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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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閑話・キャラウェイ~失ったものと得たもの~



 爵位級高位魔族。それは、魔界において極一部の存在を指す言葉ではあるが、人界の貴族のように領地などを持っていたり、特定の国に属していたりするわけではない。
 実はこの爵位級高位魔族という言葉は『幻王・ノーフェイス』の手によって生まれ、魔界に浸透した。

 かつての魔界には通常の魔族と、一定以上の力を持った高位魔族という大雑把な呼称しか存在しなかった。
 それでは魔界の情報を管理する際に不便だと考えたノーフェイスは、高位魔族の中でも特に秀でた力を持つ者に対する呼称として、爵位級高位魔族という呼び名を作り、その圧倒的な情報能力によって瞬く間に魔界へ浸透させた。

 爵位級高位魔族の判断基準を知るのは、ノーフェイスと一部の腹心のみであり、その任命も幻王兵団が行っている。
 とはいっても、ノーフェイスにとってその呼称は管理上分類しやすくするためのものなので、別に任命式があったり記念品が贈られたりするわけでもない。

 ノーフェイスと一部の腹心により『基準以上の力を持つ』と判断された者の元には、唐突に幻王の配下が現れ、一言口頭で爵位級と判断されたことを伝えるだけ。
 しかし、その爵位級の呼び名は、実力主義の魔界において大きな力を持つ証明でもあり、一種のステータスとなっている。
 爵位級高位魔族になれば世界が変わるとさえ言われている。集めようとせずとも配下になりたがる魔物が集まってきて、富と名声が次から次へと舞い込んでくる。

 ゆえに、魔族の誰しも一度は爵位級高位魔族という称号に夢を見る。しかし、その称号を得ることができるのは、広く膨大な種族の居る魔界においては……本当に一握りの存在だけ。
 子爵級高位魔族・キャラウェイもまた、その選ばれた内の一人だった。

 彼女は本来それほど強大な力を持たない種族に生まれ、その種の歴史上類を見ないほどの才を生まれながらに持っていた。
 成長するにつれ彼女はメキメキと実力を上げ、ついにはその種族としては初めて爵位級に到達し、同族からは『英雄』と称えられ、惜しみない賞賛を与えられた。

 キャラウェイにとって種族の英雄という言葉は誇りであり、その名に恥じぬ存在であろうと奮起する指針でもあった。
 しかし同時に、爵位級高位魔族という地位は甘い蜜のような快楽を彼女にもたらす。多くの魔族が己の配下になることを望み、富も彼女の持ちに集まった。
 そして男爵級から子爵級へと上がると、与えられる甘い蜜はさらに増え、彼女は幸福の絶頂を味わった。

 彼女は確かに天才だった……天才……止まりだった。
 子爵級と伯爵級の間には、天才の中でもさらに少数の『怪物』のみが越えられる壁があり、キャラウェイはその壁を越えることは出来なかった。

 そこで諦めてしまえばよかったのかもしれない。己の分を知り、いま居る位置に満足できていれば……彼女が己の初心を見失うことはなかった。
 しかし至高の蜜を一度味わった心は、さらなる快楽を望んだ。伯爵級に辿り着けば、どれほどの幸福が己を待っているのだろうかと、そんなことばかりを考えるようになった。

 彼女は魔界の頂点に立ちたいなどと、大それたことを考えていたわけではない。己が生涯を武に費やしたとしても、六王には毛先ほども届かないことは理解していた。ただ、少しでもそこに近い位置に……もっと高い場所に昇りたかった。

 なにより皮肉だったのは、彼女は伯爵級という地位に『少しだけ届かなかった』ということ……それは裏を返せば、ナニカ一歩前に進める要因さえ手に入れれば、届くかもしれないということに他ならない。
 ゆえに、彼女は手を伸ばしてしまった……この世界には無い、己を飛躍させるための要員に……欲望のままに手を伸ばし……失敗した。

 ただ、彼女は『失敗して良かった』……失敗したからこそ彼女は、いまもまだ生きていることができている。
 もし彼女が快人の誘拐に成功していた場合、世界に混乱を招いたとして、即座にノーフェイスに首をはね飛ばされていただろう。
 そんなことにすら気付けないほど、当時の彼女の視界は狭まっていた。

 ……積み上げるのは難しくとも、失うのは一瞬。
 キャラウェイはその一件で全てを失った。彼女は六王に警告を受け、六王からの評価を著しく下げた。
 いわばそれは執行猶予のようなものであり……そんな彼女についていこうと思うほど、配下達の忠誠心は高くなかった。
 そのことを責めるつもりはない。仮に立場が逆だったとしたら、彼女もそうしただろう。それほどまでに、六王の存在は絶対なのだ。

 彼女の元から全ての配下が去り、同族達にさえ白い目で見られるようになった。種族の英雄から……種族の面汚しへ……転がり落ちるスピードは、思わず笑ってしまうほど早かった。
 そして、そうなってようやく……焼けつくような欲望から解放された彼女は、大粒の涙を流し己の行いを悔いた。

 同族達の英雄として、恥じぬ存在になろうと研鑽を積んだかつての己はどこに行ったのか? いつの間に自分は、こんなに醜い愚か者になり果てたのかと……。
 悔いたところで過去の過ちは消えない。落ちるところまで落ちた彼女には、もはや再起の芽などあるはずもなく、キャラウェイはソレを受け入れた。

