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全然仲良くないんだけど!?

 火の月13日目、この世界に来て2週間が経った。初めの1週間は本当に驚きと戸惑いの連続で、瞬く間に過ぎていったように感じる。

 ただ、やはり人間は環境に適応する生き物であり、未知の世界での生活にも段々と慣れて馴染んできた。

 

 それでもやはり変化はある。特に大きな変化と言えば、簡単なものではあるが魔法が使える様になった事だろう。

 クロの指導を受けた俺は楠さんや柚木さんより早く魔法が使えるようになり、現在は魔力を魔力のまま行使する無変換魔法に関しては基礎――手のひらサイズの物を浮かべたり程度なら出来る様になった。

 ちなみに楠さんと柚木さんの二人は、クロが作成した魔法入門の本を見ながら現在も自分の魔力を認識する練習をしている。リリアさんの見立てでは、あと1週間もすれば使用できるようになるらしい。

 クロの書いた魔法入門の本は、リリアさん曰く『これを魔法学園に持って行ったら革命が起きる』というレベルで凄まじいものらしく、お陰で俺達三人は異例の速度で魔法習得に進めている。


 それ以外は比較的平和と言えば平和と言っても良い。

 ただ、リリアさんはクロが訪れて以降、非常に忙しそうにしているので少し心配ではある。

 以前クロより提案を受けた、リリアさんの気分転換と俺達の観光を兼ねてお祭りに参加するという案も既にルナマリアさんに伝えてあり、ルナマリアさんも賛成してくれ、現在丁度良さそうな祭りが無いか探してくれているところだ。


 そしてそんなリリアさんに訪れるもう一つの大イベント……これに関しては俺も他人事ではないが、時の女神との対談も明日に迫っている。

 指定された場所は以前祝福を受けに訪れた神殿で、もう既に先方からの事前連絡は受け取っており、俺の参加も、まぁ何と言うか予想通り許可された。

 ちなみに楠さんと柚木さんにもそれとなく参加しないかと聞いてみたんだが、絶対嫌だと力強い返答を頂いたので、俺とリリアさんの二人だけで参加することになっている。


「とは言っても、不安は不安だよなぁ……」

「うん? なにが?」


 魔法の練習の為に目の前に中身の入ってない湯呑みを浮かべながら呟くと、ソファーに寝転んでたクロが上半身を起こしながら尋ねてくる。


「いや、明日時の女神との対談があるんだけど……どうなる事かと……」

「クロノアちゃんと?」

「うん。名前は知らなかったけど……」


 すげぇよ、流石仮にも冥王。世間に知られてない筈の最高神の名前も当り前の様に知ってる。しかもちゃん付けで呼んでるし……


「大丈夫じゃない? クロノアちゃん喋り方は偉そうだけど、人族にも寛大だし、変な事にはならないと思うけど?」

「そうなんだ……いや、まぁそれでも凄い相手と会う訳だし、今回はクロの時みたいに元から知ってる相手でも無いから、緊張はするよ」

「ふむふむ、じゃ、アイン連れてく?」

「え? 何でアインさん?」


 そう今回の時の女神との対談とクロがリリアさんの屋敷を訪れた件、その二つで決定的に違うのは俺が時の女神の事をロクに知らないという点……クロの時はまだ心に余裕はあったが、今回は本当にどうなるか分からない。

 そんな不安を口にすると、クロは思いがけない言葉を返してきた。


「確かアインはクロノアちゃんと仲良かったと思うから、連れていけば話がしやすいんじゃない?」

「そうなの!? 確かにそれなら、凄く心強いけど……急な話だし、アインさんの都合とかは大丈夫なのかな?」

「たぶん大丈夫だと思うよ。ちょっと待ってね……アイン~明日カイトくんにと一緒に神殿に行ってあげてくれない?」

「畏まりました」

「うぉっ!?」


 クロが虚空に向かって呟いた直後、いつの間にか俺の真横にアインさんが居て返事を返していた。

 え? なんなの? 高位魔族ってのは、皆こんな心臓に悪い現れ方するの?

 そんな驚愕している俺に対し、アインさんは特に気にした様子もなく綺麗な角度でお辞儀をする。


「カイト様、御無沙汰しております」

「あ、アインさん……いつの間に……」

「主の呼びかけに即座に応じるのは、メイドとして当然の嗜みです」

「……」


 やっぱりこの方の語るメイドは、俺の知ってるメイドとなんか違う。

 しかし、まぁ……アインさんは何だかんだで凄く頼りになる方だし、時の女神とも仲が良いらしいから、同行してくれるのは本当にありがたい。

 明日の事は不安だったけど、これなら一安心かな?


 そう、この時はそう思っていた。しかし、俺はもう少しちゃんとここで確認しておくべきだった。アインさんと時の女神の関係についてを……



















 一夜明けてまだ日が昇ったばかりの早朝、俺とリリアさんは再び豪華な神殿の前に足を運んでいた。

 今回の対談の日程は周囲に漏れぬ様に時の女神が注意を払ってくれたみたいで、時間帯がかなり早い事もあって神殿の周りには殆ど人影はなかった。

 そして入り口にて先に到着していたアインさんと合流する。


「クロムエイナ様より話は伺っております。本日はよろしくお願いします。アイン様」

「こちらこそよろしくお願い致します。リリア様、カイト様」


 アインさんと簡単な挨拶を交わしてから、神殿の受付へと足を運ぶ。

 流石に事前に話はしっかり通っている様で、リリアさんが名前を告げるとすぐに神官は俺達を案内してくれる。


「でも、本当に助かりました。アインさんが来てくれて、心強いです」

「お役に立てるようなら私も光栄な限りですが……何故、私が同行することになったのでしょう?」

「……え? えと、クロから時の女神と仲が良いって聞いたんですが……」


 歩きながら話しかけると、アインさんは心底不思議そうに首を傾げており、その様子に若干の不安を感じる。


「……仲が良い? 私と『アレ』がですか? はて……私にそういった認識はありませんでしたが、クロム様が仰られるのでしたらそうなのでしょうね」

「……え?」


 あれ? 何か思っていた反応と違う気がする。アインさんは本当に心底不思議そうにしてるし……本当に仲が良いんだろうか?

