開催地へと到着した
光の月23日目。六王祭も明日に迫り、俺達は今日現地に移動することになっている。
開催地には直通のゲートがあり、各界のゲートから転移することができる。そして各界のゲートまでの移動に関しては、マグナウェルさんの手配した飛竜便にて無料で送迎してもらえる。
もっともリリアさんの屋敷からゲートまではさほど遠いわけでもなく、馬車でもすぐにつく距離なのだが……リリアさんの強い希望で飛竜便での移動となった。
俺達の知り合いの参加者のうち、エデンさんは当日に現地入り、ジークさんの両親……レイさんとフィアさんは、リグフォレシアから来るので現地で合流になっている。
リリアさんの屋敷に住むメンバー以外では、ルナマリアさんの母親であるノアさんが一緒に向かう。
俺達の迎えには、なんとファフニルさんが来てくれた。凄まじい体躯を誇る巨大なドラゴンだが、ファフニルさんクラスになるとある程度体の大きさも変化出来るらしく、屋敷の庭に合わせたサイズで来てくれた。
「お久しぶりです。ミヤマ殿」
「こんにちは、ファフニルさん。今日はよろしくお願いします」
「お任せを……」
久しぶりに会ったファフニルさんと挨拶をして、さっそく移動する。まぁ、とは言っても、そこまで遠くないのでほんの数分の移動ではある。
うん、やっぱ飛竜便で移動する必要はなかったと思う。
「……か、感動です。竜族でありながら伯爵級、超古代真竜のファフニル様に運んでいただけるとは……」
……まぁ、リリアさんが嬉しそうなのでよしとしておこう。
六王祭の開催地は魔界の島だと聞いていたけど、辿り着いたその場所は圧巻の一言だった。
それは王都にも匹敵するほど巨大な六王祭を開催する為だけに作られた都市……遠目にマグナウェルさんの巨体が見え、あの位置まで都市が続いていると考えると……本当に凄まじい大きさなのが予想できる。
豪華な装飾が施された巨大な門の前に辿り着くと、そこではキャラウェイさんが柔らかい微笑みを浮かべながら待っていた。
「お待ちしておりました。ミヤマ様……改めて、本日ご案内を務めさせていただくキャラウェイです」
「こんにちは、キャラウェイさん。急にお願いしてしまってすみません」
「いえ、光栄です……ミヤマ様の御一行は、全員お集まりですか?」
う~ん。当り前に俺の一行とか言ってるけど、アルベルト公爵家御一行とかではないのかな? いや、まぁ、確かに招待状のランクとしては俺が一番上みたいなんだけど……なんかむずむずする。
あと、関係ないことだけど……これで全員かと尋ねてきた時、キャラウェイさんの長い尻尾が「?」の形になってた。アレって無意識なのかな? だとしたらなんか可愛い。
「いえ、後二人合流する予定なので……ちょっと待ってもらって大丈夫ですか?」
「かしこまりました。では、そのお二方が合流されてから、ご案内をさせていただきますね」
そう言ってキャラウェイさんは微笑みを浮かべる。気のせいか、以前会った時よりも表情が柔らかい気がした。
拝啓、母さん、父さん――いよいよ六王祭も明日開始。やはりそうと力を入れているみたいで、凄い規模のお祭りになりそうでいまから本当に楽しみだ。ともあれ、俺達は――開催地へと到着した。
穏やかに言葉を交わす快人とキャラウェイを見ながら、ルナマリアはポツリと呟いた。
「……いったい、どういう過程を経たら、以前一回会っただけの女性が……次に会った時に『大好きオーラ全開のメスの顔』で現れるんですか?」
「……快人さんなので」
「……快人先輩ですから」
「なんというか、その一言で納得できてしまうのがミヤマ様の恐ろしさですね」
ルナマリアの呟きに、葵と陽菜が呆れた表情で答える。
そう、彼女達は気付いていた。キャラウェイが快人に向ける視線が熱っぽいことに……というより、快人と話している時『尻尾がハートの形になっている』ことに……。
「……ふむ、ご主人様の崇高さを見抜くとは、あの高位魔族……なかなか見所がある」
「ええ、それもこれもご主人様の偉大さゆえですね」
