もう間もなく開催される
光の月22日目。六王祭の開催日である24日目も近くなり、前日には現地入りする予定なので今日は最後の準備といった感じだ。
リリアさん、ジークさんとのデート兼買い物の際に、アリスに頼んだため服に関しては問題なく間に合うだろう。
あと持っていく物に関しても、普段から大半のものはマジックボックスに入れているので問題はない。
というわけで現在俺は、今朝届いた『バッジ』の確認を行っていた。
黒色で裏に特殊な魔法術式が書かれたコレは、六王祭において俺の同行者が身につける身分証明みたいなもの。
なんでも特殊な術式が組み込んであるらしく、偽造や複製はシロさんでもない限り不可能らしい。
同行者の人には明日の出発の際に手渡すとして、現在は申請の漏れがないかを確認していた。
「まぁ、いざとなったら私がちゃちゃっと作りますし、漏れてても大丈夫ですけどね」
「うん、助かる……そういえば、服は間に合いそう?」
「もう出来てますけど?」
「はやっ!?」
いつも通り唐突に話しかけてきたアリスに尋ねてみると、頼んでいた服は既に完成しているらしい。流石というかなんというか、仕事が早い。
なら、アニマたちには先にバッジと一緒に渡しておこうかな?
そんなことを考えていると、ふとアリスがメモ帳らしきものを取り出しながら口を開く。
「そういえば、カイトさん。現地には明日行くんですよね?」
「ああ、その予定だよ」
六王祭は七日間行われるが、その際に滞在する宿に関しては全て無料で提供されるらしい。ただし、招待状のランクによって泊まれる宿が決まっているとか……まぁ、一番下の宿でも普通の超高級宿ぐらいらしいけど……。
もちろん特定の日だけ参加というのも大丈夫らしく、その際は無料で送迎してもらえる。
ただし、俺が泊まるのは中央塔最上階……これはもう決定らしく、クロとかアイシスさんが張りきりまくっていたとか……もの凄く不安である。
「……では、その際に道案内を付けようかと思うんですけど……カイトさんも、そこそこ私達の配下に知り合いが居ますし、希望とかありますか?」
「あ~なるほど……う~ん」
六王の配下……アリスの口振りから察するに、クロの家族も含めてということだろう。確かにそこそこ知り合いはいる。ファフニルさんとかパンドラさんもそうだし、それ以外にも話した程度であればリリウッドさんの配下とかも知ってる。
しかし、う~ん。道案内……宿屋までの案内か。ファフニルさんは大きすぎる。パンドラさんは……まだよく知らないし、他もあまり話したことがない人が多い。なによりその人達は、リリアさん達にとっては初対面の相手が多い。
となると候補はクロの家族だけど……って、待てよ? そうだ! あの人が居るじゃないか!
「……キャラウェイさんは駄目かな?」
「ふむ……」
招待状を持ってきて、六王祭の説明をしてくれた猫耳の魔族、キャラウェイさん……彼女ならリリアさん達も知ってるし、六王祭の説明も丁寧で分かりやすかったし、色々説明もしてくれそうだ。
そう考えると最適な人に思えたんだけど、なぜか俺の言葉を聞いたアリスは微妙な顔を浮かべる。
「……えっと、なんかまずいこと言った?」
「いえ、ただ、キャラウェイさんですが……彼女『六王の配下』ではないんですよ」
「えっ!? そうなの?」
「ええ、彼女は六王の配下ではありませんし、六王祭に招待もされていませんので、そもそも参加資格はありません」
魔族の全てが、いずれかの六王の配下だと思っているわけではないが……キャラウェイさんは招待状を持ってきてくれたし、てっきり誰かの配下だと思ってたんだけど……。
「彼女は、まぁ、カイトさんも知ってる通り……カイトさんに認識阻害魔法をかけた犯人です」
「う、うん」
「その件に関して非常に反省してるみたいで、なんとか償いの機会をって申し出てきたので……雑用を任せてる感じですね。ただ、あくまで裏方のみ、六王祭には参加させないってことになってます。まぁ、清掃とかの雑用には使うかもしれませんが……」
「……そう……なんだ」
「カイトさん達に招待状を届けさせたのも、カイトさんに直接謝罪がしたいと志願したからですね」
もしかして、だけど……キャラウェイさんは、俺に認識阻害魔法をかけたことで、立場が悪くなっているんじゃないだろうか?
自業自得と言ってしまえばそれまでだが、当事者の俺としては真摯な謝罪をしてもらったし、実害があったわけでもないのでまったく気にしていないんだけど……。
なんとなく複雑な気分の俺を、アリスはしばらく見つめた後……ふっと微笑みを浮かべる。
「……じゃ、道案内はキャラウェイさんを回しますね」
「……いいのか?」
「というか、カイトさんの方こそいいんすか? 反省しているとはいえ、一度はカイトさんを誘拐しようとしたやつですよ?」
「お前は、実際に一回誘拐したけどな」
「あはは……」
苦笑を浮かべるアリスの表情は、仮面越しでも分かるほど柔らかく……「仕方がないなぁ」といった感じで、俺がもうどう言うか分かってるみたいだった。
「もう謝ってもらったし、全く気にしてない……というか、あの件があったからクロと出会えた。むしろ感謝したいぐらいだよ」
「……なるほど、了解です。じゃ、こっちで手配しておきますよ」
「うん、よろしく……ああ、後……もし出来るなら」
「はいはい。『カイトさんの同行者として六王祭に招待』すればいいんですね? こっちでバッジ作って渡しておきますよ」
「……ありがとう。アリス」
「いえいえ、このぐらいお安いご用ですよ……では!」
俺の考えは全てお見通しらしく、アリスは俺が欲しかった答えを告げて姿を消した。
うん、いや、本当に……アリスには色々助けてもらってばかりだし、近い内にまた美味しい食事にでも連れていこう。
拝啓、母さん、父さん――六王祭に行く準備も着々と進み、いやがおうにもワクワクしてくる。六王全員で開催するお祭りだし、相当の規模になりそうで、恐ろしくも楽しみだ。ともあれ、六王祭は――もう間もなく開催される。
いよいよ六王祭(という名のデート大会)が始まるよ。
シリアス先輩「………………」




