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どっと疲れたよ



 アリスにより俺の服選びは即座に終了し、俺は店員さんの勧めでお茶をいただきながらリリアさんを待つことになった。

 この店は貴族を主な客層にしており、服選びに時間がかかるというのはよくあることみたいで、開けたスペースにテーブルと椅子が複数ある。なんとなく車の販売店が思い浮かぶ感じだ……いや、車なんて買ったことないので完璧イメージでしかないが。


 柔らかい椅子に座ると、少しして先ほどとは別の店員が紅茶を運んで来てくれた。


「どうぞ、ミヤマ様」

「ああ、ありがとうござ……」


 差し出された紅茶を受け取り、女性店員の顔を見た俺は思わず驚いてしまった。名前を呼ばれたことにではない……間違いなくこの方はアリスの部下だろうから、俺の名前を知っているのは不思議ではない。

 俺が驚いたのは、この女性店員自体にだ。


 深いダークブルーの髪は、前髪だけ非常に長く流した髪で左目が隠れている。そして見えている方の目には、異常なほど濃い隈が出ていた。

 顔立ちは非常に整っていると思うのだが、灰色の瞳に深い隈、それに青白い肌も合わさって……もの凄く不健康そうに見える。


 が、しかし、俺が驚いたのはその容姿に関してでもない。いや、容姿にも少し驚いたが、それ以上に……。


「……あの、もしかして……『偽幻王』さん?」

「……驚きました。シャルティア様には遠く及ばぬとは言え、私も変装には自信があったのですが……」

「あっ、じゃあ、いまのその顔も……」

「いえ、これは『素顔』です」

「あ……そうですか」


 そう、この女性店員はアリスの代わりに二度、俺の前に姿を現した偽幻王であり……まさかこんなところで再会するとは思っていなかった。

 というか、こんなところにこの方が居て良いんだろうか? 明らかに、アリスの腹心……幹部クラスだと思うんだけど……。


 そんな俺の疑問を察したように、偽幻王さんは薄く上品な微笑みを浮かべて口を開く。


「この店に配置している者は少々位が低く、ミヤマ様にお茶をお出しするのに相応しくないと判断いたしまして、私が赴きました」

「そ、そうなんですか……わ、わざわざありがとうございます。えと……」

「シャルティア様の副官、名を『パンドラ』と申します。以後お見知りおきを……」

「は、はい。宮間快人です……え、えと、パンドラさん? その、た、体調が悪かったりはしませんか?」

「ああ、コレですか……」


 副官ということは、アリスの配下の中で一番上と思って間違いないだろう。

 う、うん……それは分かったんだけど、やっぱり滅茶苦茶不健康そうに見えて、つい深い隈に目がいってしまう。


「私はヘルナイトメアという種族でございます。この肌の色と目の隈は生まれつきですので、どうかお気になさらず」

「そ、そうでしたか……すみません」

「いえ、気を割いていただき光栄の極みでございます」

「え、え~と……」


 なるほど、体調が悪くてこうなってるんじゃなくて、元々こういう見た目の方なのか……。

 し、しかし、パンドラさん……なんか、あまりにも腰が低すぎやしませんかね?


「我々幻王兵団は、シャルティア様の主である貴方様へ絶対服従でございます。無論、私もミヤマ様の命とあらば、この身に代えても遂行する所存でございます。必要であれば、なんなりとお申し付けください」

「……は、はい。ご、ご苦労様です」


 確たる意思の籠った声でハッキリと前言した後、パンドラさんは口元に微かに笑みを浮かべるが……なんか見た目もあって少し不気味だ。

 エデンさんとはまた違った怖さというか、こっちは純粋にホラー映画みたいに怖い。


 というか、幻王兵団全員絶対服従って……それってつまりアレか? アリスみたいに「招集」とか言ったら、黒ずくめの方々が山ほど現れるってこと? なにそれ、怖い。

 そんなことを考えていると、いつの間にか俺の向かいの席に現れたアリスが、紅茶を飲みながら口を開いた。


「まぁ、カイトさんには私が付いているのでまったく問題はないっすけど……一応、そのパンドラさんは『公爵級に最も近い伯爵級』と呼ばれてますし、そこそこ役立ちますよ」

「そ、そうなんだ……いや、えっと……」

「ちなみに『暗殺』を最も得意としております」

「命じることありませんからね!?」


 そんな自信満々に暗殺が得意とか言われても、誰かを暗殺する予定なんてないし、今後もない。ちょ、長所アピールなら別の部分でお願いします。


「……『永遠の悪夢』を見せて、対象の精神を破壊することができます」

「……もうちょっと物騒じゃない感じのでお願いします」

「……『サイズは平凡ですが、美乳です』」

「その情報この場面で必要!?」

「ミヤマ様がお望みでしたら『夜のお世話』もお任せください」


 ちょっと、パンドラさん? 童貞にそういうこというのやめてもらえます? お願いする気がなくても、変に意識しちゃいますから……。

 だって確かに美女だし、青白い肌と目の隈も見慣れてしまえば、ミステリアスで妖艶と言えなくもない。

 いやいや、なに考えてるんだ俺は、一言に反応し過ぎだろ……。


「パンドラ……」

「はっ!」

「ちょっと、貴女には再教育が必要みたいなので……こっち来てください」

「は? いえ、しかし、まだ……」

「来 い !」

「は、はい! み、御心のままに……」


 パンドラさんの発言にドギマギしていると、アリスがやや不機嫌そうな声で告げる。


「あ、アリス?」

「すみません、カイトさん……この子ちょっと忠誠心が『イカレて』るんです」

「うん?」

「……パンドラさん、貴女にとってカイトさんは?」

「はっ! シャルティア様の主であり、私が『身も心も奉げ、永遠に愛し続ける』べき御方です!」

「……は?」


 なんかとんでもないこと言い始めたんだけど、え? なにこの方、もしかしてエデンさんみたいなタイプ?


「……いえ、私がカイトさんに従うように命令したんで……私への忠誠心をそのままカイトさんへも適用してるんでしょうね。なので、ちょっと再教育してきます」

「う、うん」


 珍しく疲れたように溜息を吐き、アリスはパンドラさんを引きずって去っていった。

 ……いや、えっと……なんでこの世界の実力者って、誰もかれも濃い性格してるんだろう?


「……頑張れ、再教育用分体アリスちゃん12号……カイトさんの貞操は、貴女の手に委ねられた」

「台無しだよ……あと、勝手に委ねんな」


 拝啓、母さん、父さん――服屋にてリリアさんを待つ傍ら、また新しい出会いがあった。偽幻王ことパンドラさん。見た目も特徴的だったが、性格も中々のもので、なんか――どっと疲れたよ。





不気味系美女のパンドラさん……アインといい、フィーアといい、六王の腹心は忠誠心がおかしい奴ばっかりです。

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[一言] 思い…出した…( ꒪꒫꒪)
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