浮かべた。
 見る人が見れば、それはあまりに無謀な光景。男の手下は精々十数人……それではどうにもならない。








「ひっ、ぁっ……」
「おじさんはさ、こう見えて結構優しいよ? 別に殺したりはしないから、安心して欲しい」

 気を失い地面に横たわる十数人の配下を見つつ、男は怯えた表情でオズマを見つめる。
 オズマは優しげな微笑みを浮かべたままだったが、その灰色の瞳は深く鋭い威圧感を放っていた。

「けど、うん。ちょっと、おじさんのお願いを一つ聞いてほしいかな」
「お、おね……がい?」
「うん。いや、大したことじゃないよ。『君に今回のことを依頼した相手』に、おじさんちょっと話したいことがあるんだよね。だから、ね? 案内してくれるかな?」
「……ぁ、ぁぁ……ぅぁ……」

 月明かりだけの薄暗い路地、男の目の前に居るのは圧倒的な強者……選択肢など、男には用意されていなかった。









 窓から朝の日差しが差し込む喫茶店。そのカウンター席には、いつものようにオズマの姿があった。

「……というか、おじ様?」
「うん?」
「なんで、コート新しくしたのに、シワだらけのままなんですか!?」
「あ、あはは……いや~、一纏めにして放り投げてたのが悪かったのかなぁ……」
「もぅ、相変わらずだらしないですね」
「あはは、手厳しいね」

 のんびりとした穏やかな会話を楽しみつつ、オズマは煙草を取り出して火をつける。
 その様子を呆れながら眺めていた少女は、ふと思い出したような表情を浮かべて口を開いた。

「そういえば、おじ様。前にうちの店を寄こせって言ってた商会なんですけど……なんでも、不正の証拠が見つかったとかで解体になったらしいですよ。お陰でうちに来てた地上げ屋も、来なくなりました」
「そうなのかい? まぁ、後ろ暗いことをしてればいつかそういうことになるよね」
「ええ、ひと安心しました」
「うんうん、良かったね。やっぱり、頑張ってる子には運も味方してくれるもんだよ」
「って、なんで頭を撫でるんですか!? 子供扱いしないでくださいよ!! 私はもう20歳なんですよ!」
「あはは、おじさんから見れば、まだまだ子供だよ……コーヒー、おかわり」
「もぅっ……」

 リスのように可愛らしく頬を膨らませ、コーヒーを淹れに行く少女を、オズマは穏やかな微笑みを浮かべながら眺める。

 オズマは、なにも言わない。地上げ屋の男たちの顛末も、その後に行った商会との『交渉』も……恩着せがましく、己の功績を語ることはない。
 なぜなら……。

「はい、コーヒーのおかわりです」
「ありがとう。うん、やっぱりここのコーヒーは美味しいね」
「ふふふ、当然ですよ。だって私が真心を込めて淹れて……って、だから! 頭を撫でないでくださいよ!!」

 この、いつもと同じコーヒーの味こそが、彼にとってはなによりの報酬だから……。



こういうイケてるおやじキャラが、マジで好きです。
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