「流石、ご主人様……です」
ルナマリア達とは対照的に、アニマ、イータ、シータの従者三人は、どこか誇らしげな表情で頷いていた。
そんな三人に向かって再び呆れた視線を送った後、ルナマリアは自分の母親に向き直る。
「……いいですか、お母さん。ミヤマ様にあまり近付いちゃ駄目ですよ。見ての通り、一瞬で籠絡されますから……」
「うん? やっぱり、ミヤマさんは素敵な殿方ですね~」
「お母さん……私の話聞いてます?」
「ええ、あんなに沢山の女性に愛されるミヤマさんは、本当に素敵ですねってことですよね?」
「い、いや……た、確かに、ミヤマ様の男性としての魅力は疑う余地もありませんが……」
一夫多妻が常識であるこの世界において、多くの女性に好意を向けられるというのは、その男性の価値にも直結する。
多くの恋人を持つ男性こそ素晴らしいという考えは、非常に一般的なものであり、その点に関してはルナマリアも否定が出来なかった。
ただ、やはり彼女としては、自分の母親が快人に非常に好意的なのは複雑らしく、微妙な表情を浮かべていた。
「ですよね? あの人は優しい人でしたけど……妻が私一人というのは、『少し情けなかった』ですね」
「なんで軽やかにお父さんを貶してるんですか!? いや、私もお父さんに肩入れする気はありませんし、少し情けないというのには同意ですが……お母さんはもう少し気にして下さい!」
「うん? あの人のことは、いまでも愛してますよ~」
「じゃ、じゃあ……」
「でも、ミヤマさんのような素敵な殿方と居ると、私の中の『女』が疼いてしまいますね」
「完全に『メスの顔』してるじゃないですかぁぁぁぁ!?」
日傘を片手に、うっとりと頬を染めながら快人を見つめるノアの目には、キャラウェイに負けず劣らずあつい熱が籠っていた。
「ルーちゃん、ルーちゃん」
「……なんですか?」
「ミヤマさんは、『舐める』のと『咥える』の……どちらが好きなんでしょうか?」
「それを聞いてどうするつもりなんですか!? アバンチュールですか? 旅行に来て一夜のアバンチュールするつもりですか!? 許しませんよ! 私は絶対に許しませんからね!!」
「……うん? ああ、そっか、ごめんなさいルーちゃん。お母さんの考えが足りなかったわ」
「……わ、分かってくれましたか……」
パンッと可愛らしく両手を叩いて微笑むノアを見て、ルナマリアは安堵の表情を浮かべ……直後にそれは粉々に打ち砕かれた。
「『ルーちゃんも一緒』がいいのね? 分かりました。ルーちゃんは初めてでしょうから、お母さんがちゃんと教えてあげますね」
「全然っ! 欠片もっ! 分かってないじゃないですかぁぁぁぁ!? リリ、リリィ!! 助けて!!」
「……い、一夜の……わ、私もそうした方が? で、でも、まだそういうのは……」
「そっちはそっちで、なにまんざらでもない顔してるんですかぁぁぁ!?」
助けを求めて振り返った先では、リリアが真っ赤な顔で人差し指をツンツンと突き合わせており、その様子を見て味方が居ないことを悟ったルナマリアは、涙目で絶叫する。
ただ、ルナマリアに一つ勘違いがあるとすれば……ノアは性行為に関して語っているわけではなく、血の飲み方に関して話しているということ……あわよくばこの六王祭の最中に、もう一度快人の血を飲みたかった。
指を切って血が出た際に、舐めとるのと指を咥えるのでは、どちらが快人にとって嬉しいかと、そういうことを考えていた。
もっとも、ルナマリアの危惧も決して的外れではない。
ノアにとって快人の血を飲むことは至上の喜びであり、血を飲むたびに快人への好感度はガンガン上がっている。
正直言って、すでに快人の方から求めてきた場合はそういった行為でも応じるレベルには好感度は高い。
ルナマリアの苦難は、まだまだ続きそうだった。
ルナマリア「以前会ったネコミミが、メスの顔で再登場したと思ったら、自分の母親がそれ以上にメスの顔してた……ツライ」
そんなルナマリアさんのキャララフを、活動報告にて公開しました。




