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ある意味チート能力かもしれない

 クロに指摘され自分の体を見てみるが、魔力は本来目に見えるものではない為外見的な変化は感じられない。

 ただ、視覚以外では確かに変化を感じられた。クロの魔力を疑似的に纏っていた時よりはずっと希薄で、今の今まで気付かなかったが、確かに自分の体が何かを纏っている様な感覚がある。


「確かに言われてみれば、何となく魔力を感じる様な気がする」

「うんうん。まだ体が馴染んでないから少し違和感もあるだろうし、まだ上手くは動かせないと思うけど……2日位経てば感覚的に魔力を動かせるようになるよ。そうしたらいよいよ魔法が使えるよ」

「おぉ……」


 確かにクロの言う通り、自分が魔力を纏っている感覚はあるが、それを動かしたりは出来ない。いや正確には、出来る気はするんだけど、実際に上手く動いてくれないと言う感覚だ。

 クロ曰くこれはまだ魔力を纏う状態に体が慣れていないせい、言うならば赤ん坊が自分の足で立てるようになったばかりの状態で、ここから徐々に自分の魔力を操作できるようになっていくらしい。


「……そう言えば、ちょっと面白い話なんだけどね」

「うん?」

「異世界から来た子って、環境が違う世界で育ったからか、少し特殊な魔法が使えたりするんだよ」

「特殊な魔法?」


 ついに魔法を使うスタートラインに立てた事に感動していると、クロが微笑みながら気になる言葉を発した。

 異世界から来た人間は特殊な魔法が使える、何かしらの特殊な技能を持っている……確かにそれは、召喚物の王道とも言える。


「うん。例えば初代勇者って言われてる『ヒカリちゃん』は、魔力の物質化……魔力を剣や盾、正確には鉱物に変える事が出来た。ボクも含め魔族にも似た様な事が出来る子はいるけど、魔力を炎とか水に変えるのに比べて、鉄とかに変えるのは凄く魔力消費が大きくて、人間の魔力量じゃ普通は使えない筈なんだけど、ヒカリちゃんは少ない魔力消費でそれが出来たんだ」

「ふむ……」

「しかもヒカリちゃんはその魔法に関してだけ、術式――魔法陣を必要としなかった。物質化は高度な魔法だからね。高位魔族位じゃないと術式省略なんて出来ない筈なんだけど、ヒカリちゃんは魔法を覚えたての頃からそれが出来たみたいだよ」

「それって初代勇者だけが特別だったって訳では無くて?」


 つまるところ初代勇者は本来であれば高位魔族クラスの力が無いと使えない筈の魔法を、高位魔族よりも上手く使う事が出来たと言う事らしい。

 ただそれだけでは異世界人だから出来たのか、初代勇者だから出来たのかはハッキリしない。


「うん。他にも過去の勇者役の子で、元の世界に帰らずこの世界に残った子が何人かいたんだけど、その子達も特殊な魔法が使えたんだよ。他の魔法はからっきしなのに、爵位級魔族並の転移魔法が使える子が居たり、魔力量が凄く少ないのに、水属性だけだけど大魔法を行使できる子が居たり、それぞれ違ったけど……総じて、本来人間って種族では使えない魔法を使う事が出来てたよ」

「って事は、俺もなにか変わった魔法が使えるって事?」

「うん。可能性は十分あるよ。魔力に目覚めてみて、何か『不思議な感覚』は無い? こんな事が出来そうとか、今までと感覚が違う部分があるとか……」

「……そう言えば……」


 クロに問いかけられ、俺の頭に浮かんだのは今朝方とつい先ほど感じた不思議な感覚。何故か天候の変化が確信に近い予感で分かったあの出来事……

 それをクロに説明してみると、クロは顎に手を当てて何かを考える様な表情を浮かべる。


「天候の変化が分かった? う~ん。予知系……にしては限定的すぎるし、天候操作……天候を変えれてる訳でもない……そう言えば、カイトくんは『シロの祝福』を……もしかして……」


 クロはそのまま小さな声で呟き、少しして何か思い至った様でこちらを向く。


「カイトくん、ちょっと試してみて良い?」

「え? あ、うん」

「じゃ、ちょっとごめんね」

「ッ!? ぐっ、うぁ……」


 何か――おそらく俺の魔法に関して試したい事があると告げたクロの言葉に頷くと、クロは俺の方に手を向け、直後に俺の体をとてつもない圧力が襲う。

 例えるならそれは周りの空気が全て鉛か何かに変わった様で、身体がピクリとも動かない。

 クロをしているのか分からないが、身体が全く動かないと言うのは予想以上にキツイ……


「……カイトくん、その状態で身体を動かせる?」


 無茶を言う……こんな石の中にでも閉じ込められた様な状態で、身体が動かせる訳……いや? 何かさっきより重い感覚はしないし、頑張れば何とか動かせそうな気もする。

 クロの言葉を受け、身体を動かそうとしてみる。初めは全く動かなかったが少しすると、かける圧力を弱めてくれたのかコンクリートで固められた様な状態から、硬い泥の中でもがく程度には圧力が弱まり少しだけ身体を動かす事が出来る様になった。

