誇らしかったよ
パフォーマンスを行う。クロがそう告げて、最初に動いたのはマグナウェルさんだった。
広場に向けて伸ばしていた首を戻し、ゆっくりと天に向ける。
『オォォォォ!』
空気が割れるような凄まじい咆哮が響くが、俺達の居る場所に衝撃波などは届いてこない。おそらくクロたちが障壁を張ってくれているのだろう。
しかしそれでも、マグナウェルさんの咆哮は空気どころか大地まで揺らすようで、ビリビリとした感覚が伝わってきた。
そして、会場となる都市からある程度離れた場所……かなり遠くの大地が隆起し、この都市を囲むような巨大な山脈を形成する。
マグナウェルさんと同じぐらい巨大な岩の山脈は、遠目に見ても数千メートル級……それをたった一声で作りだしたマグナウェルさんの力に、集まった人達が驚愕する。
しかし、当然と言えば当然だが、それだけで終わるわけではない。次にクロの周囲に漆黒の魔力が集まり、まるでオーケストラの指揮者のように、クロが両手を上げると……都市を取り囲むように現れていたドーナツ状の山脈が、一斉に上空へと浮かび上がった。
「……す、すごい……詠唱も魔法陣も無しで、あんな大質量を……」
唖然とした様子で呟くリリアさんの声が聞こえたが、そちらに視線を向ける余裕はなかった。
山脈がかなり高くまで上がったのを確認し、メギドさんが紅蓮の炎を宿した右腕を、天に向かって突き出す。
するとその拳から空を焼き尽くすような炎の竜巻が放たれ、巨大な爆発と共に浮遊していた山脈を粉々にする。
なんてすさまじい火力と、そんなことを考えるよりも早く、いつの間にか爆発の中心……爆煙を押しのけながらアイシスさんが出現していた。
そして、アイシスさんが舞うように体をクルリと一回転させると、粉々になった山脈の破片……だけでなく、いまだ煌々と燃え盛っている『炎までも凍りつき』、上空に膨大な数の氷塊が出現した。
巨大な氷塊がゆっくりと落下してくるのを視界に捕らえ、その巨大な氷の雨によって地上が地獄絵図になるんじゃないかという考えが頭に浮かんだが……そうはならなかった。
都市を囲むように『三本の樹』が現れると、恐ろしいほどの速度で伸びた枝が、まるで意思を持つように落下していた氷塊を受け止めた。
それを行ったのは間違いなくリリウッドさん……世界樹に勝るとも劣らない三本の巨大な樹は、リリウッドさんの力がいかに強大かを示しているようにも見えた。
そして仕上げとばかりに、黒いローブに身を包んだアリスが高く跳躍する。
そして、アリスの体がノイズが走るようにブレ……視界を埋め尽くすほどのとてつもない数の分身が現れた。
本体が操作するなら十万の分体を作り出せるとは、先程聞いた台詞だが……実際に目にすると圧巻の一言だった。
アリスの分身たちは流星の如く縦横無尽に木の枝を走り抜け、再びひとりに戻ってクロたちの元へ戻ってくる。
……時間にしてほんの数秒。たったそれだけで……景色は激変していた。
都市を取り囲む三本の樹は、『色とりどりの氷』で出来た飾りにより、豪華で美しく飾り付けられていて、その三本の樹を『炎を閉じ込めた氷』がリングのように繋いでいた。
そして三本の樹には『人』『魔』『神』と、この世界の言葉がそれぞれ樹が見込まれている。
なるほど、三本の樹は三つの世界……炎を閉じ込め煌くような光を放つ氷のリングは、三つの世界が繋がっていることを示しているのか……。
口にするだけならば単純かもしれない。しかし、都市を丸ごと囲むような飾り……それを簡単に作り出してしまうとは、やっぱり六王とは凄まじい存在なんだと思う。
あちこちから感嘆や驚愕の声が聞こえてくる中で、再びクロが口を開いた。
「……三つの世界に友好条約が結ばれてから、今年でちょうど千年。三界は寄り添い合い、助け合って歴史を刻んできた。ちょうど千年という節目の年に、こうして第一回目の六王祭を開催できたこと、ボクたちは誇りに思う。そして、また千年……ううん。永遠に、親しき隣人たちと手を取り合う未来が続いていくことを願うと共に……ここに、六王祭開催を宣言する!」
瞬間、割れんばかりの完成が広場を包み込んだ。
「すげぇ、すげぇよ!」
「……一瞬で、地形そのものすら変えちまった……流石六王様!」
「ああ、そんな凄い六王様が、俺達を親しき隣人って呼んでくださったんだ。俺達も恥ずかしくないようにしねぇとな」
「ええ! 力じゃとても敵わないけど、人族には人族の、魔族には魔族の、神族には神族の長所があるわ。互いに助け合えるように頑張りましょう!」
「おう、もちろんだ!」
あちこちからクロたちを称える言葉と、友好条約を誇りに思うような言葉。そして当り前のように、助けられるだけじゃなく、助け合おうと告げる声が聞こえてくる。
ああ、本当に、この世界は……いい世界だ。皆卑屈にならず、前を見て自分に出来ることを当り前のようにやろうとしてる。
それは本当に難しいことのはずだけど……人族、魔族、神族、あちこちで笑い合いながら歓声を上げる美しい光景は、この世界に生きる数多の種族たちが……姿形は違えど、親しき隣人同士であることを示していると……そんな気がした。
拝啓、母さん、父さん――改めてこの世界に来れてよかったと、心からそう思った。心が一つになるような温かい空気。そこに少しずつながら、自分も加われているんじゃないかと、そんな風に思えることが……なんだか、すごく――誇らしかったよ。
シリアス先輩「あま……くない? あれ? あれれ? いい話じゃないか……い、いや、私は騙されない! これは罠だ! 絶対罠だ!!」