 アインさんの受け答えに不安がどんどん大きくなってきたタイミングで、一際大きな扉の前に辿り着く。

 神官の方は扉に向けて手をかざした後で、一礼して俺達から離れ、少しして静かな音と共に数メートルはあろうかという巨大な扉が開く。

 中は非常に広い聖堂の様な大広間で、中央に確かな存在感を纏いながら時の女神が立っていた。


「来たか、此度は呼びだす様な形になって、すまなかっ……」


 扉が開くと時の女神は俺達の方に赤と青のオッドアイを向け、微かに微笑みを浮かべながら言葉を発し――それは途中で表情と共に固まった。

 モデルの様な体系で背の高い時の女神に見下ろされる様な形で沈黙が訪れ、言い様の無い居心地の悪さを感じながら、次の言葉を待つ。

 時の女神は驚いた様な表情をしばらく浮かべた後、何故か苦虫を噛み潰す様な表情に変わって呟く。


「……何故、貴様が……」


 一瞬俺に対して言っているのかと思いビクッとしたが、時の女神の視線は俺では無く、俺の隣にいるアインさんに向けられていた。

 そして明らかに怒気を含んだ様子で、嫌悪感を込めた瞳で睨みつける。


「豆粒の様な女が入ってきたので、どこぞの『ゴミ』が紛れ込んだかと思うたら、よりにもよって貴様か……アイン」

「おや? これは失敬、私とした事が……あまりに凹凸が無いので、ついつい部屋の中央に『石柱』でもあるのかと思いましたが、貴女でしたか……クロノア」

「……」

「……」


 あれ? 何か空気が可笑しいぞ? 仲良しなんじゃないのこの二人……全然そんな感じしないんだけど!?

 そのままアインさんは静かに足を進め、同時に時の女神もアインさんに向かい、部屋の中央付近で二人が睨みあう様な形で対峙する。

 正直状況が飲み込めない俺は慌ててリリアさんの方を向くが、リリアさんも全く同じ状態らしく青い顔で首を横に振っている。


「……久しぶりに会ったと思えば、相も変わらず忌々しい……この場で以前着かなかった決着を付けても構わんぞ?」

「ほう、最近の神は自殺願望があるようですね。構いませんよ? お望みであれば、死への旅支度、お手伝い致しましょうか?」

「……」

「……」


 静かに告げられた言葉と共に、両者の間に火花の様なものが見えた気がした。

 いや、これなんか、ヤバくない? ちょっと、クロ、どうなってんだこの状況!? 全然話が違うじゃないか!? 

 一色即発、そんな言葉がピッタリの空気の中、直後にアインさんと時の女神、両者の立っていた位置が入れ替わっていた。

 瞬きをした訳でもないのに、まるで映像が切り替わったかのように両者は向かい合わせの状態から背を向け会う形に変わっており、何故か時の女神の方がプルプルと怒りを表す様に震えていた。


「……だから、貴様! 我が『停止させた時間』の中を平然と動きよって、時の法則をなんだと思っている!!」

「これは異な事を、私はメイドです。メイドとは常に刹那の時間を戦い、主の為に尽くすもの……この程度、メイドであれば誰でも出来る事です」

「出来る訳無かろうがたわけ!! そんな訳の分からん理論で、貴様の様な化け物が量産されてたまるかっ!?」

「メイドを縛る事が出来るのは主のみ、真のメイドなら主以外の何物にも縛られぬもの……時間さえ自在に操るのは、メイドとして当然の嗜みです」

「そんな嗜みなぞあってたまるか!! その訳の分からんメイド万能理論を止めいっ!!」


 正直今回に限って言えば、全面的に時の女神に同意である。というかむしろ良く言ってくれたと拍手を送りたいぐらいである。

 しかし本当にこの状況は……どうして、こうなった?


「貧乳神は、理解力が乏しくて手を焼きますね」

「今、我の胸の大きさは関係なかろうが!! というか、貴様も大して変わらんだろうが!」

「いえ、私の方が確かにサイズは上です。メイドである私の目は誤魔化されません」

「身長は豆粒みたいなものだがな……」

「……」

「……」

「「死ね! 駄神(腐れメイド)!!」」


 拝啓、母さん、父さん――クロに勧められ、アインさんに同行してもらったんだけど……アインさんと時の女神――全然仲良くないんだけど!?








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― 新着の感想 ―
[良い点] すまん(汗)この39話でwwwwクロノアちゃん♬︎ 好感度爆上がりやわ♬︎♬︎♬︎♬︎ 超ド級型超次元性能メイドは元から面白かった♬︎ のですがwwwwww 超ド級型超次元性能メイドの基本…
[一言] 一色即発→一触即発 かな
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