お金の使い道考えよう
服屋で偶然会ったジークさんと加え、俺にとっては変則的な男一人女二人のデートに移行することになった。
とはいえ先に服を決めてしまうところから……リリアさんは俺が勧めた物と合わせて、五着ほどの服を購入した。
そしてジークさんの方は……。
「むぅ……た、高い……」
「ジークさん? 難しい顔してますけど?」
「う~ん。六王様主催の祭りですし、失礼の無いようにと買いに来ましたが……やはり、貴族御用達だけあって、どれも非常に高価で……なかなか決意が……」
ジークさんが見ている服は、動きやすそうなズボンタイプの服。パッと見ると男性向けにも見えるが、色合いとか模様が可愛らしい感じだ。
そして値段は片方が5000R……50万円で、もう一方が7000R……70万円だ。どちらもこの店にある服の上下セットとしては安めらしい。
アリスに三着1000万円で頼んでいる俺自身の感覚が麻痺してしまっていて、一瞬安いと思ってしまったが、普通に考えれば服一着に50万は相当高い。
公爵であるリリアさんならいざ知らず、ジークさんにとっては中々手を出しにくい価格みたいだ。
ちなみにリリアさんが買った服は、どれも金貨単位……数百万である。コレで礼装程は豪華ではないというのだから、改めて貴族の凄さを思い知る。
……まぁ、アリスから買ってる俺の服も十分すぎるほど高価ではあるのだが……。
「ジークリンデ様、こちらの服など最新のデザインでお勧めですが?」
「……素敵なデザインですね。価格は……15000R!? え、遠慮しておきます」
なんというか、うん。俺の周りには「お金? なにそれ?」みたいなレベルの金持ちが多いせいか、ジークさんの庶民的な様子はやけに新鮮に見える。
しかし、いま店員が持ってきた服……薄い緑の模様で、ジークさんに似合いそう……。
「あの、すみません。その服、ジークさんのサイズに直してもらえますか?」
「……へ? か、カイトさん!? な、なにを……」
「折角の機会ですし、俺がプレゼントしますよ」
「でしたら、こちらのアクセサリーなども、この服と合っておりお勧めですが?」
「綺麗ですね……それもお願いします」
「カイトさんっ!? だ、駄目です! そ、そんな高価な物……」
俺が購入してジークさんにプレゼントすることを伝えると、ジークさんは大慌てで声をかけてくる。
「幸いお金は沢山ありますし、これと言って使う予定もありませんから……その服、ジークさんに似合うと思いますしね。俺はジークさんの恋人ですし、服ぐらいプレゼントさせて下さい」
「い、いえ、しかし……装飾品も合わせると30000Rと越えるんですよ!? そ、そんな高級品を……」
「あっ、リリアさんも、俺が選んだ服はプレゼントさせて下さい」
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
「無視っ!? リリも、なにであっさりと!?」
大慌てのジークさんとは違い、リリアさんは俺の提案に微笑みながらお礼を口にする。この辺りはやはり金銭感覚の差かもしれない。
「……カイトさんの個人資産は、並の貴族とは比べ物になりませんからね。カイトさん、現在の所持金はいくらぐらいですか?」
「え、え~と、細かく数えてはいませんが……『白金貨1500枚』ぐらいですね」
「せ、せん、ごひゃ……」
以前モンスターレースで稼いだ後も、色々とあって俺の手元にはどんどんお金が増え続けていた。
例えばオルゴール作りの際に、アイシスさんから大量に貰って余った宝石類……量がちょっと多く、マグナウェルさんの鱗とかもありマジックボックスの容量が不安だったので、売ることにした。
アイシスさんとの思い出ということでいくつかは自分用に残し、会うたびくれるマグナウェルさんの鱗と一緒に、アニマたちに処分を任せた。
その結果俺の手元には大量のお金が入ってきた。アニマたちに特別ボーナスを出してなお、まだまだ山ほどある……いい加減、真剣に使い道を考えたいところだ。
「……唐突に出てきて微笑みかけるな馬鹿」
そんなことを考えていると、どこからともなくアリスが現れて微笑みを浮かべていた。口元は笑っていても、目は完全に『捕食者』のソレだった。
そんないつも通りの馬鹿を手を動かして追い払いつつ、パクパクと口を動かしているジークさんに向き直る。
「というわけで、是非プレゼントさせて下さい」
「……う、うぅ……あ、ありがとうございます。このお礼はいつか必ず」
「気にしないでください。ジークさんにはいつも本当にお世話になってますから」
リリアさんから俺の所持金を聞いて、ジークさんも諦めてくれたのか、申し訳なさそうにお礼を言って俺の申し出を受け入れてくれた。
しかし本当に、俺がその服を着たジークさんを見たいから買うだけなので、全く問題無い……どころか非常にいい買い物だと思う。
何度も俺にお礼を言いながら、リリアさんと共にサイズ合わせに向かうのを見送り、ふと思い至る。そういえば、アニマたちはどうするんだろう? イータとシータはなんだかんだでちゃんと服を用意しそうだけど……アニマは……うん。絶対用意しない。
だってアニマはアリスから招待状を貰ってるのに、あえて『俺の同行者』として参加を希望したぐらいだし……まず間違いなくいつもの軍服だろう。
しかし、六王祭までもう時間がないし、いまからだと……間に合わないかもしれないな。
「……うん?」
「……」
そしてそこで再び登場するアリス。ニコニコと笑顔で、複数のデザイン画を手に持っている。
「……これと、これ、あと……これも」
「まいどあり~」
値段はそれなりに高価ではあるが、品質は期待出来るし、速度も圧倒的。
なんだかんだで、非常に役に立つ移動雑貨屋である……なんか最近本当に、俺専用になってる気がするけど……。
拝啓、母さん、父さん――遠慮しているジークさんを押し切る形で服屋での買い物を終えた。時間的には次は昼ごはんかな? クロのガイドで店を探しておこう。しかし、それはソレとして、本当にいい加減――お金の使い道考えよう。
次回予告:甘い
シリアス先輩「……」