 そんな俺の様子をクロは静かに見つめ続ける。


「……」

「ッ!?!?」


 直後全身に寒気が走った。

 それを何と表現すればいいかは分からないが、とてつもなく嫌な感覚。全身に鋭利な刃物を突き付けられたかのような――いやそれすらも生温い圧倒的な恐怖。

 静かにこちらを見つめる金色の瞳と目があった瞬間、飲み込まれる様な深い闇が頭を埋め尽くす。


――殺される。


 一瞬浮かんだその感覚と共に、頭に過去の出来事が次々浮かんでくる。

 両親と共に過ごした思い出、両親を事故で失った時の事、それからの色あせた日々、この世界に来てからの事……

 それが走馬灯であると理解した直後、全身を襲っていたその絶望的な感覚が消え、俺の体は力を失い膝から崩れ落ちる。

 ロクに力の入らない体は、そのまま重力に引かれて床にぶつかる――直前で抱きとめられた。


「ごめんね。カイトくん。怖かったよね?」

「……クロ?」


 崩れかけた俺の体を抱きとめ、安心させるように優しい声で話しかけてくるクロからは、先程の様な恐怖は感じず、いつもの様に温かく安心出来る雰囲気に戻っていた。

 何が起こったのかよく分からない。頭もクラクラするし、上手く思考が回らない。


「カイトくんの力を確かめる為に、少しだけ魔力に殺意を込めたんだ。本当にごめんね」


 優しく俺の頭を撫でながら、クロが謝罪の言葉を口にする。

 少しだけ殺意を込めたって……それだけで殆ど心が折れかけるって、とんでもないな。流石冥王と言うべきか何と言うべきか……


「大丈夫? どこか痛かったりはしない?」

「……なんか、頭がクラクラする」

「高密度の魔力で圧力かけたから、魔力酔いしちゃったんだろうね……ちょっと休めば良くなるよ」


 クロがそう告げると俺の体がフワリと浮かび上がり、ベットに移動する。そして同じくベットに移動したクロの膝に頭が乗せられ、膝枕をされる形で寝転がる。

 クロはそのまましばらく俺を落ち着かせるように頭を撫でながら、穏やかな声で語りかけてくる。


「本当にごめんね。でも、お陰でカイトくんがどんな力を持ってるのかは分かったよ」

「……そうなのか?」

「うん。カイトくんは周囲の魔力を凄く鋭敏に読み取るみたい。それこそ魔力に込められた『微弱な感情』すら感知する程だよ。魔力を使えるようになってさらに鋭くなったみたいだけど、たぶん今までも無意識に読みとってたんじゃないかな?」

「魔力に込められた感情?」


 優しく囁く様な言葉は、心に安心を与えてくれ、段々と霧がかかった様になっていた思考が元に戻ってくる。


「うん。魔力って使用者の感情の影響を結構受ける物なんだ。敵意の籠った魔力は他者を威圧したりするし、その逆に安心感を与えたりもする。カイトくんはその魔力に籠った感情に人一倍敏感みたいだね。こっちの世界に来てから感じた事はない? この人は話がしやすいなとか、逆にこの人とは話がしにくいなとか、それは無意識に相手がカイトくんに向けてる感情を、魔力から読みとってたんだと思う」


 どうやら俺は他人の魔力を読みとる力が優れていると言う事らしい。

 確かに言われてみれば今までもそう言った感覚はあった。リリアさんの屋敷にいる使用人の人達でも、ジークさんの様に話しやすいと感じる人も居れば、何となく話しかけ辛いと感じる人も居た。

 それはどうやら雰囲気や気配を感じ取る様に、俺自身が魔力に込められた感情を無意識の内に読みとっていたからという事らしい。

 成程、クロの傍にいると不思議と安心するのは、彼女が俺に向けてくれる好意的な感情を読みとっていたからって訳だ。


「つまり俺は、感知系の魔法に適性があるって事?」

「う~ん。ボクの予想だと、たぶん感知だけじゃ無いかな……」

「うん?」

「シロと『まともに会話』が出来たのもそうだし、さっき最初にボクが高密度の魔力で圧力をかけた時、カイトくんちょっとだけど動けたでしょ? アレ普通の人間には無理だから」

「え?」

「アレ殆ど魔力での拘束みたいなものだからね。人間の魔力じゃ普通は少しも動けない筈なんだけど、カイトくんはボクの魔力に敵意が籠ってないのを『感知』して、少しずつ『適応』しようとしてた」


 そう言えばシロさんもそんな事を言ってた様な気がする。確か『その適応力は才能と言えるかもしれない』だとかなんとかって……それはもしかしてこの事を指してたんだろうか?

 さっきの石の中に閉じ込められた様に体が動かなかったものに関しても、クロは別に途中で力を弱めたりした訳ではないらしく、俺の方が適応した事で動けたらしい。


「天候の変化が分かったのも、空気中の魔力を読みとったんだと思うけど……それが出来たのは『シロの祝福』のお陰かな?」

「え~と、つまりどういう事?」

「う~んまぁ、面白い力だねって事だよ。使い方次第だけど本当に面白い事が出来るよ。例えば……」


 そのままクロは俺が持つ力について、彼女なりの予想を聞かせてくれた。

 魔力を感知して適応する魔法……呼び名を付けるなら感応系魔法を言った所かな? 正直クロの挙げてくれた例はとんでもなく、本当にそんな事が出来るのかは半信半疑ではあるが、確かに変わった魔法かもしれない。


 ところでこれ、俺いつまで膝枕されてるんだろう?


「うん? カイトくんが好きなだけ……このまま、お昼寝しても良いよ?」

「……」


 非常に魅力的な提案である。というか、正直今朝早く起きた事も関係してるのかもしれないが、この心地良い感覚のせいでうとうとしてきた。

 魔力酔いとか言うもののせいか、頭がクラクラするのは治ったとはいえ疲労感はあるし、ここは甘えてしまう事にしよう。


 拝啓、母さん、父さん――ぼっちだった俺は、異世界では他人の感情を読みとるのに優れているみたい。しかも、クロの説明を聞く限り――ある意味チート能力かもしれない。

 


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