 六王が警告付きとはいえ許している以上、表だって彼女を責める者は居なかったが、それでも嘲笑と蔑むような目は消えることはなかった。
 ソレは苦しく、辛かった……彼女には魔王・フィーアのように罪を全て受け止め、それでも歩き続けるほどの強さは無かった。
 何度も、何度も、過去の己を悔い、失ったものを嘆いて涙を流した。

 逃げ出してしまいたいほどに辛く苦しかったが、それでもなんの償いもしないというのは己で己が許せなかった。
 少なくとも、ことの被害者である快人に対しては……許されなくても一言、謝罪を行いたかった。

 六王祭の噂を耳にし、本祭への参加は認めないという条件付きでその手伝いをすることを許してもらい、嘆願して快人への謝罪の機会も与えてもらい、招待状を手に彼の元に訪れた。







 六王祭も間近に迫り、キャラウェイは会場となる地の清掃を行っていた。六王の配下でもない彼女に重要な仕事は与えられず、こうした雑用ばかりだが、彼女は一言の文句も言わずにソレを続ける。
 悪い意味で魔界でも有名人の彼女には、いやがおうなく奇異の視線が降り注ぐ。

 その中にはかつて己の配下で、いまは別の魔族へ鞍替えした者も含まれており、向けられる視線はとても冷たいもの……。
 そんな息苦しい空気の中で仕事を続けていた彼女の目の前に、突如一つの影が現れる。

「……少し手を止めろ、幻王様より言伝がある」
「ぱ、パンドラ様!? げ、幻王様から……は、はい……な、なんでしょうか?」

 現れたのは幻王の右腕、伯爵級最強と名高いパンドラであり、その言葉を聞いたキャラウェイは怯えた様子で背筋を伸ばす。
 自分の元に六王からの使者が訪れる……ロクな内容だとは思えなかった。もしかしたらなにかまた粗相をしたのだろうか? そう考えるのは他の魔族達も同じようで、侮蔑の混じった視線をキャラウェイにそそぐ。

 しかし、パンドラの口から告げられた言葉は、その場に居る誰もが予想しない内容だった。

「お前には、明日……来訪されるミヤマ様の道案内についてもらう。清掃の仕事は途中やめで構わないから、道をしっかり確認しておけとのことだ」
「……は? え?」

 それは本当にあり得ない内容だった。快人が六王にとって重要な存在であるというのは、多くの魔族にとっては周知の事実だ。
 その案内を……六王の配下でもなければ、罪人のごとき扱いのキャラウェイへ任せるなど、到底信じられる内容ではない。

「ま、待ってください! な、なんで私が……わ、私は……」
「ミヤマ様からのご指名だ。貴様に拒否権など無い、謹んで受けろ」
「……え? み、ミヤマ様が……私を……そんな……どうして?」

 確かに以前リリアの屋敷で謝罪を行った際、快人はキャラウェイを許すと告げた。しかしそれは、あくまで快人が優しいからであり、遺恨は多少なりとも残ると思っていた。
 そんなキャラウェイにとって、快人が直々に己を指名してきたというのは青天の霹靂と言っていい。

 しかし、衝撃的な展開はさらに続く。

「ああ、それをコレを渡しておく……」
「なっ!? こ、これは……同行者用のバッジ? な、なぜ……」
「ミヤマ様が貴様を同行者にと指名してきた。しかと礼を言っておくように」
「……なんで……」

 キャラウェイには快人の行動がまったく理解できなかった。なぜ、恨みこそすれ情を向けることなど無いはずなのに……。

「……ミヤマ様からの伝言をそのまま伝える」
「……は、はい!」
「『急に案内をお願いして申し訳ありません。あと、同行者として申請して事後承諾になったのも、勝手なことをしてごめんなさい。図々しいかもしれませんが『友人』として、キャラウェイさんにも六王祭を楽しんでもらえたら嬉しいので、迷惑でなければ受け取ってください』……以上だ」
「……あっ……ぁぁ……」
「では、詳細な時間は追って伝える。くれぐれも遅刻などしないように」
「は、はい……」

 必要なことだけを告げて去るパンドラを見送った後、キャラウェイは肩を小刻みに震わせ、目に涙を浮かべながら渡されたバッジを大切に両手で包みこむ。

「……こんな愚かな私を……友人と……あぁ……なんで、私は……こんなにも高潔な方に、あんな行いを……自分が恥ずかしくて、仕方ない……ありがとうございます……ミヤマ様……ありがとぅ……」

 大粒の涙を流しながら、ここには居ない快人への感謝を述べるキャラウェイ。
 彼女はまだ、気付いてはいなかった。快人からの言伝が、現在の彼女の立場を一変させる救いの妙手であることに……。

 そう、快人がキャラウェイを『友人』と呼んだ以上、彼女は快人の友人として認識される。
 そんな彼女を……『快人の友人』を貶せばどうなるか……それはもはや自殺に等しい行為。快人のそのたった一言が、白い目に晒されていた彼女を守る盾となる。

 ただし、いうまでもないことだが……快人本人はそんなことさっぱり考えておらず、ごくごく普通に伝言を頼んだだけである。
 快人の言葉が及ぼす影響に気付き、キャラウェイが『快人が自分を守るためにあえて言ってくれた』と誤解して、感動のあまり枯れるほどに涙を流し、快人への忠誠をそっと心に誓うのは……もう少し先の話である。



???「まさかここでポッ出のキャラに丸々一話!? ちょ、ちょっと、優遇しすぎじゃないですか? ネコミミがそんなにいいんですか? アリスちゃんだって着ぐるみ着ればネコミミですよ? ここは有能秘書的なポジションを確立させてきた、超絶美少女アリスちゃんの閑話にするべきじゃないっすかね?」
+注意+
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